第4話 サブリナママのクリームチーズケーキ・アゲイン その3


 ♠



「はぁ~、疲れた」

 額の汗をぬぐいながらシェリーが階段を登っていた。

 20キロも走ったせいで、全身びっしょりの汗だ。

 その汗を流したい一心で、エレベーターの到着を待たずに、階段を駆け上る事にしたのだ。

 元オーク人部隊タスクフォースのメンバーで、現在スポーツジムのインストラクターをしているだけに、抜群の体力を誇った。


「ただいま~」

 速くシャワーを浴びたい。


 襟元を開きながらドアを開けた。

 途端。

 目の前にドデカい人影を見た。

「おかえりシェリー」

 オスカルだ。

 そのオスカルの前に、膝立ちになったアンドレアがいた。

「おかえりなさい、シェリー」

「アンディにフランキー? フランキー学校は!?」

 大学で教鞭を執っているオスカルが、平日の昼間にいるのは珍しい。

「今日は、休講だっけ?」

 冷蔵庫を開いて、冷えたソーダーを取り出した。

 一気に飲み干す。


「開校記念日なんだ」

「ああ、だから休みなんだ。で、アンディは?」

「今日はお店休みだから……」

〈ウソだ〉


 ジトッ


 と、した眼でアンドレアを見た。

 振り向いたアンドレアが顔の前で両手を合わせて、ウィンクして返した。

〈ああ、もう!!〉


「で、なにやってんの?」

 アンドレアがオスカルの手を取った。

「オスカルにネイルケアをして上げてたの」

 フランクフルトソーセージより太いオスカルの指に生えた分厚い爪を、どうやって磨くんだろう。

〈目立てヤスリでも使うの?〉

 と、口にしそうになって、慌てて言葉を飲み込んだ。

「そうなんだ」

「でも、オスカーが嫌がっちゃって」

「オスカー?」

 オスカルが首を捻った。


「えっ、あっ、ごめんなさい。変に馴れなれしいわよね」

「僕は構わないよ。むしろ嬉しいかな」

「本当に。じゃあ、わたしのこともアンディって呼んでよ」

「え!?」

 2メートル半の巨体がオロオロした。


「僕がアンドレアを、アンディって呼ぶの」

「そう。お互いにオスカーとアンディって呼び合うの。素敵だと思わない!?」

「思うけど」

「思うけど?」

「ハンゾーもドニもアンドレアって呼んでるのに、僕一人アンディって呼ぶのは気安すぎないかな?」

「じゃあ、じゃあ。うちのお父ちゃんみたいに、アンって呼ぶのは?」

「えっ!? それもどうかな……」

〈あ~、甘いな~。空気が砂糖けのガムシロップみたいだ。――やってらんない〉

 自室に戻って着替えを取ると、ドアを開いて外に出た。



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