第4話 サブリナママのクリームチーズケーキ・アゲイン その4


 ♠



 トントン


 と、ドアをノックしたが返事が無い。

「ハンゾー入るよ」

 ドアを開いた。

 テレビは点けっぱなしだが、部屋のなかはシーンとしてる。

「ハンゾーいないの? ドニ!?」

 やはり返事は無い。

「アンディとフランキーがラブラブでさ、いたたまれなくて逃げて来たんだ。シャワー貸してもらえないかな?」

 ハンゾーの部屋をノックしてドアノブに触れた。

 鍵が掛けてある。

 出掛けてるのだ。

〈仕事かな?〉

 ドニの部屋。

 こっちは鍵も掛かってなければ、窓も開けっ放しで無人だった。

「だらしないなァ」

 窓だけ閉めた。

「困ったな」

 頭を掻いて、わきの匂いを嗅いだ。


「うへぇ~」


 舌をだして辟易へきえきとする。

「お風呂借りるよ。いいね!?」

 誰もいないはずなのに、どこからともなく、


『いいよ~』


 と、返事が聞こえてきた。

「よっし」

 用心のために鍵をしめて、と。

「おっ風呂、おっ風呂」

 スキップしながらバスルームへ向かった。



 ♠



「ぁ~、疲れた……、眠い」

 ドアの前に立ったハンゾーが、首を、


 こきっ、こき、


 と、鳴らして鍵を差し込みドアを開いた。

「だらしない」

 誰も観てないのに点けっ放しのテレビから、ドラマがたれ流しになっている。

 人魚の美人捜査官そうさかんと人間の検察医けんさついがコンビを組んで、難事件を解決する人気シリーズだ。 

 ドニが1話だけゲストで参加したのを覚えてる。


 確か死体役で・・・


〈あいつ、大喜びしてたな〉

「ドニー、ただいま~」

 ドニの部屋に向かって声を掛けたが返事は無い。

〈まだ、寝てんのか?〉

 テレビを点けたまま冷蔵庫を開いた。

 喰いかけのピザが・・・

 あった!!

〈よしよし、言いつけを守って棄てないでいたな〉

 レンジでチンして口に放り込む。

 部屋に戻って荷物を置いて、スーツを脱ぎ捨て、ふんどし解いて、耳に防水イヤホン突っ込んで準備完了。

 お気に入りのセイレーンジャズを大音量で掛ける。

「お風呂、お風呂、おっ風呂~」

 ドアを開いて、シャワーシールド解除。



「キャァァァァァァァ」



「きゃぁ?」

 赤い髪を泡立てた色白の女が、眼を怒らせてこっちを睨んでいた。

 肌理の細かい肌が、ぬけるように白い。

 その眩しいほどの白さに、ハンゾーの眼が釘付けになった。

 一方の手で大慌てで胸を隠し。

 もう一方の手で石鹸を握った。

「出てけバカァ!!」

「悪いッ!!」

 豪速球で投げつけられた石鹸が、



 コォォォォン・・・



 と、高い音を立てて壁に突き立った。

「ドニッ!! おいドニ!! お前な、前に約束しただろう。女連れ込む時ァ、表のドアノブに傘を掛けとけって」

 ドアを開いた。

 居ない。

「お~い、ドニ」

 ベランダを見た。

 居ない。

「どこだ~、ドニ」

 冷蔵庫を見た。

 居ない。

「怒ってないから出ておいで~」

「いないよ」

 バスルームを見た。

 バスローブを巻いた赤毛の女が、怒った顔でバスタオルを投げて寄越した。

「前、隠して」

 スッポンポンだった。

「悪い」

 慌てて腰に巻いた。



 ♠



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