第4話 サブリナママのクリームチーズケーキ・アゲイン その2
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入れ替わりの起きた当人同士は、微かな違和感を覚える。
だが、それだけだ。
あとは、それまで同様に普段通りの生活を送ることになる。
大きな変化がないからだ。
より大きな変化を起こす、入れ替わり現象もある。
サイフの中身が、自分の知らない内に減ってたり。
身に覚えのない入金がある場合は、十幾つかの差異世界を一気にジャンプしたという証拠だ。
お互いの世界に影響を与えるといったが、その影響はこうして起こるのだ。
顕著な違いが生じるのは、差異世界を3000ほど通り過ぎた辺りからだ。
ヒューマンの世界であるバース11922960から、バース1192651に転移すると、そこはハーフリングの世界となる。
これが大きな意味での隣り合った世界となる訳だ。
自力での転移は、ほとんど不可能な移動距離となる。
シェリーの元居た世界であるバース12790146と。
アラン先生のバース12796247の差異は、およろ6000。
アラン先生が口にした親戚という意味は、オークとバンパイアは、似通った世界の住人というぐらいの意味であろう。
「でも、近縁とはいえ、随分と違うよね。私たちバンパイアは吸血生物としての進化を選択し。君たちオークは肉食を選んだ」
「でも、似てる部分も沢山あるよ。夜目が利いたり、運動神経がよかったさ」
会計を済ませたシェリーが、意を決したように口を開いた。
「ね、ねえ先生」
「うん?」
「今日は、ボクで患者さん終わりでしょ!?」
木曜日は、午前中診療である。
「ああ、そうだね」
「この後、食事でもどうかな」
ちょっぴり上目遣い気味に、シェリーが訊いた。
アンドレアを真似して後ろ手に組んではいるが、そのせいでムッキムキに発達した胸が、
ドーン
と、前に迫り出した。
びっくりするほど似合ってないフリフリのフリルのキャミソールの下で、はちきれんばかりにパンプアッブしてる。
「せっかくのお誘いだけど……」
「え? ダメ!?」
「いや、そういう訳じゃないんだ。私達はほら」
「まだ、そーゆー関係じゃない?」
「いや、そうじゃなくて。シェリーからのお誘いは、凄く嬉しいんだ」
「ホント!!」
〈やった!!〉
「でも、その食事はね。私達バンパイアは血液食だから」
「血しか飲めない?」
「いやいや、そういう訳でもないんだ。マシキュランと恐竜に数十世代と遺伝子治療を受けたお陰で、固形物も食べれるようになったんだけど。それでも、その種族的な限界があってね」
「あまり、食べられない?」
「そう、そうなんだ」
マスク越しに乾いた笑いが返って来た。
「先日も、調子に乗って初めてガーリックステーキなんて食べたせいで、三日もお腹を下して、あっ!! レディに聴かせる話しじゃないね。失礼」
「じゃ、じゃあさ。食事はやめて、お酒なんてどうかな?」
なけなしの勇気を絞り出した。
「私達、アルコール類は全くダメなんだよ。炭酸もダメだし、コーヒー・紅茶もダメ。飲めるのハーブティーと、野菜ジュースぐらいかな」
「野菜ジュース?」
「そうそう。トマトジュースは人生最高の贈り物だね。あれは凄い発明だよ。ヒューマンには感謝しかない……」
歯科医院を出たシェリーが、この世の終わりを告げた預言者のような、深~いため息をついてメモ帳を開いた。
アラン先生×
と、大きなバツ印を付けて前を向いた。
大きく延びをして、アイウェアを掛けた。
「帰~ろっ」
歩道を全力で走るシェリーの姿があった。
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