第4話 サブリナママのクリームチーズケーキ・アゲイン その2


 ♠



 入れ替わりの起きた当人同士は、微かな違和感を覚える。

 だが、それだけだ。

 あとは、それまで同様に普段通りの生活を送ることになる。

 大きな変化がないからだ。

 より大きな変化を起こす、入れ替わり現象もある。


 サイフの中身が、自分の知らない内に減ってたり。

 身に覚えのない入金がある場合は、十幾つかの差異世界を一気にジャンプしたという証拠だ。

 お互いの世界に影響を与えるといったが、その影響はこうして起こるのだ。


 顕著な違いが生じるのは、差異世界を3000ほど通り過ぎた辺りからだ。

 ヒューマンの世界であるバース11922960から、バース1192651に転移すると、そこはハーフリングの世界となる。

 これが大きな意味での隣り合った世界となる訳だ。

 自力での転移は、ほとんど不可能な移動距離となる。

 シェリーの元居た世界であるバース12790146と。

 アラン先生のバース12796247の差異は、およろ6000。

 アラン先生が口にした親戚という意味は、オークとバンパイアは、似通った世界の住人というぐらいの意味であろう。

「でも、近縁とはいえ、随分と違うよね。私たちバンパイアは吸血生物としての進化を選択し。君たちオークは肉食を選んだ」

「でも、似てる部分も沢山あるよ。夜目が利いたり、運動神経がよかったさ」

 会計を済ませたシェリーが、意を決したように口を開いた。


「ね、ねえ先生」

「うん?」

「今日は、ボクで患者さん終わりでしょ!?」

 木曜日は、午前中診療である。

「ああ、そうだね」

「この後、食事でもどうかな」

 ちょっぴり上目遣い気味に、シェリーが訊いた。

 アンドレアを真似して後ろ手に組んではいるが、そのせいでムッキムキに発達した胸が、


 ドーン


 と、前に迫り出した。

 びっくりするほど似合ってないフリフリのフリルのキャミソールの下で、はちきれんばかりにパンプアッブしてる。


「せっかくのお誘いだけど……」

「え? ダメ!?」

「いや、そういう訳じゃないんだ。私達はほら」

「まだ、そーゆー関係じゃない?」

「いや、そうじゃなくて。シェリーからのお誘いは、凄く嬉しいんだ」

「ホント!!」

〈やった!!〉

「でも、その食事はね。私達バンパイアは血液食だから」

「血しか飲めない?」

「いやいや、そういう訳でもないんだ。マシキュランと恐竜に数十世代と遺伝子治療を受けたお陰で、固形物も食べれるようになったんだけど。それでも、その種族的な限界があってね」

「あまり、食べられない?」

「そう、そうなんだ」

 マスク越しに乾いた笑いが返って来た。

「先日も、調子に乗って初めてガーリックステーキなんて食べたせいで、三日もお腹を下して、あっ!! レディに聴かせる話しじゃないね。失礼」

「じゃ、じゃあさ。食事はやめて、お酒なんてどうかな?」

 なけなしの勇気を絞り出した。

「私達、アルコール類は全くダメなんだよ。炭酸もダメだし、コーヒー・紅茶もダメ。飲めるのハーブティーと、野菜ジュースぐらいかな」

「野菜ジュース?」

「そうそう。トマトジュースは人生最高の贈り物だね。あれは凄い発明だよ。ヒューマンには感謝しかない……」

 歯科医院を出たシェリーが、この世の終わりを告げた預言者のような、深~いため息をついてメモ帳を開いた。


 アラン先生×


 と、大きなバツ印を付けて前を向いた。

 大きく延びをして、アイウェアを掛けた。

「帰~ろっ」

 歩道を全力で走るシェリーの姿があった。



 ♠



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