第5話 ハイタワーマンション10階8号室 前編


 異世界♥F・r・i・e・n・d・S

 前回までは⋯⋯


「なんで呼んでくれないのよーッ!!」

「あ~~、アンディとフランキーがさ……」

「私は、サブリナ・マンデー」

「私は、サブリナ・チューズデー」

「あたしゃサブリナ・ウェンズデー」

 オスカルとアンドレアが喧嘩をし、ハンゾーがチーズケーキを2つ買って、シェリーの肌は白かった。


 

「ねえ。今回、私の出番はあるんでしょうね?」


 ルネさん。

 爪を出して凄むのはやめてもらって良いでしょうか。



 ♠



 雷鳴らいめいとどろきに、


 ビクッ、


 と、身体を震わせた少年が空を見上げた。

 夕暮れの迫る空に雨雲は無く。

 東の果てから、西の果てまで、濃紺から茜色に変化する、夢幻のグラデーションが続いているたけだった。

「変なの。あれ!?」

 星が瞬き始めた空に、黒い点があった。


 また雷鳴だ。

 今度はさっきよりも大きく長い。


 雷鳴は、この黒い点から聴こえて来るみたいだ。

「パパ」

 少年が叫んだ。

「空から、なんか降ってくる」

 倉庫から顔を出した黒ひげの男に、少年が抱きついた。

 大気が震え、倉庫の屋根がビリビリと音を立てた。

 黄金色の穂を着けた小麦が、空から舞い降りたAGドライバーの圧力に耐えきれず、地面にこうべを垂れた。

 合成革のブーツが無遠慮ぶえんりょに麦を踏んだ。


「久し振りだな、ホーク軍曹」


 サングラスを外した男が、言った。



 ♠



「ってのが、新作の冒頭ぼうとうらしいんだわ」

 ドニがふんぞり返って、そう言った。

「ガブリエル・ポートの新作の?」

「そうそう」

 ドニが嬉しそうに答えた。

「ホーク軍曹のスピンオフ?」

「そうそう」

 ドニが誇らし気に答えた。

「ドニには関係ないでしょう」

「それが、大違い」

「どう違う?」

「オレが準主役なんだ!!」

「お前が!?」

「ドニが!?」

 ハンゾーとオスカルが同時に身を乗り出した。


「なんだよ、なんか不満か?」


「だってお前、前作で死んだじゃん」

「死んでねえよ」

「死んだよな、オスカー」

「死んだ、死んだ」

 オスカルが激しく頷く。

「だから死んでねえって」

「いやいや、炎に包まれて、数十メートル吹っ飛んで、あれで死んでなきゃ奇跡だよ。そーなりゃ神様は廃業だ」

「だから奇跡が起きたのさ」



 ふふん



 鼻を鳴らしてドニがふんぞり返った。

 弓反ゆみぞりだ。

「奇跡だァ?」

「そうさ」

「どんな奇跡なの!?」

 右腕を差し出したドニが、手首に巻いた金属ベルトに触れた。

 途端。


 カチカチカチカチ


 と、細かな音を立てて、ドニに右腕が光沢のある生体金属に覆われた。

「おい、これ」

「いいだろ。最新の特殊メイクだぞ」

「勝手に持ち出したの?」

 呆れたようにオスカルが言った。

「んなわきゃねえだろ。監督の許可は貰ってるよ」

「ザル過ぎだな、ガブリエル・ポート」

「そんなだから、いっつも漏洩ろうえいするんだね」

「失礼なことを言うなよ。ポート監督は器が広いんだよ」

「それを言うなら器がデカいだ」

「それかふところが深いかだね」

「あ~、もう、うるせえな」

 ドニがせわしなく手を振った。

「で、その特殊メイクと、お前が死ななかった事となんのつながりがある?」


 フフン


 ドニが胸を張った。

「サイボーグ手術さ」

「サイボーグ手術だ!?」

「どーだ、驚いたか」

 ハンゾーとオスカルがお互いの顔を見合わせた。

「って、お前、粉々になって吹き飛んだろ」

 ハンゾーが映画のワンシーンを再現するように、身体を捻った。

「丸焦げになったよね」

 オスカルが激しくうなずいた。

「あの後、マシキュランの軍医ぐんいが駆けつけて、その場で再生手術をしたってストーリーなんだよ」


「その場でって⋯⋯」


 前作にマシキュランの軍医なんて1コマも出て来て無いし。

 よしんば居たとして、あの戦場で、その場でサイボーグ手術などできる訳がない。

「で、オレは右半身がサイボーグ化した戦士として蘇るのよ」

 ハンゾーが片手で顔を覆った。

「大丈夫かな、ガブリエル・ポート?」

「前のプロットも相当酷かったけど、今度のも相当無理があるよね」

「なんだよ?」

「いや、こっちの話し」

『ベリー賞候補だね』

『間違いない』



 ♠



 中編へつづく。

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