第6話 ドニとオンボロ自動車 その8


 ♠



「いくぜマイサン」

 ドニがアクセルを踏み込むや、

『オッケーパパ』

 と、ラッドロッドが答えた。

「かっ飛ばせ」

 ホイールスピン出盛大に白煙を上げたラットロッドが、タイヤをきしませながら加速した。

「馴染んじゃったね」

「馴染んだわね」

「どうしましょう」

 マナが両手を頬に当てて困っていた。


 プルル、プルル、プルル⋯⋯


 と、ルネの電話が鳴った。

「はい」

『ルネ!! これは一体どーゆー事だ』

「パパ」

 電話を耳から鼻してバッグに投げ込んだ。

「シメオン監督?」

 ルネが肩を竦めた。

「行きましょう。アンリミテッド・ウォーが始まっちゃう」

 ハンゾーと腕を組んだ。

「マナ、あなたも行くでしょ。ドニは放っておいて大丈夫だから」

「ハイ、ご一緒します」

「待ってよボクも行く」

 シェリーが階段を二段飛ばしで降りて来た。

「じゃあ、みんなで行きましょう」


「ねえ、こないだのハリス異世界映画祭のレッドカーペット見た?」

 ハンゾーとマナと腕を組ながらシェリーが訊いた。

「見た、見た。マチルダ・スワンも、ジェームズ・アイアンサイドも注目の的だった」

 ハンゾーが頷いた。

「アンディのスタジオも1年後まで予約で一杯だって、これでお家賃が貰えるわね」

「え、家賃取るの?」

 シェリーが驚いたように声を上げた。

「もちろん。だってアンディには天下のエミリア・ブランチャードがついてるのよ。絶対に失敗しないわよ」

「それも、そうだね」

「ポップコーンは何味にします? 塩、キャラメル、チーズ」

「キャラメル~」

 シェリーが手を挙げた。

「じゃあオレはチーズ」

「私はミックス」

「あ、その手があったか」

「ムフフフ」

 ルネが誇らしげに胸を張った。

 その頃、バッグのなかでは⋯⋯


『おい、聞いてるのかルネ。なぜ私のスタジオをアンドレア君が使ってるのかね。いや、まあ彼女は可愛いし、商売も繁盛してるようだから良いが。問題はドニの方だ。ドニがマシキュランの女優と結婚したとは、どーゆー事だ。私もママも何も聞いてないぞ。――いや差別とかそーゆー事を言っとるんじゃない。あいつはワロキエ家の跡取りだぞ、それがお前マシキュランを嫁に貰って。私の初孫が自動車とは、これは一体全体どーなってるんだ。私は世間になんと報告すれば良いのだ。初孫は錆だらけのボロ車と発表するのかね。ガブリエルやステファンに何と言われるか、お前に分かるのか? ドニは昔から突飛な真似をする子だった。だから姉のお前にお目付役を任せたんだ。それを、だから速くハリスに戻って来いと。聞いてるかルネ。ルネ。ルネッ⋯⋯」


 知らぬはシメオン監督、ただ一人。



 ♥



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