<幕間> Fool me?
「ステファンよ、ちょっといいかね」
「なんだいユドくんたち。何か用なのかい」
馴染みある緑藻の群体の呼びかけに、珪藻Stephanodiscus属の個体・ステファンは軽く応じる。
「ずっとおぬしに隠していたことがあるのだが、ついに後ろめたくなってしまってな。今こそ、真実を明かそうと思う」
「ん? どういうこと」
ユドくんたちはいつになくシリアスな雰囲気をかもし出していた。改まって一体何を告白するのだろうかと、ステファンは彼らが近寄るのを待つ。
「実は我々は繁殖を経ていて、おぬしと最初に友達になった『ユドくんたち』では既にないのだ」
「え――え? ええ!? それは結構重大なカミングアウトじゃ」
少なからず動揺した。なかなかの衝撃発言だ。思考が混乱して、次になんてリアクションをすればいいのか図りかねる。
するとユドくんたちは堪えかねたようにぶるぶる震えて大笑いした。
「冗談だ。今日は四月一日だからな!」
「…………そう」
対するステファンはイラッとなった。
これは何かしら仕返しをしないと気が済まない。
「そうだ、ぼくこそずっと隠してたことがあるんだけど」
「何かね?」
「実はぼく、Stephanodiscus niagarae なんだ」
――反応が返るまでに間があった。
「!? お、おぬし、ナイアガラの滝に同胞が居るのか……! しかし妙だな、niagarae の表面のトゲはもっと間隔が開いてて禍々しい……というか湾曲した感じではなかったか」
四月一日だとたった今自ら言ったくせに、ユドくんたちは簡単に騙されてくれた。今度はそちらが動揺しているさまに、爽快な気分になる。
「うん、だって嘘だし」
「嘘か!」
「ぼくはStephanodiscus alpinus の個体だよ。niagaraeに比べると、種名が確立されたのは100年ほど後だね」
「そ、そうか……。おぬしがナイアガラのセレブかと思って焦ったぞ。ちなみに我々Eudorina elegansが登録されたのは1832年だ」
「どうせ1942年登録ですよーだ」
「ではステファンの一族が後輩だな!」
「はいはい。別に偉くもなんともないよ。人間に名前を付けてもらわなかっただけで、ぼくらの先祖の方がずっと前からこの地球に顕現してたんだと思うし」
「む……そうかもしれぬな」
珪藻は
(にしても内心、焦ったな)
ユドくんたちのはなかなか強烈な嘘だった。ずっと友人だと思って接してたヤツがいつの間にか友人の子供とすり替わってた、と明かされるようなもやもやとしたものがあったのだ。
いつかはそうなる日も来るだろうけれど、まだまだ先のことだと思っている。
「ユドくんたちが16倍に鬱陶しくなったらどうしよう」
それぞれの細胞が新しい群体となる。全員が記憶を共有したら――
「何だ、ステファン。何か言ったか?」
「なんでもない」
しかしステファンとていずれは分裂する身だ。1体の新しい自分の子孫に付き、8群ずつのユドくんたちがまとわりつくのか? それともあっさり友人関係を解消するのか?
(うんまあ、わからないことは考えてもしょうがないや)
そして彼らはいつも通りくだらない話題で盛り上がって、平穏に午後を過ごした。
**2016年エイプリルフール用に書いたネタ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます