02.造形美を語り合おう

 抗う術もなくユドくんたちに連れ回されるステファン。

 ユドくんたちことEudorina属の群体はゼラチンによって繋がっている。個々の細胞が別々の動きをしていても、この球体に入っている限り離れることはない。


 ――これはそういうものであって、他者を誘拐するツールではないはずなのだが。


 やがて水の浅い地に出た。連日の雨によって広がりを見せている水たまりたちは、こうして繋がったのである。


「おお、もうすぐ着くのではないか」


 ユドくんたちがはしゃぎ出した。

 なるほどその通り、フッと何かが変化する。


「あ。こっちの水たまりって……」

「すごいぞ。断然暖かいではないか」

「影がかからない時間が多いのかな。でもぼくには暑苦しいくらいだ」

「我々はこっちの方が好きだぞ! それに見よ! 色んな種類の者たちがいる!」


 そう呼びかけられて、ステファンは周りに注目してみた。なるほど確かに、遭遇したことが無いような形の生き物がたくさんいた。しかも鮮やかな色ばかりだ。こんなに青や緑が一同に会しているのは、初めて見る。


「ほら、特にあの青緑の者はすごいな。ぐるぐるとしていて、なんていうのか」

「コイル状かい」

「そう! ゆるいコイルの形を巻いていて、美しいな」


 うっとりしたように青緑の者を褒めるユドくんたちに、ステファンはなんとなくむっとなった。


「コイルか。確かに一定の間隔で、一定の円周を追い求めるようにぐるぐる巻かれたフィラメントには造形美を感じるよ。でも、実際の円形を極めたモノには敵わないと思うね」

「円形? そういえばステファン、おぬしは分厚い円……いや、ディスク状であるな」

「そうだよ。この円盤の美しさがわかるだろう? 鏡像対称性と回転対称性を兼ね備えた素晴らしい形だ!」


 回しても回しても同じ形に重なり、映しても同じになる! とステファンは力説した。

 ユドくんたちは、うーん、と唸りを上げる。


「そういうのを自画自賛と言うのでは――」

「何か問題でも」

「無いぞ。無いが、それなら我々だって対称的だ。加えて、球体として三次元での対称性もある」

「あ、ほんとだ……さすが16、平方数……い、いや、ぼくは負けを認めないぞ。君たちは常に動いているから、完璧な対称性を保っているわけじゃない!」

「それくらい誤差の範囲内ではないか!」


 ギャーギャーと意味もなく言い合う彼らの傍に、すうっと近付く個体が居た。


「なによ、あなたたち。ワタシに用?」


 あの青緑のコイルであった。






**これはファンタジーです。

実際の珪藻ステファノディスカスは低温(5-20℃くらい)にしか生息できず、急激な温度の変化に弱い。一方ユドライナは繁殖において高温しか好まないが、ちょっと寒かったり暑かったりしても生死に関わらないと思われる。自力で暖かいところへ移動できる。

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