14.お休みについて……ではなく

「明日かーら、班長がおっやっすみ~♪」

「なんなーら、僕らはズル休みー?」


 異様な歌声が周囲を震わせている。


「課長は出張♪」


 ――ぃやったね!


「サボりも順調☆」


 ――ぁ、そぅれそぅれ!


 謎の歌声を盛り上げる謎の囃子詞はやしことばまで付随している。通りかかっているだけのはずのステファンたちは、関わるまいと静かにしていた――が。


「……ぐっ」

「耐えよ。ステファン、おぬしの気持ちはわかるが」


 珍しく、友を諫める側に居るユドくんたち。その制止の声を聞いても、ステファンは冷静さを取り戻せる自信が無かった。


「でも♪ 僕はひとり暮らしーい」

「おうちには、誰もいなーいんだよ♪」

「さびしいから、出社はしたーい」

「それなら、みんなでピザ★パーティー!」


 歌はひと段落ついたのか、声が止んだ。ちょうどその時に、歌っている当事者たちの群れを通り過ぎた。コレと言った目立った特徴の無い、さまざまな種の藻類が雑多に入り混じった集団だった。


「ふぐぐぐぐ」

「ステファン! 突っ込みたくて細胞壁まで爆発しそうなのはわかるが、今の我らはそんなことをしている場合ではないのだ! あと多分、逆に絡まれたら厄介そうだ!」

「わかってるよ! あー、うがー!」


 もうしばらく進んで藻ブの集団と距離を置いてから、ステファンは再び話し出した。


「意味不明だよ。人間の会社というシステムを歌ってたみたいだけど、絶対何かが間違ってる。何がってはっきりとは挙げられないけど、絶対おかしいと思うんだ、うん」

「安心したまえ。我々とて、あの歌が何かおかしいと感じていた」

「……ねえ、あれって実在する、人間の歌だと思う?」

「はて……人間の歌詞にしてはrhyme(押韻)が不完全だったぞ。語尾の響きが揃わねばならないのではなかったか?」


 ならばあの藻ブたちが、地上に生きる社会人の生活を想像して歌を作ったのかと考え――そこでステファンは色々と諦めた。


「余計なものに気を取られるのはよそう……」

「うむ。ほら、隣の水たまりに着いたぞ」


 早速、目当てのシアノちゃんを探した。青緑のコイル状の藍藻はほどなくして見つかったが、複数のフィラメントが束になってたむろしていたため、すぐには見分けがつかなかった。


「何よ、あなたたち。しりとりの連中じゃないの」


 幸い、向こうはどうやら憶えていてくれたらしい。


「その認識に間違いは無いんだけど、なんだろうねこの空しさは。珪藻のステファンと緑藻のユドくんたちだよ」

「ふーん」


 至極興味なさそうにシアノちゃんが答える。


「じゃなくて、無事だったんだね、よかった」

「何の話?」

「実はかくかくしかじかで、藻の採集が頻繁になったって噂を聞いてね――」


 ステファンは、事情を端的に説明した。

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