<幕間5>fourth wall

「うぃーうぃっしゅ・ゆ・あ・めりー・くりすますー♪ うぃー、うぃっしゅ・ゆ・あ・めーりーくりーすまーすー♪」

「ちょっと、ユドくんたち? 俗世ではもう、かの聖職者を弔う祭事の時期だっていうのになんだってそんな季節外れな歌をうたってるんだい」


 とある水たまりの中、とある平穏な午後のこと。ふいに奇怪な十六重奏が響いたため、まずは考えるより先に、音源となっていた緑藻に声をかけた。

 緑藻Eudorina属の群体は歌うのをやめて応じた。


「ステファンか。これはそうだ、決まっているではないか」

「何が……?」

「一年以上もの間、【さくしゃ】が我らに会いに来なかった嫌がらせに決まっておろう。いわく、毎年幾度となく繰り返されるソングたちの中でとりわけ耳に残りやすく、下手すると年中口ずさみそうになるナンバーだという」


  訝しげに問いただすステファンに、ユドくんたちと呼ばれた群体は答えた。


「ああなるほど。そういうことなら、ぼくも興じよう」


 ――We wish you a merry Christmas,

 ――We wish you a merry Christmas,

 ――We wish you a merry Christmas, and a Happy New Year!


「ほんと、変な歌。三回も同じ言葉を繰り返すなんて、一度で伝わらないのかしらネ」

「何回も歌ったほうがたのしいからかな!」


 いつの間にか話を聞きつけたシアノちゃんやヴォルたちも話に入り込んできた。

 余談、長々と螺旋状に伸びる藍藻Spirulina属のシアノちゃんと膨大な細胞数を誇る球状の緑藻Volvox属のヴォルたちが一堂に会する(?)と、無限大に拡がるはずの水たまりの中も狭く感じてしまうのは気のせいではないのかもしれない。


「そういえばさ! 【さくしゃ】は最近『ねとふりっくす』という映像世界で真菌類の美しさにうつつを抜かしたよね」


 ヴォルたちの唐突な発言に「なにぃ?」「なんですって」と方々から不満げな声があがる。


「蟻の死体に繁殖して死滅した脳からすごい色のナニカを生やして胞体を飛ばすらしいよ!」


 傍聴している近隣の微生物から「まあ!」「その説明は端折りすぎではないか」「野蛮だわ」「変な形のキノコも映っていたな」「さくしゃの浮気……?」とさまざまな感想が飛び交う中、でも、と近くで光合成をしていた珪藻Pinnularia属の個体が声を張り上げた。


「前の話は熱帯雨林がテーマだったんだ。次話なら、藻が登場しているはずじゃないか」

「海岸がテーマだな、確か。しかし冒頭に映った場所はフロリダ周辺のサンゴ礁、登場しているのは海水性の藻のはずだぞ」


 と、ユドくんたちが付け加える。


「海水性の珪藻は淡水性のぼくらよりも二酸化珪素シリカの密度が少なく観測されているよ――って結局、ぼくの種は取り上げてもらえないわけだね」


 ステファンはやや落胆してみせた。藻ブの皆さんや居合わせた大腸菌までもがそれに乗っかる。


「淡水でなければ浮気だ」

「湖や河の方が面白いのに」

「浮気だ」

「見た目が派手なサメや魚がカメラ映えするからって、番組スタッフも見る目がない」


 平穏は、果たして不穏に変わるのか――


「藻をフィーチャーしたエピソードが後にあれば……」

「まあ【さくしゃ】のことだ。信じて待とう。今年こそたくさん会いに来てくれるさ」

「そうだね」

「うん」


 ――別段そんなことはなく、しばらくすると皆はこの話題に飽き、再び生命維持活動に専念した。



* 



ご無沙汰してましたー!

更新したい更新したいと思っているあっという間に時間が過ぎ、何やら今になってしまいましたけど、私はおおむね元気です。


みなさまどうかインフルエンザやコロナウィルスはもちろん、ノロウィルスや麻疹などに常々ご用心ください。

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