11.栄養剤について
藻を材料にして栄養剤を作ろうとする人間。そのために行われる同胞たちの採集、そして栽培。
その問題に関して思案していたところ、何故か最近ついてくるようになったVolvox属の巨大な群体が、ふと言った――
「栄養剤を作らないといけないなんて、人間ってかよわいんだね!」
「――うん。君たちがそう結論付けるまでのロジックはまあ、わかるよ。わかるけど、微妙に違うと思うんだ」
ステファンは即座に否定した。
「えー、かよわいんじゃないの?」
「そもそも弱い生物の定義というものを決めてからじゃないと、この論議は進まないよ」
「ステファンの言う通りだぞ。ではまず、か弱い生物とは何とするか」
移動能力を有さないステファンをゼラチンに絡めたままのユドくんたちが、うんうんと同意に唸る。
「たとえばそうだな。環境に依存しすぎていて変化に適応できない生物などどうだ? 適応能力や移住への可能性は繁殖を果たすために必須だ」
「それが定義なら、人間は絶対図太い方の生き物だよ。雑食で恒温動物だから環境に依存しすぎず、驚異的な距離を移動できるらしいよね」
ステファンは自分の意見を述べた。正論なので、ユドくんたちやヴォルたちは押し黙るしかない。
どうして奴らはそこまでして栄養剤を作る必要があるのか。わからない。三者三様、それぞれ身を捻るものの、なかなか答えは出なかった。
「あ!」
途端にヴォルたちの巨体が震えた。百を超える数の細胞が一度に動くと、流石に驚く。ユドくんたちがびくっと身を引いたので、一緒になってステファンもVolvoxの緑色の群体から距離を取ることとなった。
「わかったよ。必須アミノ酸!」
「ん?」
「む?」
「人間って自分じゃ全種のアミノ酸を作れないから、食事から採るんでしょ」
Essential amino acids。人間には九つあるとされる、必ず外部から摂取しなければならないアミノ酸。
「はっ、確かにそうだ」
「なるほど、藻を使った栄養剤と言ったら、たんぱく質っていうかアミノ酸目当てかもしれないね」
全員が納得したところで、何故かその時、藍藻のイメージがステファンの内を過ぎった。
今まで失念していたが、その栄養剤は既に存在していたはずだった。九つの必須アミノ酸を全て内包しているとされるサプリメント。その原材料とは――
「スピルリナ剤……? いや、まさかね」
ただの予感に過ぎない。過ぎないが、ステファンは小声で友人に話しかけた。
「ユドくんたちさあ。次に雨が降ったら」
「奇遇だなステファンよ。我々も同じ考えに至った」
食い気味にユドくんたちが応じる。
「ちょっと、隣の水たまりに行ってみようか」
「うむ。シアノちゃんに会いたくなってきたな」
藍藻Spirulina属のあの子は、無事だろうか。
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