第4話 イモータル・プリンセス
「自己再生……か」
「そう。完全な自己治癒能力を有し、どれほど負傷しようと短時間で全快する、稀少な能力者。……対策室は彼女に、『イモータル・ニュータント』というコードネームを付けています」
――ヴィラン対策室は、すでに彼女のことを調べ上げ、ここに神威了を派遣していた。彼の口から語られた飛鳥のコードネームに、架は眉を潜める。
「
「そう言って差し支えない程度には、強力なニュータントであると対策室は認識しています。……それに彼女の能力を把握していたとするなら、『吸血夜会』が目を付けるのも無理からぬことでしょう」
「『吸血夜会』……彼らの仕業だったのか。でも、彼らはどこで彼女の力のことを……?」
「それは分かりませんが……少なくとも彼女の能力が、彼らにとってそれほど魅力的であるということは間違いないようです。……無論、対策室にとっても」
「……?」
そこまで言い終えたところで、今度は了の方が苦々しく視線を逸らしてしまう。その様子を不審に思い、架は彼の瞳を凝視した。
やがて了は観念したように天井を仰ぎ……重々しく口を開く。
「……どれほど傷付こうと、医師も薬も必要とせず自然に全快してしまう治癒能力。それを解析し、人工的に複製できるようになれば、不死身の兵隊を生み出すことが出来る。今のパワーバランスは崩壊し、ヴィランは駆逐される」
「まさか……」
「対策室は理由を付けて、彼女の身柄を確保しようとしています。……解析のための、体のいい人体実験も辞さないでしょう」
もはや、ヴィランではないかと疑われるどころの話ではない。今の飛鳥は、正真正銘のヴィランである「吸血夜会」からも対策室からも、狙われる身となってしまったのだ。
その事実に対面し、架は苦々しく表情を歪める。今ある事実を伝えた了も、沈痛な面持ちとなっていた。
「……当のニュータント……いえ、患者自身の意思は?」
「彼女は、治りたいと言った。ヒーローにもヴィランにもなる気はない、と。……オレは主治医として、彼女の意を汲んで治療するだけだ」
「なら、処置を急いでください。対策室は明日にも、彼女の身柄を確保しに来るでしょう。……手段を問わずに」
「ワクチンの取り寄せは、早くても1日は掛かる。なんとか遅らせないか?」
「俺はあくまで一介の捜査官です、そこまでの権限はありません。……仕方ない、正直気は進みませんが……『彼女が凶暴化したのでやむなく白血砲で対処した』――ということにしましょう。幸い、キュアセイダー2号のスーツは有事に備えて再建済みですし、彼女の能力なら白血砲に当たっても衝撃で死ぬことはない。すぐに部下にスーツを持って来させます」
「その部下って、信頼できるのか……?」
「……まぁ、個人的には好かない男ですが。あなたのためと聞けば、恐らく言う通りにするかと」
「……?」
対策室が強引に彼女を連れ出そうとする前に手を打つには、再建されたキュアセイダー2号の白血砲を使うしかない。
ワクチンを待つ猶予がない以上、それが最善策なのだが――架に再びあの重鎧を着せると言う選択肢は、了が望むものではなかった。だが、他に手段はない。
――藍若勇介が開発した白血弾の技術により、対策室はヴィラン達を無力化する体制を整えつつある。その立役者の1人である架は、ヴィラン撲滅を願う了にとっては恩義のある人物なのだ。
それゆえに彼は――対策室に身を置く捜査官でありながら、医師である架の姿勢を汲み、人道的見地に反する上層部のやり方に抗っているのである。
彼は電話で件の「部下」にスーツの移送を命じた後、改めて架と向き合った。
「とにかく俺としても、彼女が力に振り回され、利用されていく様は見たくない。2号のスーツが到着したらすぐに、彼女に白血砲を撃ち込んでもらいます」
「……撃たなきゃダメか」
「絵面は残虐かも知れませんが、あくまで医療行為です。それに、砲弾から悠長にワクチンの成分を抜いている時間はない。諦めてください」
「……そうだな。ところで、ココアちゃんはどうしてるんだ。一緒じゃないのか?」
「下のロビーで、診察待ちの子供達に絵本を読み聞かせています。妙に懐かれてしまいまして」
「そうか、あの子可愛いもんな。……さて、そろそろオレは病室に戻るよ。いつまでも患者をほったらかしには出来ない」
「えぇ。スーツが届き次第、連絡します。ではまた――」
――そして、今後の対策を固めた2人が、一旦別れようとした。
その時。
「――ッ!」
ニュータントとの死闘を潜り抜けた者にしかわからない、直感が警鐘を鳴らした。架と了は、弾かれるように病室に飛び込んでいく。
そこで、目にしたのは。
「……ちっ、気配は消したつもりだったんだが……ヴィラン対策室か。厄介なのに見つかっちまったな」
意識を失った飛鳥の体を、小脇に抱えた1人の男が――窓から抜け出そうとしている光景だった。
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