高い搭

ヤト

序章

 私の前世は日本人。空にいる事が好きで、世界を飛び回っていたら『スカイダイバー』として有名になっていた。けど、スカイダイビングの最中に、不慮の事故で死んでしまった。


 けど空を飛んでいて死んだんだから、悔いはなかった。死因はどうであれ、一番好きな場所で死ねたんだから。


 死んでから暫くは、ふわふわと空中をさまよっていた気がする。けど、いつの間にか、私は別人に生まれ変わっていた。


 今世での私の名前は『ノエル』。両親と、年の近い兄と生活している。いつもは、兄と私と幼馴染の3人で遊んで日々を過ごしている。


 日々を遊んで過ごしているっていっても、この世界に義務教育なんてないから、遊んだり大人の手伝いをするとか、それぐらいしかやれることがないんだよね。


 この世界で生きているうちに、色々なことを知った。木の登り方も、火の起こし方も、この世界の歴史も、伝承も。どれも楽しかった。新しい知識を得ることは楽しいから。でも、ひとつだけ知りたくなかった事実があった。


 この世界は、前世ほど栄えていない。だから、前世のように空を飛ぶことが出来ないということ。


 けど、私の住んでいる村の近くには、高い搭がある。

 伝承によると『神の世界に通じている』とか、『なんにもない、ただの高い搭』だとか『天国に繋がっている』とか、色々言われている。別に、伝承なんてどうでもいい。私は神様なんて信じていないから。でも、あの塔を登りたい。


『そこのてっぺんから飛び降りれば、また、空を漂うことができるのではないか』


 兄が死んで幼馴染とも疎遠になってからの私は、そんな期待を塔に寄せつつをしながら生きるようになっていた。




 今日はいつもより『飛びたい』という欲が強くて、前々から準備していた鞄を持って、私は一人で搭に向かった。


 仲のいい、家族のような幼馴染を、私の自殺に付き合わせるのも気が乗らなかったから、幼馴染にさえも知らせずに、幼馴染の予定がある日まで我慢してたのに、塔の前には私の幼馴染がいた。


「遅かったじゃねーか」

「あー、ばれてたんだ。ははは」

「まーな。しっかし、高い搭だよな」


 塔の下で私を待っていた幼馴染、ソラは、少し疲れているみたいだった。

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