高い塔

「今の人たちには、この塔の存在はどう認知されているの? そして、どういう風に語り継がれているんだい?」

「世界一高い塔、って認知されてる」


目の前の『おじいさん』は、少し悲しげな表情を浮かべていた。


「それだけかい?」

「ああ。この塔の役割についてはいくつか伝承がある。けど、あくまでそういう噂があるとしか認知されていないんだ」

「そうか……ちなみに、どんな伝承があるんだい?」


俺たちは、いくつかの伝承を話した。


「ありがとうね、色々話してくれて。久しぶりのお客さんだったから、つい色々聞いてしまったよ」


おじいさんは、忘れられることを覚悟していたみたいで、悲しい気分吹っ切るようにそう言って笑った。


「あの……おじいさんは、ずっと一人だったんですか?」


ノエルは、少し申し訳なさそうな面持ちで言った。


「いや、何百年か前は余生を過ごす人たちと暮らしていたよ。まあ、今はひとりぼっちだけどね」


おじいさんは、また悲しそうに笑った。


「地上には、下りないんですか?」

「私はここの管理者だから、外に出ることは控えてるんだ」

「……寂しく、ないんですか?」

「私は大丈夫さ。ここには、まだ命があるからね」


俺には、これはおじいさんの心の底からの言葉のように聞こえた。


「さあ、湿っぽい話はここでおしまいにしようか。伝承によれば、私は願いを叶える存在みたいだから、いくつか願いを考えておいてね。私は、家の方にいるはずだから、用事ができたら呼んでくれ。ここでは自由に過ごしていていいから」


おじいさんは、そう言って足早に家に向かっていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る