上を目指して

「ねー。……ソラはこの塔がどこまで続いてるとおもう?」

「しらねーよ。でも、案外地獄まで続いてたりしてな」


 俺は微かに笑いながらそういった。


「地獄なら下らないといけないんじゃないの?」

「誰がそんなの決めたんだ? それとも、お前が確かめたのか?」


 だって、上は空気がうすいんだから、登りきった先で死んじまえば、人によっては地獄に落ちるんじゃねーか?

 別に行き着く先なんてどこでもいいけどさ。


「んー、知らない!」

「てか、登るんなら早く登ろうぜ」

「行き先を確かめるためにも、上からの景色を見るためにもね!」

 ────

 そして、上から飛び降りて死ぬためにね。君には悪いけど、天国とか地獄とかどうでもいいの。私はただ、できるだけ長い間空を飛びたいだけだから。私は、もう一度夢を叶えるためにこの塔を登るんだ。

 ────


「能天気だな、お前は」


 昔からそうだよな。いつもお前は元気で悩みなんてなにもなさそうな表情してやがる。こいつが思い詰めた顔したのは、こいつが何かに気づいた時の、あの一度しかみたことがねえ。あのときの顔は酷かったな。いったい何に絶望したんだか。

何かに絶望したとしても、何か行動を起こさないと状況は何も変わらないのに。


「んー? そーかな。私も色々と考えてるんだよ?」

 ────

 君にはそうみえるんだね。良かったよ。まだ取り繕えていたんだ。もうちょっとだけ、塔を登りきるまでもってくれればいいな。

 ────


「そんなふうには見えねーよ」


 こいつが、何に絶望したのかなんて聞かない。多くは聞くだけ無駄だだし、この気楽な関係性が変わっちまうし。そしてなにより、あんな顔、二度も見たくねえし。




 俺たちは雑談をしつつ、ガラス張りの塔の大きな階段を淡々と上る。

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