秘密

「あ、もうすぐ日が沈む時間みたいだね」

「そうなんですか?」

「うん、もうすぐだよ。さ、ノエルさんのところに戻ろうか。君たちに、見せたいものがあるんだよ」


 おじいさんはそう言い、また優しく微笑んだ。




 ノエルは、まだ椅子に座って、紅茶を飲んでいた。

「……二人ともどうしたの?」

「見せたいものがあってね。少し付き合ってくれるかい?」

「もちろん。さて、と。どこに行くの?」

「ついてきてくれ」




 おじいさんは、俺たちを搭のはし、壁側に連れてきた。今いる場所は木で覆われていて、搭の中心側からは見えないようになっていた。


「ここはね、私だけの、秘密のスペースなんだ」


 秘密。誰にでもある。もちろん、俺にも、ノエルにも。おじいさんにだって秘密はある。


「秘密なのに、何故私たちを連れてきたんです?」

「君たちも秘密を抱えているからだよ。もうそろそろ、共有してもいいと思うよ。どうせ、終わりは近いんだから」


 そう。終わりは近い。願いを叶えてもらえば、今の関係は変化を向かえる。

 でも、変化を恐れちゃいけない。覚悟は、やっとさっき固まったんだから。


「んじゃ、俺から隠してたこと言おうかな」

「……いいの?」


 ノエルも思うところがあるらしい。けど、覚悟は固まっていないようだ。


「ああ。いいんだ。俺な、余命があと3ヶ月くらいなんだってよ。シエルと同じ病気を患ってるんだ。で、ちょっと前まで入院してた」

「待って、どういうこと」


 ノエルが、動揺してる。でも、全部言わなくちゃ。


「シエルは骨が柔らかくてぐにゃぐにゃになっていく病気だったんだ。『学校』関係で色々あってな。で、薬のレシピはシエルが残してくれてたから、それを病院で作って貰ってたんだよ。はい、俺の秘密はこれで終わり」


 次はノエルの番だよ。大丈夫、待ってるから。俺はノエルの目を見て、意思を伝える。


「今すぐ受け入れる必要は無いんだよ」

「……はい」




 少しずつ、落ち着いてきたみたいで、ノエルは自分のことを話し出した。


「私ね、前世の記憶があるの。前世では、割と安全に空を飛べたの。私は、空を飛ぶことが好きで、今世では、飛べないってことを知って、この高い搭から飛び降りて死のうとしてたの。自殺に幼馴染を、ソラを巻き込みたくなくて、わざわざあなたの予定がある日を選んだの」


 そこまで考えていたとか、全然知らなかった。家族みたいな距離感で、ずっと同じ景色を見ていたと思ってたのに。


「今も、死ぬ気?」


 言葉が、上手く出てこない。


「ううん、今は違うんだ。まだ、生きていたい」

「俺も、まだ生きていたい」


 おじいさんは、静かに頷いた


「二人とも、よく頑張ったね。これで、儀式は終わり」

「儀式?」

「ここでは大事なものなんだ。この搭はね、終わりの塔。何かを終わらせて、また新たに始める手伝いをする場所なんだ。だから、何かを求めるなら、何かを手放して終わりにしないといけないんだ」

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