約束を果たしに
あの時よりも、階段を登る足は軽かった。俺たちは二人から三人になり、旅をしたことにより体力もついた。そして、この塔のことも、あの日より確実に知っている。
「おじいさん、げんきかなあ?」
「約束したからね。きっと元気よ」
「おじいさん私たちのこと覚えてるかなあ」
「ノエルったら……。ノエル、私たちは約束したから、ね?」
「……そだね!」
ノエルは、世界を巡り、出会いを楽しむ内に、昔のようなまっすぐな瞳で世界を見られるようになっていた。でも、純粋に楽しみたいがため、たまに幼児退行をするようになった。その方が、なにも考えずに綺麗な世界が見られるらしい。
「ノエルー!走ると危ないぞー」
「だいじょーぶ!ソラもユウも早く来なよ!あんまりおじいさんを待たせちゃいけないよ!!」
そんな事を言いながらも、ノエルは足を緩めようとしない。俺たちは顔を見合わせ、ノエルを全力で追いかけた。
第一の休憩所についた頃には、ノエルは既におじいさんに連絡を取っていた。
「……だからね、早くそっちに行きたいの!!」
『おやおや、ありがとうね。またここに来てくれるとは思っていたんだけど、こんなに早いとは思っていなかったよ』
前に来たときには知らなかったこと。
中央の噴水は最上階との連絡手段でもあるということ。
これは、西の国で聞いた伝承。情報が散らばってはいるけれど、確かにここは正しく知られていた。
「おじいさん、お久しぶりです」
『……おや、ユウちゃん。その様子だと見つけることはできたんだね?』
「ええ。お陰でこの世界の事をちゃんと理解できたの」
ここを出発する前にいくつか教えてもらったんだ。世界の果てやこの世界のことを。
ユウは世界の果てを、裂け目を見つけた。地元民からは『禁忌の森』『神知らずの森』と呼ばれる場所にそれはあった。
その裂け目の奥には、全ての情報が渦巻いていたらしい。俺とノエルには見えなかったけど、威圧感を強く感じたのことは覚えている。
『じゃあ、答え合わせの時間だよ。この世界の通り名はなんだい?』
「
「そう。そこに至れたのであれば、管理者権限を与えても大丈夫だね。先日、神様が目覚めたんだよ。まだ眠いみたいだけど、年内には起きてくれるみたいだから、その時に顔合わせしようね」
ユウはこの塔の管理を継ぐ気だ。おじいさんを独りにしないために。
俺たちだけを残さないように。
「ねーー!おじいさんー!早くそっちに連れてってよ!!」
「ああ、ごめんごめん。じゃあ、少し目を瞑っていてね」
「なっつかしー!」
「ただいま、おじいさん」
「ただいま」
「ただいまー」
「お帰りなさい」
おじいさんの声の後に『リン』と鈴の音が聞こえた気がした。
「本当に目覚めが迫ってるんだな」
「ソラ君にも聞こえたのかい?」
「ああ。神様もお帰りなさいって言ってくれてるな」
「んえー、ソラもユウもなんかずるいー」
駄々っ子化してる……。
「ノエルちゃん、君は世界の見方を簡単に変えられるだろう?それは二人と同じで、君にしかできないことだよ」
「おおー!気づかなかった!二人と同じー!」
ノエルはにんまりと笑った。
うん、無邪気なことは良いことだ。
暫しの談笑の後、ノエルの纏う空気が変わった。
「さて、と。おじいさん、久しぶり。約束を果たしに来たよ」
「……はて、約束?ごめんね、何を約束したんだっけ」
「ほら、もう一度皆で会おうっていう約束だよ」
「──ああ。その約束は僕も入っていたんだね」
おじいさんは優しく、それでいて嬉しそうに微笑んだ。
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