霧中

 俺たちは、霧の中、大きな階段を一段ずつ上っている。


「なあ、霧って神秘的だよな」

「……そうだね。世界が綺麗で澄んでいる気がする」

「世界中の、汚くて誰も知りたがらない真実とかも、全部蔽ってくれればいいのにな」


 今日のノエルは落ち着いている。もしかしたら、こっちが素なのかもしれない。いつも、何かに夢中で、自由の権化みたいなノエルは、実は何かに憑かれていて、その結果みたいなものなんだろうか。

 ……あながち、間違ってはいない気がする。




「そういえばさ、ここはなんの目的で建てられたんだろうな」

「わかんない。でもさ、不思議な場所だよね。疲れを感じずらい気がするし、ご丁寧に休憩所まであるし」


 あの休憩所も不思議だよな。人なんて来ないはずなのに、手入れが行き届いていた。


「そういえばそうだな。あと、俺たちこんな短期間でこの高さまで上ってこれたのはおかしくないか? まだ上り始めて二日しかたってないぞ」

「ん、言われてみれば、今日で三日目だもんね。なんか楽しくて、まだ一日目だと思ってたよ」

「俺もだよ。ただ階段を上りながら景色を眺めてるだけなのにな」


 ずっと、このまま塔を上っていたい。

 ……だめだな、覚悟はできてたはずのに。やっぱり、ノエルが言ってた通り俺は弱いままだな。

 まだ、死にたくない。




 腕時計は昼を示している。だが、いまだ霧は晴れない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る