第3話 悪魔という存在


 なんだ?

 どういうことなんだ?


「ゼウス!

 何ふざけてやがるっ!

 悪魔だぞ!

 なんで従ってんだよ!」


 未だにひざまずくゼウスに、俺は呼びかけた。


「何を言っても無駄よ、社白真。

 この子はワタシとの戦いに敗れて、操られているから」


 操る?

 それは、悪魔の力の一つなのだろうか?

 一向に連絡を寄越さないと思ってたら、戦いに負けたって?


「なに操られてんだ馬鹿女神っ!

 さっさと目を覚ませっ!」

「ふふっ、無駄だと言っているでしょ?

 ゼウス、立っていいわ。

 あなたの口から説明してあげなさい」


 言われるまま、なすがまま、ゼウスは立ち上がり俺に顔を向けた。


「ゼウス、正気に戻れっ!」

「白真、あたしはね。

 今、サターナ様にお仕え出来て、本当に幸せなの!

 天界のクソ上司と顔を合わせずにも済むし、何も考えずにサターナ様の命令をこなすだけの生活が送れる」


 だ、ダメだこいつ……洗脳されてる。


「ゼウス、なに言ってんだ!

 戻って来い!」

「あたしは、あたしのまま。

 こっちが本来の姿なの。

 白真、見事に騙されちゃって馬鹿ね~。

 ぷぷっ、悔しい? 悔しい?」


 イラッ!

 こいつ、こういうとこは全く変わってねえのか。

 どうせ操られるんだったら、性格も矯正してもらえばいいのに。


「……悪魔……。

 俺をここに連れてきたのは、真黒の差し金か?」

「いえ、違うわ。

 ワタシ自身の意志よ。

 期待していたの。

 信じていたゼウスの裏切りで、あなたはどんな面白い顔を見せてくれるか。

 でも、全然堪えていないみたいで、つまらないわ」


 その為に、こんな回りくどいことをして俺を呼んだのか。


「後は単純に、あなたに興味があった。

 そっちの子は、呼んだ覚えはないのだけど……」


 サターナに一瞥され、ビクッと身体を震わす仇花。


「ま、いいわ」


 だが、悪魔は直ぐに仇花から視線を外した。


「あんたに興味を持たれるようなことを、した覚えはないがな?」

「女神がチートを与えて、可愛がっている人間ってだけで。

 とても興味が惹かれるじゃない」

「白真、よかったわね!

 あたしのお陰で、サターナ様に目を掛けていただけたのよ!」


 テメェのせいで、の間違いだろっ!

 こいつ、ただでさえ面倒な性格なのに。

 悪魔の部下になったせいか、腹立たしさが倍増してやがる!


「……真黒カンパニーの従業員の洗脳。

 あれはお前がやっていたのか?」

「人の世界の戯れに、わざわざワタシが手を貸すわけないでしょ?

 まぁ、チートを与えたのは間違いないけど」


 やはり、真黒はチート持ちか。


「知っているかしら?

 暗部って、とても面白いの」

「面白い……あの悪魔みたいな男がか?」

「そう、だから面白いの」


 俺の言葉を、サターナが肯定する。


「人間なのよ、暗部って。

 なのに、あんなに悪魔的なの。

 人を人だと思ってない。

 自分の欲や利益の為なら、まるで命のない人形みたいに、笑顔でボロボロに出来る。

 ワタシの目から見ても、悪魔よりも悪魔らしい人間――初めて会ったの」


 真黒を語るサターナは、恍惚とした表情を浮かべ、愉悦に満ちている。


「ワタシは、見てみたくなった。

 真黒暗部が支配する世界を」

「だから、チートを与えたと?」

「ええ。

 暗部に支配され、自らを犠牲に働き、死んだような目で喜びを語る人間たち。

 ふふふ、ふふふふふふふふっ!

 ああああああああ、あああああああ、思い出すだけで、最高に愉快!!!

 猛って、昂って、ワタシの魂が迸ってしまいそう!

 真黒カンパニーは――真黒が作った理想の世界は、ワタシを心から楽しませてくれる」


 はぁはぁと息を乱すサターナ。

 人間の不幸を喜びとする姿は、明らかに異常だった。


「おいゼウス!

 いいのか?

 女神として、こんなこと言ってる悪魔を放置でいいのか?」

「勿論よ。

 サターナ様の願いは、あたしの願いだもの」


 ダメだ。

 この調子じゃ、ゼウスを説得することは出来そうにない。


「社白真。

 でも、あなたは真黒とは正反対ね。

 ゼウスから聞いたわ。

 ブラック企業を変えることが目的なんですって?

 そんなことをして、何の利益があるの?」

「利益なんてないさ。

 ただ俺は理不尽に世の社会人を虐げる、ブラック企業とそれを良しとする経営者たちが許せないだけだ」


 結果的に、俺の行動で、救われる人はいるかもしれない。

 だが、俺の中では全て自己満足の行動に過ぎない。

 それ以外でも、それ以下でもないのだ。

 俺の行動は、ブラック企業という存在そのものに対する復讐なのだから。

 

「人間たちは偽善に満ち溢れているけれど。

 実際に行動してしまう辺り、あなたは愚かね。

 だけど、あなたもワタシを楽しませてくれそう。

 愚かで愚直な人間が堕ちた時ほど、楽しいことってないから」


 何かを仕掛けてくるつもりだろうか?

 周囲を警戒する。


「社白真。

 あなたは自分の意志で、ワタシの奴隷になると誓いなさい。

 そしてチートを使って、この世界を真っ黒に染めるの

 今後は、ワタシを楽しませる為だけに生きていきなさい」

「断る。

 そんなことをするくらいなら、死んだ方がマシだ」

「へぇ~。

 しないなら……そうね。

 その女を洗脳して、色々と楽しいことをしちゃおうかしら?」

「ひっ……」


 狂気に塗れたサターナに見られて、仇花が震えがあった。

 待っているのは、死ぬよりも辛い未来だと。

 容易に連想出来てしまう。


「でも、あなたが自らの意志でワタシに従うのなら。

 二人だけは助けてあげる。

 どうかしら?」


 そう言って、じりじりと俺を追い込んでくる。

 サターナはこの状況を楽しんでいるのだろう。

 俺が従うにせよ、歯向かうにせよ、堕ちていく過程を、絶望する瞬間を。

 今か今かと待ち望んでいるのがわかった。


「あ、言っておくけどチートを使っても無駄よ。

 もし時間を巻き戻したら、その世界でワタシが仇花才華を殺すわ。

 ただ殺すだけってつまらないから、そんなことさせないでね?」


 いざとなれば、時戻しワンモアリピートを使えばいい。

 その甘い考えを、サターナが吹き飛ばした。

 サターナも、巻き戻した世界で記憶を保持できるのか。

 悪魔も、女神であるゼウスに負けぬほどの強力な力を持っているとみて間違いないようだ。

 事実、ゼウスは敗れてしまったのだから、女神以上の可能性もある。

 何か、何か手は……。

 考えれば考えるほど、この状況が絶望的であることを理解してしまう。


「答えは決まったかしら?

 そう、一つしかないわよね?

 社白真、あなたはワタシに従うしか――」

「社さん!

 こんな人の言うこと、聞かないでください!」


 怯えていたはずの仇花が、声を上げた。


「私のことは、気にしなくてもいいんです!

 社さんは、社さんの思うままに!

 やりたいように、やってくれたらいいんです!」


 やりたいように……?

 もし仇花が人質に取られていないとしても。

 サターナがいるこの状況では、俺に出来ることは……。


「仇花才華、あなた死ぬのが怖くないの?」

「……こ、怖いです。

 い、今も、震えが止まらないくらい。

 で、でも……私は、もう――以前のような、理不尽な支配に屈したくなんてないんです!」


 恐怖に負けず、仇花は自らの意志を示した。

 身体も声も震わせて、決してカッコ良くはないはずなのに。

 そんな彼女の姿を、俺はカッコいいと思った。

 そうだ。

 そうだよな、仇花。

 何が出来るとか、出来ないじゃない。

 相手がどれだけ強敵であろうと、自ら意志を貫くこと――それが、大切なことなんだ。

 俺は今まで、そうやって戦ってきたんだ。


「仇花才華、あなたサターナ様に反抗するなんて失礼でしょ?

 ぷぷっ、弱虫なんだから屈しちゃえばいいのよ。

 あたしが土下座の仕方を教えてあげましょうか?

 こうよ! こうするのよ!」


 床に額を押し付けて、なんどもペコペコするゼウス。

 こいつ、さっきからマジムカツク。


「ふふっ、ゼウス。

 あなたは本当に面白い子ね」

「ありがとうございます!

 どう、白真、仇花才華、こうよ!

 あなたたちも一緒に土下座して、サターナ様を喜ばせましょう!」


 そんなことを言って、虚ろな目をしたゼウスが迫って来た。


「や、やめてください、ゼウスさん」

が高いわ。

 ほら、ほらしゃがむっ!

 無能な人間は、下を見て話すものよ!」


 無理に仇花を跪かせようとするゼウス。

 イライラが募る。

 

「白真、あなたも無駄な抵抗は辞めなさい。

 サターナ様に従えば、人生は真っ黒。

 素晴らしい暗黒の未来が待ってるわ」


 ゼウスが口を開く度に。

 サターナが、歪んだ笑みを浮かべる度に。

 尋常ではないほどの、ストレスが溜まっていくのがわかった。

 俺の心の中に、抑えきれない衝動が湧き上がっていく。


「さあ、さあ白真!

 頭を下げる!

 ほらほら」


 ペシペシと、ゼウスが俺の頭を叩いた。

 ペシペシ、ペシペシ。


「ぷぷっ、白真の頭っていい音が鳴るわね~。

 サターナ様、どうですか?

 ほら、この音、気持ち良くないですか?」


 ゼウスは調子に乗って。

 両手でペシペシと俺を叩き、リズムを刻む。


「ふっ……ええ、いい音ね」

「ですよね~!

 白真、あんたの馬鹿な頭はペシペシされる為にあったのね!」


 ペシペシペーン! と気持ちのいい音が聞こえた。

 同時に――ぷっちーんと、俺の中で何かが切れた音がした。

 そして、俺は理解した。

 湧き上がっていた衝動の正体。

 それは、マグマよりも熱く。

 心の奥底から沸々と滾っていく怒りだったのだ。


【ストレスがランクSから∞にランクアップしました。】


 その時、頭の中に声が響いた。

 度重なる激しいストレスにより、俺のストレスランクが上昇した。

 ランク∞か……ははっ、いいなそれ。

 この無限に湧き出る怒りを表現するのにはピッタリだ。


「さあさあ、白真!

 サターナ様へ服従の意志を示しましょう!

 土下座よりも、ワンワンのポーズがいいかしら?」


 ストレスの原因は、この大馬鹿女神だ。

 今の俺のストレスが無限なのだとしたら、王の支配ドミネーションも使い放題。

 神にチートは通用しないと聞いてるが、100発くらい殴れば、神だろうと悪魔だろうと支配出来る。

 いや――こいつらを支配してやれ!

 そう俺の心が叫んでいた。


「さぁ白真!

 一緒にしましょう!

 服従を、服従を!!」

「ゼウス――」


 俺は歩み寄る。

 もう決めた。


「何?

 一緒にワンワンのポーズをする気になった?」

「いや、そんなことより、俺はお前にゲンコツがしたい」

「え?」


 何を言っているの?

 と、女神の目は俺に訴えていたが。

 言葉のままだ。

 俺は笑顔のまま拳を振り上げる。

 さぁ、スカッとしようじゃねえかっ!


「この大馬鹿女神があああああああああああああああああっ!!」

「ぎゃんっ!?」


 ボゴンッ!

 勢いのままに、拳をゼウスの脳天に突き刺した。


【300ストレスを消費して、王の支配ドミネーションを使用しました。】


 頭に響く声は無視する。

 消費ストレスなんてどうでもいい。

 俺のストレスは∞なのだから。


「ほわああああああっ!?

 いいいいいいったあああああああああっ!」


 目に稲妻を走らせ、涙目で絶叫する女神。

 ゼウスが女の子じゃなかったら、顔面パンチしてるとこだ。


「め、女神で悪魔なあたしに、何するのよ!

 無能で馬鹿な人間の白真が、していいことじゃないんだから!」


 イライラッ。

 どこまで俺を苛立たせるんだ。

 口を開けば、無能だ馬鹿だ服従だ。


「ふふっ、人と女神の喧嘩か。

 面白いわ」


 俺たちを見下し、愉悦に歪むサターナの顔。

 やはりそうだ。

 ゼウスとサターナ、二人が俺に与える相乗効果は、猛烈なストレスを生み出していく。

 ストレスランク∞の上がもしもあるのなら、俺はその領域に足を踏み込めるのではないだろうか?


「ゼウス、俺のチートを知ってるよな?」

「し、知ってるけど、あたしにチートは通用しないわよ?」

「だったら通用するまで、100発でも200発でも俺の拳をくれてやるよ!」

「きゃあああああ、ぼ、暴力反対!

 女神に暴力ふるうっておかしいでしょ!」

「うるさい!」


 さっきのペシペシのお返しだ。

 俺はゼウスの頭をペシペシと叩く


「おら! おらっ!

 いい加減、いつもの馬鹿な女神に戻れ!」


 その間も、王の支配を使い続ける。


【300ストレスを消費して、王の支配ドミネーションを使用しました。】


 何度も。


【300ストレスを消費して、王の支配ドミネーションを使用しました。】


 何度も。


【300ストレスを消費して、王の支配ドミネーションを使用しました。】


 何度も何度も!


【300ストレスを消費して、王の支配ドミネーションを使用しました。】


 この馬鹿女神が、元に戻れと、俺は願い続けた。


「そ、そんなペシペシしないでよ!

 本当に馬鹿になっちゃうじゃない!」

「元から馬鹿なんだから、これ以上は馬鹿になれねーだろ!!」


 王の支配ドミネーションを使いながら、ゼウスの笑顔を思い出す。

 いつも裸でベッドでゴロゴロしていた、アホな女神を思い出す。

 口を開けば我儘放題だった。

 はっきり言って、思い出すだけでムカついてくる。

 ああ、やっぱりこいつって、俺に相当なストレスを与えてたんだな。

 そんな風に思う。

 だけど、


「おちゃらけてて、いい加減で、馬鹿だけど、なんとなく憎めない。

 そんなお前の方が、今のお前よりよっぽどマシだ!」


 ああ、そうか。

 なんでこんなムカツクのかと思ってたけど。

 この馬鹿女神が、平気な顔で土下座して、このパワハラみたいな行為を受け入れて、笑っている。

 スカッとすることが大好きなこいつが、こんな屈辱を受けている。

 俺はそれが――なんだかわからないけど、無性に気に喰わなかったんだ。


「ゼウス、お前は俺がクソ野郎どもをぶっ飛ばすところが見たいんだろ!」


 その事実に気付いたことで――俺の心から湧き出る怒り限界を突破した。


「だったら、元に戻れ!

 お前は俺が真黒をぶっ飛ばすところを見なくていいのか!?」


 これは女神こいつへの怒りじゃない。

 悪魔サターナへの明確な憎しみだ。


「最高にスカッと出来る瞬間を、もう直ぐ見せてやるっ!

 だから――さっさと目を覚ませ、ゼウス!」


 苛立ちをブツけるよう俺は叫ぶ。

 すると、


【あなたのストレスが限界を突破したことで、チートが解放されました。】


 頭の中にアナウンスが響くのと同時に。

 チートの効果が奔流の如く脳内に流れ込む。


(……これは……――この力なら――)


 この状況を、変えられるかもしれない!


「い、いい加減にしなさい!

 さっきからペシペシペシ!

 あたし、もう怒ったんだから!

 土下座も、ワンワンのポーズも、教えてあげ――」

「うるせええええっ!

 これで――元に戻れえええええええええええええええええっ!!」

「ふぎゃっ!?」


 俺は絶叫した。

 が、実はゼウスの額にデコピンをしただけだった。


「え……な、何よ今の――」


 ゲンコツを喰らうと思っていたのか。

 ゼウスは警戒するような眼差しを俺に向けた。


「さっさと元に戻って、そこの悪魔をぶっ飛ばしてやれっ!

 お前だってもう、死ぬほどムカついてんだろ?」

「無駄よ。

 主であるワタシを、ゼウスが殴るなんてありえないわ」


 そう言って、悪魔は妖しい嗤いを浮かべる。


「社白真。

 所詮、人に対しては絶大な力を発揮するチートも。

 超常なる存在であるワタシたちには通用しないわ」

「女神とか、悪魔とか、関係ねえんだよ。

 俺はもう、こいつを元に戻すと決めた!

 今の俺なら――神様だって支配してやるさ!」


 そうだ。

 俺もゼウスも、こんな理不尽に屈するわけにはいかない。

 ブラック企業を改善する前に、悪魔ごときにやられてやれるかっ!

 俺は自分の力で、必ず未来を切り開いてやるさ!


「そうだろ!

 ゼウス!」

「だから、何を言っても無駄よ。

 ねえ、ゼウ――」


 サターナが、ゼウスの肩にポンと触れようとした。

 が、ゼウスが悪魔の手を弾いた。


「なれなれしいのよ、悪魔」

「え……?」

「――チェストオオオオオオオオオッ!!」

「おぶっ――!?」


 そして、女神の拳が悪魔の頬を貫いた。


「クソ悪魔あああああああっ!

 あたしが今直ぐ浄化してやらああああああああっ!!」


 怒りのままに、女神が咆哮する。


「は……!?

 なっ――……なぜ、何が!?

 ワタシの支配が解けたというの!?」

「そうよ、白真のお陰でね!」

「馬鹿な!?

 なぜ!?

 まさか、社白真のチート?

 でも、チートが女神に効果があるなんて……」

「あたしもびっくりしたけど。

 どうやら白真のチートが進化したいみたいね」


 そう言って、ゼウスが俺に目を向けた。

 俺と繋がりのある女神は、直ぐに何が起こったのかを理解したようだ。


「チートが、進化?

 そんな、そんなことが起こりうるの?」

「お前のお陰だよサターナ。

 無限に湧き上がってくるストレスが、俺のチートを進化させた」


 俺の得た新しいチート。

 その名は――神の支配ゴッドドミネーション。 

 ∞という限界すらも突破した俺のストレスは、チートを更なる段階へと進化レベルアップさせた。

 その力は、神の如き支配を行えるチート。


「そんな、そんな……!?」


 後ずさりするサターナ。


「ビビってんじゃないわよ!

 おらっ!

 喰らいなさいっ!」

「ああああああああっ――!!」


 意外と肉弾戦が好みなのか。

 ゼウスは腕挫十字固うでひしぎじゅうじがためをサターナに掛けていた。


「よくもあたしに好き勝手してくれたわねっ!

 ワンワンのポーズ、ふっざけんじゃないわよっ!

 あんたがやりなさい!

 おらおらおらおらっ!」

「ああああああああ、お、おれるうううううううっ!

 悪魔なワタシの腕が折れちゃううううううっ!」

「あたしの怒りはこの程度じゃ治まらないからねっ!

 罠ばっか張って、卑怯者!

 真正面からやれば、あんたなんかワンパンよ!!」

「ここここんな暴力女神と、真正面から戦えるわ――ぎいいいえええええええっ!?」


 な、なんだか、思っていたのと違う展開になっているが。


「サターナ、あなたはこれから天界法で裁かれるわ。

 人間である真黒を利用して、この国を好き勝手変えようとしたんだもの。

 きっとただじゃすまないでしょうねぇ……」

「ぐ、ぐうううう……あ、あなただって、人間にチートを……」

「ええ、何かしら~~~?」

「ぬうううううううう、ごめんなさいごめんなさいごめんなさいーーーーー!!」


 泣いていた。

 サターナは完全に泣いていた。

 暫く絞め続けられ、魂がぽっくりと口から出てしまったように。

 悪魔は大人しくなってしまう。


「ふぅ、これで少しはすっきりしたわ。

 迷惑かけたわね、白真。

 それと、仇花才華も。

 色々と、酷いこと言っちゃったみたいで、ごめんなさい」

「え……あ、いえ。

 あの、ええ、と……な、何が、どうなって……?」


 難しい事態ではない。

 正気に戻った女神が、悪魔を絞め技でしばいた。

 ただそれだけのことなのだから。


「聖なる光よ。

 邪悪なる存在を拘束せよ」


 ゼウスがそんなことを口にすると、サターナの両手足が、光の手錠に拘束された。


「よし、拘束完了。

 後はこいつを、天界に送還するだけ」

「……もう正気に戻ったんだよな?」

「ええ、勿論よ!

 ほら、この輝きを見なさい!」


 ゼウスの背後に後光が射した。


「あ、あつうううい!

 じょ、浄化されちゃうううううっ!」

「ふふ~ん。

 悪魔にはこの神聖な光は耐え難いみたいねぇ~」


 うりうり~。と悪魔に光を当て、ゼウスは楽しんでいた。

 こいつ、悪魔に操られたせいで、ちょっと残酷に……いや、元からだな。


「じゃあ、あたしはこいつを連れて天界に行くから」

「ああ、また操られるとかはやめてく――いや、ちょっと待てゼウス」

「うん、何よ?」


 そうだ。

 こいつは、真黒の協力者。

 だからこそ、


「こいつには使い道がある」


 後手に回ってばかりの俺が、ようやく攻めに回れるだけの手札が揃った。

 待ってろよ真黒暗部。

 もう直ぐだ。

 お前が作った悪夢の帝国を、俺が真っ白に変えてやる。

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