エピローグ 彼方怜悧の誘い


 どこに招かれるのかと思えば。


「どうぞ、上がって」

「「し、失礼します」」


 俺と仇花が足を踏み入れたのは、彼方怜悧のマンションだった。

 大企業の統括マネージャーだけあって豪華な住まいだ。

 俺の住んでいるボロアパートの数倍以上の家賃ではないだろうか?


「す、素晴らしいお住まいですね」

「緊張しなくてもいいわ。

 今日はあなたの昇進祝いなのだから」


 いつもよりも、彼方怜悧の言葉に人間味があった。

 淡々とした機械のように冷たい女性――という印象が強い彼女だが。

 部下の昇進を素直に喜んでいるのだろうか?

 だが、彼女とて真黒カンパニーの人間だ。

 決して油断はならない。


「座って。

 何がいい?」

「何が……とは?」

「お酒よ。

 ビール、ウイスキー、ワイン?

 それとも焼酎や日本酒がいいかしら?」


 まさか俺を酔わせて何か仕掛けてくるつもりか?


「大丈夫よ。

 別に何もしやしないから」

「は、はぁ……って、え?」


 明らかにこちらの考えを読んだような発言の後。

 ウイスキーのロックをなみなみと注ぎ、彼方はそれをガブガブと飲んだ。

 そしてソファにバタンと座ると。


「なんだか緊張しているみたいだから、先に伝えておくわね。

 私――真黒カンパニーをぶっ潰したいの。

 だから社君――協力してくれないかしら?」

「え……?」


 本社に来てから最大級の衝撃と、想定外の発言が俺を襲うのだった。

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