第四章
プロローグ 彼方怜悧との協力関係
「あら、驚いているの?」
「……か、
そ、それはどういう意味でしょうか?」
彼方
これも
今度は彼女を利用して、俺に仕掛けてくるつもりなのか?
様々な考えが頭を巡る。
「そんな警戒しなくていいわよ。
言葉のままの意味。
私は、本当に真黒カンパニーをぶっ潰したいと思ってるの」
会社にいる時に比べて、今の彼方はかなりフランクな口調だ。
こちらが本来の姿……ということなのだろうか?
「……今の発言、俺や
「私はあなたたちが信頼できると判断した。
だから、私の思いを打ち明けているの」
真っ直ぐな、曇りのない眼差しを俺に向けてくる。
とても嘘を言っているようには見えない。
「実を言うとね。
本社のエリアマネージャーに、あなたを迎え入れたのは私なの。
真黒に直接進言してね」
「……なぜです?」
「あなたが普通じゃなかったから」
何かを探るような物言い。
もしや、チートに気付いているのか?
「俺はただの一般人ですよ。
普通じゃないなんて言ったら、この大企業のエリアマネージャー統括である彼方さんの方が、よっぽど普通ではないと思いますが?」
「客観的に見て、この短期間であなたが成し遂げた成果は異常よ?
居酒屋真黒の店長――
上司に噛み付くなんて行動、真黒の社員であれば本来はありえないの。
たとえ中途採用だったとしても、気付けば洗脳されていく。
でもあなたはそうならず、短期間で楽山の不正を暴いた。
だからこそ、私はあなたの事が気になったの」
真黒に近付く為とはいえ、短期間で目立つ行動を取り過ぎたか……。
「真黒カンパニーに不利益をもたらしていた楽山が許せなかったんです」
「過剰なまでの愛社精神というわけね。
洗脳された、真黒の社員ならではの模範的な意見だわ。
でも、この間の
だってあなたはあの会議の場で、権化のことなんて気にもしていなかった。
代わりに見ていたのは、真黒
まるで、自分が倒すべき敵と再会したみたいにね」
……随分とよく俺のことを観察しているな。
彼方の言う通りだ。
あの時の会議の一戦――権化など眼中になかった。
実質あれは、俺と真黒との勝負だったのだから。
「気のせいではないでしょうか?」
「いいえ、間違いないわ。
あなたの真黒を見る目は、私と同じ。
憎悪と怒り――そういう感情に満ちていた」
確かにそういう感情はある。
俺がブラック企業のホワイト化を目指す原動力にもなっているだろう。
だが、俺と彼方怜悧が同じというのはどういう意味だろうか?
「……あの、彼方統括マネージャー。
質問させていただいてもいいでしょうか?」
俺が言葉に詰まっていると、仇花が口を開いた。
「何かしら?」
「あなたにそこまでさせる動機は?」
「当然の質問ね。
でも、話しても面白いものじゃないの。
……ただ、私怨も理由の一つとだけ伝えておく」
私怨……か。
ブラック企業に対して恨みを持つ者は大勢いるだろう。
彼方もそういった人間の一人なのか。
……彼方自身、まだ全てを話してくれたわけじゃないだろう。
だが、真黒カンパニーをホワイト化する為には、もっと大きな力がいる。
統括エリアマネージャーとして、真黒の信頼も厚いであろう彼方が味方になってくれるのなら、それは俺にとっても非常に大きなメリットになることは間違いない。
彼方には悪いが……。
俺はチート――
(……私は嘘は言っていないのだけど。
社君は、どうしたら信じてくれるかしら?)
彼女の心の声が確かに聞こえた。
これなら、
「……彼方さん。
疑ってすまない。
俺はあなたと協力関係を結びたい」
「信じてくれるの?」
「ああ、すまない」
「どうして謝るのよ。
ありがとうでしょ、こういう時は?」
言って、彼方さんが手を差し出してくれた。
本当に、申し訳ない。
勝手に心を覗いたことを、心の中で謝罪しながら、彼女と握手を交わした。
「後悔はさせないわ」
「ああ、俺も後悔はさせない。
元々、俺は仇花と二人で、真黒カンパニーをホワイト企業にするつもりだったからな」
「頼もしいわね!
なら早速、互いが持っている情報の交換をしたいのだけど」
「俺が彼方さんに出せる情報は、ほとんどないだろうけど……」
会社での立場も、勤めている期間も長い分、真黒カンパニーの内情には俺よりも遥かに詳しいはずだ。
「それでも、わかっていることを聞かせて。
どんな些細なことでも、何が役立つかわからないもの。
何より、互いの持つ情報を確かめ合えば、情報の精査や確証に繋がるでしょ?」
「……そうだな」
そして俺たちは、互いの持つ情報を共有していった。
案の定、俺たちが彼方さんに対して提供できる有益な情報などなく。
一方的に情報を提供してもらう形になってしまった。
その中には有益な情報も多く。
真黒カンパニー社長である、真黒暗部が自らが行っている悪事。
粉飾決算をしていることや、株式操作だったり、どうやって調べたのかが不思議なほどの話を聞くことが出来た。
証拠も握っているということだが、その程度では真黒暗部を叩き潰すことは出来ないそうだ。
本社の幹部には政治家や国内の権力者も多く、簡単に握りつぶされてしまうという。
彼方さんの話を聞けば聞くほど、あの男を倒すのは容易ではない。
だが、彼方怜悧という協力者を得たことは、俺にとっては間違いなく光明に違いない。
彼女は社内でも権力があり、真黒からの信頼も厚い。
互いに利害が一致している以上、俺の目的を成し遂げる大きな力になってくれるはずだ。
これで俺も、社内でもっと動きやすくなるしな。
「とりあえず、今日はここまでにしましょうか」
話を続けるうちに、陽が昇っていた。
「そうですね。
残念なことに、出社時間まで残り3時間程度しかないようなので」
「あう……もうそんな時間だったんですね。
私、久しぶりの徹夜です……」
今からなら、確かに寝ないほうがよさそうだな。
少し前までは徹夜慣れしていて、感覚が麻痺していたのだけど。
やはり、徹夜明けで仕事に向かうのは身体がだるい。
だが、辛いと訴える身体に対して、心は違う。
熱く燃え
それは、謎めいた真黒暗部という存在にも、調べつくせば瓦解に繋がる糸口があるということが、彼方さんの話を聞くことでわかったからだ。
国内でもトップクラスのブラック企業の社長だ。
待ってろよ真黒――必ずお前の喉元に喰らいついてやる。
「二人とも泊まってくれてもいいのよ?」
「いえ、俺は帰ります」
「私も失礼します」
社会人としての最低限のマナーとして、身だしなみは整えたいからな。
「そう。
じゃあ、会社で。
仕事が終わり次第、またうちに集まって話の続きをしましょう」
その言葉に頷き。
俺と仇花は、彼方の家を後にするのだった。
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