第1話 チートをもらった俺の選択 ~元の世界or異世界~


「は……?」


 どうなってんだ?

 もしかして、さっき俺が上司をぶん殴ったのって夢か?


「夢じゃないわよ」


 神々しいまでに美しい女が俺のほっぺを抓った。


「いててて……って!?

 痛い!?」


 じゃあこれ、夢じゃないのか!?


「だから夢じゃないって言ってるでしょ?

 あたしがあなたを、ここに転移させたのよ」

「転移……」


 言われて周囲を見回す。

 ここはまるで、ファンタジー世界の酒場のようだった。

 しかも――


「っ――!?」


 気付いて、俺は心臓が跳ねた。

 いや飛び出るかと思った。

 何せ、


「おい!

 なんで服を着てないんだ!」


 目の前の女神は全裸だったのだ。


「そんなもの、着る必要ないでしょ?」

「いや、あるだろっ!

 見えちゃいけないものが色々と見えちゃってるだろっ!」


 主にお胸様とかそういうセクシャルな部分が丸見えでした。

 やっべぇ……こいつ、マジで変態だ。


「あなた失礼ね!

 あたしの完璧な身体のどこが見えちゃいけないっていうの!

 言ってみなさい!

 ほら、言ってみなさいよ!」


 痴女がぐいぐいと俺に近付いてくる。

 確かに隠す必要など一切ない完璧な肢体――って、違う!

 俺は思わず女から背を向けた。


「羞恥心ってもんはないのか!

 俺は男でお前は女だぞ!

 とにかく、何か服を着ろ!

 じゃないと俺は何も聞かないし口も開かん!」

「はぁ……仕方ないわね。

 ……はい、これでいい?」


 声が聞こえて、俺は恐る恐る振り返る。

 すると、真っ白な純白のドレスに身を包んだ女の姿が目に入った。

 信じられないほど美しい。

 思わず見惚れてしまう。

 腰まで伸びた髪は流麗な白糸のように穢れがなく神聖さすら感じてしまう。

 顔の作りもこの世の物とは思えないほど精緻だ。

 呑み込まれてしまいそうな深い碧色あおいろの瞳に見られていると、まるで魅了されてしまいそうだった。

 ……相手が痴女じゃなければ。


「ぼうっとして、どうしたのよ?」

「……あ、いや、えっと……そ、そうだ!

 キミの名前は?」

「あたしは女神――ゼウス・ユースティー」


 女神……?

 しかもゼウス!?

 なに言ってんだこいつ?

 痴女ってだけで怪しいのに、マジで大丈夫か?


「……俺は、やしろ白真しろまだ」

「知ってるわ。

 あたし、ずっとあなたを見てたもの」



 見てた?

 なんだそりゃ?


「あなたはあの陰険な男をぶっ飛ばしたでしょ!

 こう、フック気味のストレートで!

 あのパンチが綺麗に入った瞬間――あたしとってもスカッとしちゃった!」

「ああ、あれは俺もスカッとしたよ」


 だが、考えなしの感情に任せた行動だった。

 あれじゃ俺は会社をクビ――いや、それどころか刑務所行きだったろうからな。


「働くって……理不尽な事だらけよね。

 あたしも上司の女神にさんっざんパワハラ喰らっててイライラしてるから、

 あなたの気持ちすっごくわかるわ。

 ……性格捻じ曲がってくわよね」


 はぁ……と深いため息を吐く自称女神。


「よくわからないが、お前も苦労してるんだな」

「ええ。

 女神の社会はストレス社会なの。

 ちなみに、異世界ストレス社会ランキングで3位にランクインしてるわ!

 次の1位候補の一角と言われてるの」

「へぇ……」

「へぇ……って、あなたね!

 どれだけ大変か語ってあげましょうか!」

「いや、別に興味な――」

「たとえば最近だと……いっちばん面倒で腹が立ったのはヴァルハラの宴ね。

 地上から勇者を勧誘して、酔っぱらわせていい気分にさせろって上司から命令されるのだけど、女神であるあたしがお酌係りよ!

 しかも休日出勤!

 ま、神界労働基準局すら真っ青な、とんでも契約を結ばせないといけないから、お酌くらいは百歩譲って許してやるけど……あろうことか、あいつらこのあたしのお尻にタッチしてきたりするわけ!

 酔っ払いだから許されるみたいな感じで!

 あれは立派なセクハラよ!

 でも、上司は我慢なさいって目で訴えかけてくるの。

 もし逆らったら一生昇進できないと思え。ってあの目は訴えかけてきていたわ!」 


 女神の社会も大変らしい。

 ていうか勇者、セクハラとかすんなよ。

 幻滅だよ。


「とにかく、日々の労働であたしはすっごくストレスが溜まってる。

 解消方法は女神の力を使って、あたしが管轄する世界からクソ野郎を見つけ出して天罰を下す事くらいだったわ」

「天罰?」

「そう。

 で、次の天罰候補があなたがぶん殴ったクソ上司だった。

 だから、あなたの姿もずっと見てたってわけ」

「はぁ……?」


 それが俺がここに転移させられた事と、何が関係しているのだろうか?


「それでね。

 そろそろ天罰を下そうかなぁと思っていた時よ!

 あなたがあのクソ上司をぶん殴ったの!

 それを見てたらあたし、すっ~~~~~~ごくっ気持ちよくって!

 興奮したし何よりスカッとしたの!

 あれは自分が天罰を与えるだけじゃ得られないカタルシスだったわ!」

「まあ、人を殴るなんて事、普通は出来ないからな」

「そう!

 だからね白真!

 あなたには、これからもあたしをスカッとさせてほしいの!」

「スカッと……?」

「ええ。

 あなたの国って、異世界に転移して人生やり直したい人がいっぱいいるのよね?

 あなたもそうなんでしょ?」


 おい女神!

 俺の人生を黒歴史みたいに言うな!


「だったら、あたしがあなたを異世界に送ってあげる!

 しかもチートもあげるわ!

 だからそのチートの力を使って、あたしをスカッとさせて!」

「……チートをくれるのか?」

「チートをあげるわ!

 スカッとさせてくれるなら、チートなんてただであげまくりよ!」


 どんだけストレス溜まってんだお前。


「でも、スカッと言われてもなぁ」

「方法はなんでもいいのよ。

 ほら、チートで悪者をばっさばっさと薙ぎ倒して無双して俺tueeeee! したりとか。

 チートがあれば人の人生なんて楽勝よ?

 神生じんせいはチート程度じゃどうにもならないけどね。

 ああ……言っててまた悲しくなってきたわ」


 神生って辛いんだな。

 そうか。

 チートで異世界を……か。

 それはそれで面白そうだ。


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