第3話 店長の真実
そして居酒屋真黒で働き始めてから今日で3日目。
俺なりにこの店舗の状況を色々と調べていた。
「さぁ、今日も粉骨砕身、お客様の為に働こうじゃないか。
誰かの笑顔は自分も幸せに出来るのだから!」
店長は朝礼で、スタッフに立派な言葉を投げ掛けていく。
だが、その言葉は間違いなく嘘だ。
たとえば――
『自分はお客様の笑顔を見るだけで、その幸せだけで生きていける』
こんなことを言っていた。
もしかしたら、理想論者からすると耳に心地いい言葉かもしれない。
だが、はっきり言ってイカれてる。
しかもこの間、こっそりと店長室の中を覗いたが、しっかりとカップラーメンを食ってやがったからな。
あれをこの店のスタッフ全員に見せてやったら、どんな顔をしたことか。
だが、この程度じゃまだダメだ。
ここのスタッフを洗脳から解き放つことなんて出来ない。
それに――この店長は、突つけばまだまだ面白い物が出てきそうだ。
「ところで社君、わたしたち居酒屋真黒のスタッフは、給料を慈善団体に寄付し社会貢献をしているのだが、恵まれない子供たちの為に君もどうだい?」
ほら、早速きた。
どうやら店長は、毎月自分の給料を寄付しているらしい。
何せお客様の笑顔で空腹が満たされるのだから、生活するのに金はほとんどいらないのだろう。
笑えてくるね。
寄付と言っているが、その金はどこに流れるのか想像はつく。
こいつは洗脳だけじゃなく、詐欺の才能まであるみたいだ。
「店長はやはり素晴らしいです!
僕も今までよりさらに、寄付させていただければと思います!」
副店長は虚ろな目で感動していた。
本当に気味が悪い。
副店長が、もし店長の本当の姿を見たらどうなるか。
これは今から楽しみだ。
『ねえ、白真。
そういえば副店長のステータスは確認した?』
『いや、そういえば見てないな』
『何か利用できるかもしれないし確認してみたら?』
『……そうだな』
悩んだが何かに利用できる可能性はある。
俺は副店長のステータスを確認した。
すると……
「……これは」
面白い数値が見えた。
これはもしかしたら、利用できるかもしれない。
「社君、君はどうかね?
寄付はいいものだぞ!
子供たちを笑顔にし、自分の心を温かく出来るのだから!」
「そうですね、考えておきます」
本当にその言葉が真実なら、俺はあんたを尊敬するよ。
だが、あんたを嘘を吐いてる。
だから暴いてやる。
お前の嘘を。
「いつでも言ってくれたまえ!」
「はい」
表面上は笑みを浮かべ、俺は店長に返事をした。
心の底ではこの男を嘲笑いながら。
※
今日も休憩なしで9時間が過ぎ去った。
店長は毎日、定時に仕事を上がる。
「すまないが、わたしはこれから本社で会議がある。
もし本社から電話があった場合は、折り返すと伝えてわたしに直接電話を頼むよ」
これが、定時上がりの言い分だ。
店長が本社へ行くこと自体は何もおかしくはない。
だが大企業の本社での会議が、定時を超えた時間にあるのだろうか?
普通に考えれば、それはありえない。
店長室には本社のエリアマネージャーから電話がかかってくることがあり、社員はそれを遅くても3コール目までには取らなくてはいけないのだが。
その電話が定時を過ぎてかかってきた事は今のところはなく、この時間から本社で会議が行われている可能性は低いだろう。
「なあ、仇花。
店長は毎日定時に帰るのか?」
「はい……。
店長が残業というのは、ほとんど見たことがないです」
残業はしない……か。
この店舗はカードキーで打刻しそのデータをサーバーで管理しており、残業時間に関わらず打刻は定時に済ませることになっていた。
もし打刻がずれた場合は店長に申請すれば修正することも可能らしい。
(……スタッフの労働時間は店長自身が自由自在に変えられるってわけだ)
俺が確認した3日間、店長は朝も夜も打刻をしていない。
つまり、データ上は24時間働き続けていることになっている。
忘れているわけじゃない。
確信犯だろう。
その理由は何かと考えれば、金が目当てなのは明白だ。
後は金の流れを探りたいところだな。
『ねぇ白真、店長室には忍び込まないの?
店長はいないんだし、今がチャンスじゃないかしら?』
『忍び込む必要なんてない。
堂々と入ればいいんだからな』
店長室という名前ではあるが、鍵は社員が持っているカードキーで開けた。
これは店長が不在の可能性を考慮しての処置らしい。
その為、当然のことだが見られて困る物は置かれていない、もしくは片付けられているだろう。
だが――。
「仇花、俺は今から店長室に行ってくる」
店長室に向かうなら、副店長が厨房にいる今がチャンスだろう。
「店長室に……?」
「ああ、ちょっとした仕掛けをしたいんだ」
「……仕掛け……ですか?」
「ああ、仇花。
少しだけホールを任せてもいいか?」
「は、はい!
私で力になれることなら、なんでも言ってください!」
「助かる。
直ぐに戻ってくるから!」
俺は店長室に向かった。
直ぐに店長室には向かわず、休憩室から更衣室に入り自分のロッカーを開いた。
『そういえば白真、朝何か鞄に入れてたわね』
『ああ。
ここ数日で、店長が定時に帰るのがわかったからな。
だから――こいつを持ってきた』
俺が鞄の中から取り出したのはカメラだ。
『これであの店長を監視するわけね』
『ああ。
店長室から偉そうに俺たちを監視しているんだろうからな。
俺たちに監視されたって、文句はないだろ』
小型のカメラを店長室に複数設置する。
音声も確認したい為、集音器も取り付けた。
勿論、ばれないように細心の注意を払って。
これらのカメラは全て、俺のパソコンに映像が流れるように設定してある。
さて、明日から何が見られるか。
口では理想的な事ばかり言う偽善者の、本当の姿を見せてもらうとしよう。
※
そして――さらに5日間が経過した。
俺が真黒カンパニーに入社してから、既に1週間が過ぎ今日で8日目となった。
ほとんど働き詰めで1日3時間も眠れていない。
店長以外の全スタッフがそんな状況だ。
俺自身、皿を運びながら眠ってしまったのは初めての経験だった。
スタッフの体調が気になりステータスを確認してみたが、ストレスがカンストしていた。
体力も徐々に落ちている。
このままでは、いつか過労死してしまうだろう。
だが、こんなクソみたいな生活は今日でおしまいだ。
「では今日も一日、お客様の笑顔の為に」
今日の朝礼も、店長は接客業の鑑のような発言を口にし、そそくさと店長室に戻って行った。
「社さん、私も……」
「ああ、頼んだぞ」
仇花も店長を追うように休憩室の方に向かった。
「やはり店長のお言葉は胸に染みるね!」
副店長は今日も変わらず店長に心酔していた。
宅配専属のもう一人のスタッフも同様で、二人は相変わらず盲目的に店長を称えている。
だが、
「それが心の底からの言葉なら、そうでしょうね」
真実を知っても、同じ事を口に出来るだろうか?
「……?
それはどういう意味だい?
社君はまさか、店長の言葉が偽りだとでも言うんじゃないだろうね?」
「ええ、その通りですよ」
怒りを露わにする副店長に対して、俺は挑発するように言った。
「社君、店長は素晴らしい方だ。
この店舗の仕事だけでなく本社から任された仕事をこなし、身を粉にして働いている。
何より、慈善団体にも多額の寄付をし社会貢献までされている方だぞ」
「だから、それが嘘だって言ってるんですよ」
「貴様、何を根拠に――」
「根拠なら、今から見せてやりますよ。
今から休憩室に行ってください」
「何を言っているんだ!
店を開く前に掃除をしっかりとこなさなければ――」
「いいから、行ってきてください。
仇花が準備をしてくれていますから。
店長の真実が知りたいなら――」
「……そこまで言うのなら、見せてもらおうじゃないか!」
店長の真実……そんなフレーズに引かれたのだろうか?
思っていたよりも簡単に副店長たちは休憩室に足を向けてくれた。
「ええ、楽しんで来てください。
その間は俺がしっかりと仕事をしておきますから」
監視カメラがある以上、流石に全員で抜けるわけにはいかない。
しっかりと仕事をする姿を見せておけば、少しは目くらましとして時間を稼げるだろう。
それから、5分ほど時間が経った頃。
「や、社さん!」
声を張り上げて俺の名を呼んだのは仇花だった。
バタバタと大慌てでこちらへやってくる。
「ふ、副店長たちが店長室に――」
想定通りの展開だ。
『面白くなってきたじゃない!』
『これからもっと面白くなるさ』
さて、それじゃあ俺も店長室へと行くとしよう。
ペテン師を破滅させる為に。
※
「店長、どういうことです!
あなたの言っていたことは、全て嘘だったのですか!」
店長室から副店長の大声が聞こえた。
『もう始まっているみたいね』
俺と仇花も中に入り様子を見る。
「一体、あれはどういうことですかっ!」
「ふ、落ち着きたまえ。
一体どうしたというんだ?」
「どうしただって!
僕たちを馬鹿にしておいて、よくもそんなことを言えますね!」
「ば、馬鹿にだって……?
わ、わたしがいつ君たちを馬鹿にしたというんだい?」
副店長を始め、もう一人のスタッフも怒りを爆発させている。
そんな中、店長だけは右往左往と戸惑いを露にしていた。
「店長、ご説明しましょうか?」
俺は店長に声を掛けた。
「説明……だと?
何を説明するというんだね?」
「副店長の怒りの原因についてですよ。
仇花――あれを」
「は、はい!」
仇花は持っていたノートPCの画面を店長に見せた。
するとそこには、
「なっ……!?」
「何が映っているように見えますか?」
「なぜ……わたしの姿が……」
ノートPCにはこの場所が――店長室が映し出されていた。
「姿だけじゃありません。
声だって聞こえる」
『姿だけじゃありません。
声だって聞こえる』
俺の言葉がノートPCを通じて同時に再生された。
「な、なぜこんなことを……!?
こんなことは犯罪じゃないか!
許されると――」
「犯罪……ね。
だとしても、あんたがしてることよりよっぽどマシだ」
「ぐっ……」
店長の言葉を遮るように、俺は口を開いた。
「副店長。
さっき店長は、この部屋で何か言ってましたか?」
「店長は……店長は……!
僕たちを嘲笑っていたんだ……!」
「嘲笑う?
馬鹿な!
わたしが大切な店のスタッフ君たちを嘲笑うなど!」
「嘘を言うなっ!
言ってたじゃないか!
僕たちのことを『奴隷だ』って!」
そんなことを言ってたのか。
それは、俺にとっては都合いい。
「へぇ、そんなことを店長が……。
口では会社とお客様の為にとか。
働かせていただく事こそ喜びだとか言いながら?」
「そうだ!
僕たちを騙していたんだっ!」
「違う!
全部、そいつの嘘だっ!
副店長!!
君はわたしよりも、その男の言った言葉を信じるのかね?」
悪人っていうのは、どうして悪足掻きが好きなのかね。
『ぷぷっ、白真。
あいつ焦ってるわ!
効いてる、効いてるわっ!』
クソ野郎が落ちていく瞬間を、ゼウスは今か今かと待ち望んでいるようだ。
既にもう詰んでいるのも同然だが……まだまだ踊り狂わせて、逃げ場所がなくなるまで追い込んでやるとしよう。
「店長、残念ですが……これだけじゃないんですよ」
「は……?」
「ハードディスクには録画したデータがあるんです。
あなたがしていたこと全部――カメラを通して録画されてるんですよ」
「ばばばばば馬鹿なっ!?」
「ほら、これなんて面白いですよ」
俺は仇花からノートPCを受け取り、ハードディスに録画してある動画を再生した。
そこには――。
「がっ……」
「ななななななんてものをっ!?」
「店長……あなたは……」
ちなみに、この動画は仇花には見せていない。
「社さん、それは……?」
「仇花は気にしなくていい」
見せられないのだ。
何せこれは仕事中であるにもかかわらず、店長がエロサイトを見ているところが映っているのだから。
「楽山店長……あなた仕事の喜びを誰よりも知っているはずですよね?
でもお客様の笑顔の裏で、一体何をされているんですか?」
「こここここんなのは、君が作り上げたでっちあげだろっ!」
「まだ言いますか。
ですが、それを信じるか信じないかはスタッフの判断でしょう」
いくらスタッフが洗脳されているとはいえ、いや洗脳されているからこそ――裏切られたと知った時の衝撃は計り知れないだろう。
何せ彼らのストレスはカンストしているのだ。
洗脳されているからこそ、耐えられていたストレスが――爆発すればどうなるか。
「それにあんた、こんなことを言ってたよな?
お客様の幸せで腹が膨れるだったか?
じゃあ――これはなんだよ?」
次の動画を再生すると、店長が食事をしていた。
「な……なななななああああああ……!?」
「ここ数日のヤツが全部あるぜ?
カップラーメン、スーパーやコンビニの弁当、アイス、それだけじゃない。
意外とお菓子が好きなんですね」
店長はたがたがたと震えだした。
「僕たちが食事も取らずに働いている時に……」
「最低だ……。
お客様の笑顔が、あんたの栄養じゃなかったのかよ!」
普通に考えれば、そんなもんじゃ腹は膨れない。
「せめて胸がいっぱいだ。とかなら、美しい言葉だったんですがね……。
見ての通り、店長はお客様の笑顔よりもお菓子が好きらしい」
「ふざけやがって……!
ふざけやがって……!!
ずっと僕たちを騙してたのか……!」
店長へのヘイトは、そろそろ限界に向かっているだろう。
だが、最後にとっておきがある。
「そうそう、これも見てくださいよ」
俺の声が聞こえたのか、皆の視線がノートPCに集まった。
そして店長は目玉が飛び出すんじゃないかというくらい、大きく目を開いた。
「最初、何をしているのかと思ったんです。
何かを見ているようでしたから。
でも、拡大してみてわかりましたよ。
これ――通帳ですね」
俺は動画を一時停止して拡大する。
少し画像は荒くなったが、そこにはびっしりと数字が書かれていた。
一体、何桁になるのだろうか?
百万……いや、一千万を超えていた。
「不思議ですね。
あなたは慈善団体にお金を寄付しているはずだ。
なのにどうして、これほどの残高があるんでしょうね」
「ちちちちちち違う、こここここれは――」
「しかも残業代が出ないはずのこの店で、だ」
「そ、そうですよね……。
どうして……?
いくら店長でも……こんなお金……」
「違うんだ。
これは、今から寄付をする金で――」
「なら、それはのちほど寄付していただきましょう。
ただね、問題はそこじゃない」
俺が言うと、副店長がはっとした顔を見せた。
「……そうだ。
どうやって、こんな金を貯めたんだ……?」
「そう――仮に残業代が出ていた程度じゃ、貯められるはずがないんですよ。
こんな金額は」
「せ、生活を切り詰めて貯金をすれば……」
「違うね。
あんた――従業員の残業代を自分の口座にプールしてるだろ?」
「――ばばばばばばばばかなっ!
な、何を根拠に……!?」
根拠なんてない。
だからここからはでっち上げだ。
仮にこれで乗ってこなければ、最悪は
店長が焦燥感に支配されている今なら。
「サーバーを見せてもらったよ。
従業員の労働時間――本来はつかないはずの残業が、データ上はしっかりついていた。
じゃあ、その金はどこに流れているか。
その金は寄付という名目で全部、ある口座に流れていた。
そして――あんたが見ている通帳がその口座だ」
口早に俺が言うと。
「なぜだ……!?
なぜわかった!?
わたしのパソコンはロックを掛けていたはず!!
どうやってパスワードを!?」
読み通り、乗ってきた。
「馬鹿が――認めたな」
「え……?」
「パスワードなんて、ハッカーでもない俺が簡単に調べられるわけねぇだろうがっ!」
「なあああああああああっ!?
だだだだだだ騙したのかっ!?」
店長は途端に大慌てする。
『ぷぷっ、こいつおバカねぇ~』
本当に間抜けな奴だ。
こんな奴が、他人を洗脳して自分だけ利益を独り占めしてやがったなんて。
ここからは報いを受けろ。
今までスタッフを騙し――洗脳してきた報いをな。
「みんな、これでわかっただろ?
こいつがどんだけペテン師かってな」
「店長……いや、楽山……!
貴様は――僕たちを、僕たちをよくも騙してっ!!!」
俺に煽られたのを切っ掛けとなかったのか。
副店長は怒りが抑えきれないとばかりに楽山に飛び掛かった。
今まで溜まっていた鬱憤を晴らすように。
洗脳を断ち切り、信者が教祖に反旗を翻す――支配者からの脱却が始まったのだ。
『始まったわね……。
でも、これで終わり?』
つまらなそうにゼウスは言う。
いまいちスカッと出来ていないのだろう。
『ここからだよ』
だが、まだ始まったばかりだ。
「このクソ野郎がっ!」
「ふざけがやって!
あんたは尊敬できる上司なんかじゃなかった!
――ただのペテン師だっ!」
仇花はスタッフたちが暴動を起こす光景を唖然と見ている。
醜い光景だ。
こんなもの、彼女に見せるべきではなかったか。
「くそおおおおおおおおっ……」
そう思っていたが、店長は最後の悪足掻きをするように店長室から飛び出した。
『白真、逃げたわよ?』
『逃がすかよ』
俺は急ぎ店長を追いかける。
俺だけじゃない。
ガタガタと騒ぎ立てながら、店長に対して怒りが治まらないスタッフたちが、一斉に部屋を出ていく。
店長が厨房に入っていくのが見えた。
『裏口から逃げるつもりかしら?』
俺もそう思っていた。
だが、
「く、来るなあああああああああああああっつ!!」
違った。
「わ、わたしは……こ、これがバレれば……わ、わたしは……もう……」
錯乱状態の店長が包丁を手にしていた。
いや、その姿は何かに怯えているようにも見える。
『白真、ヤバいんじゃない?』
『……』
何をする気だ?
店長の行動を見守っていると。
「わ、わたしはもう――破滅だああああああっ!?」
持っていた包丁を自分に向けて――
「だめえええええええええええええええっ!!」
包丁を振り下ろした直前、誰よりも速く仇花が動いた。
店長の自殺を防ぐように。
だが、振り下ろされた刃は止まらない。
一直線に、仇花の命を奪うように――。
「仇花……!」
自殺をしようとした仇花が……今度は自殺をしようとする人間を助けようなんて。
(……何を考えてんだ)
その行動の原因は――後で聞かせてもらうとしよう。
俺は1週間前に手に入れたチート――
戻す時間は数秒前――。
※
視界が揺れた直後――包丁を持った店長が目に映った。
数秒前に見た光景。
さっきは俺たちに向かってくるのではと警戒してしまったが。
動きがわかっていたら対応は簡単だ。
仇花が走り出そうとするのが見えた。
だが、それよりも早く俺は店長の下へ走る。
「今までやってきたことの罪も償わず、死んで楽になろうなんて甘いんだよっ!!」
「ぶごおおおおおおっ!?」
俺は全力で、店長を勢いのままにぶん殴った。
拳で頬を貫くと、
――パアアアアァーン!
気持ちいいくらいの音が鳴る。
『あああああああ、いいわぁっ!
やっぱり、これがないとね!』
心底スカッとしたような、ゼウスの声が聞こえ。
同時にぶっ倒れる店長。
その手から包丁が吹き飛ぶ。
「死ぬなんてことはな、今までやってきたことの罪を全部償ってからだろうがっ!」
倒れる伏す店長を見下ながら、
「真黒カンパニー本社に連絡させてもらうよ。
あんたがやってきたこと全て暴露してやる」
「そそそそそそそれだけは、どうか……本社には本社にだけは!!!」
「もし死にたいなら、もっともっと絶望してから地獄へ落ちろ!」
「あ、ああ……」
「それが出来ないなら、俺がお前に死ぬより恐ろしい絶望をくれてやるっ!」
「う、うあああああああああああああああああああああああっ!?」
厨房に叫び声が響く。
そして、何もなくした男は、廃人にでもなったように意識を落とすのだった。
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