エピローグ 次の舞台へ


 辞表が受理され、有給休暇も全て使い切った。

 最後の出勤日――名残おしそうに、みんなが俺に声を掛けくれた。

 ありがとう。とか、憧れてます。とか。

 大袈裟なことばかり言ってくる

 でも、たった一年だけど本当にいい会社になった。

 名残惜しい。

 そう思えるくらいに。

 だが、俺には目標がある――だから、立ち止まるわけにはいかない。

 その想いを胸に会社を出た。

 その時――


「社さん……!!

 あの本当に辞めちゃうんですか?」


 夢岬が慌てて俺を追いかけてきた。

 必死な形相で俺を見つめる。


「ああ。

 もっと早く辞めるはずだったんだけどな」

「私たちを心配して、残ってくれたんですよね」

「いや、みんながいい奴だからもっと一緒に働きたくなったんだ」

「なら、一緒にこれからも頑張りましょうよ!

 私――社さんともっと一緒に働きたいです!」


 夢岬が真摯な表情で俺を見つめる。

 真っすぐな、嘘偽りのない想いが伝わってくる。


「嬉しいよ。

 だけど――俺はこれからも進むよ」


 この会社でみんなと働くのは、きっと楽しい。

 だけど俺は、道を変えるつもりはない。

 その想いが伝わったのか、


「……そう、ですか。

 でも社さんなら、絶対にそう言うと思ってました」


 夢岬は柔和な笑みで微笑む。


「覚えてますか?

 前に社さんが言っていたこと。

 この会社はもっといい会社になるって。

 社さんの言った通りになりましたね」


 覚えている。 

 忘れるはずがない。


「社さん、今までありがとうございました!

 あの日――社さんがこの会社を変えてくれてから。

 私にとってずっと変わらず、あなただけがヒーローです!」


 あの日――丁度、一年前の出来事。

 伝えたい。

 俺が道を迷わず進める切っ掛けをくれたのはキミだったって。

 でも、その言葉を胸にしまう。


「ヒーローなんて大袈裟だよ。

 俺は、ただのサラリーマンだ」


 そして俺は進む。

 次のブラック企業戦場へと。




 第一章 完

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