エピローグ ブラック企業が消える、その時まで――。


 真黒との戦いを終えた後も。

 俺は真黒カンパニーに残り、社内の待遇改善に努めた。

 国内トップクラスのブラック企業だった真黒カンパニーの姿はもう消えて。

 今では、誰もが安心して働くことの出来る優良企業へと変化している。


(……ここで、俺が出来ることはもうないな)


「社さん、どうしたんですか?」


 仇花が、デスクにコーヒーを置いてくれた。

 あの戦いの後も、仇花は真黒カンパニーをホワイト企業にする為に頑張ってくれている。


「いや、そろそろ次の会社を探そうかなってな。

 あ、先に言っておくが――」

「なら、私も付いていきますね」


 先に言われてしまった。

 当然ですよ。とばかりにニコッと笑い俺を見ている。

 少し前まではおどおどと弱気だった彼女も、随分と成長していた。


「そっか……なら、これからもよろしく頼むな」

「はい!」


 どんなに強力な力を持っていても。

 仲間は多いほうが心強い。

 真黒暗部との戦いだって、俺一人の力で勝利したわけではないのだから。

 そして俺と仇花は、揃って辞表を提出したのだった。



 

          ※




「二人とも、本当に行くのね?」


 退職当日。

 彼方さんに挨拶に行った俺たちを、名残り惜しそうに見送った。


「いくら世論が動いて、労働者の待遇が改善されていても。

 この国には、まだまだブラック企業が山ほどあるからな」

「……そう」

「彼方さん、これまでありがとうございました」

「それはこっちのセリフ。

 真黒カンパニー打倒の夢が、本当に叶えられるなんて。

 私の力じゃ絶対に出来なかった……。

 だから本当にありがとう。

 それと社君、これを……」


 彼方さんは連絡先の書かれた一枚の紙を俺に差し出した。


「これは……?」

「まだ発足して間もないらしいのだけど。

 どこの国や権力者にも属さない、ブラック企業対策機関らしいの。

 私に真黒の情報を流してくれていた協力者の連絡先」


 彼方さんが独自の情報源を持っているのは知っていたが。

 まさか、政府にそんな機関があるなんて……。


「社君の手助けになるんじゃないかって。

 あなたの目的を考えれば、ここに所属しちゃうのも、ありだと思うんだけど?」

「……連絡先は受け取っておく。

 でも、ここに所属するっていうのはないかな」

「あら?

 悪い話じゃないと思ったんだけど?」

「どこかに身を寄せると、行動が制限されそうだからな。 

 それに、その機関がブラック企業じゃないとも限らないだろ?

 いざって時は、俺が取り締まらないとな」

「ふっ……ふふっ――なるほど、あなたらしい考えね」


 冗談のつもりで言ったのだけど。

 半ば本気だと思われたかもしれない。


「じゃあ、二人とも元気で。

 何かあったら、必ず力になるから」

「ああ」

「またいつか、お会いしましょう!」


 俺たちは彼方さんとの挨拶を済ませ、会社を出た。


「社さん、これからどうしますか?」

「そうだな……」

 考えながら、ふと空を見上げる。

 真黒の一件で、かなりスカッと出来たのか。

 ゼウスも最近は俺に話し掛けて来ない。

 天界の仕事に忙殺されているのかもしれない。


『――白真、白真!

 聞いて、聞いてよ!!』


 そんなことはなかった。


『最近大人しいと思ったら、どうしたんだよ?』

『も~~~~~我慢できないの!

 天界がブラック過ぎるの!!』

『はぁ……』


 前に聞いている天界の労働環境。 

 それは地獄のように凄まじいらしい。


『あたし、物凄くスカッとしたい気分なの!

 だから今直ぐ、ブラック企業のクソ上司共をぶっ飛ばしに行って!

 寧ろ、天界に送還するから、あたしの上司をぶっ飛ばして!!』

『無茶言うな……』

『無茶じゃない!

 そうよ、今から家に行くから!

 対策会議よ!』

『お、おい――』


 一方的に会話が途切れた。


「社さん、どうかしましたか?」

「……仇花、俺もしかしたら。

 天界に行くことになるかも?」

「え……えええええええっ!?」


 まぁ、実際にそんなことになるかは、まだわからないけど。

 俺の戦いは、これからもまだまだ続いていく。

 全てのブラック企業が消える、その日まで――。

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クソ上司をぶん殴ったら、異世界に飛ばされた。~そして俺はチートを手に入れ、ブラック企業を改善する!/スフレ カドカワBOOKS公式 @kadokawabooks

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