Ambition of sukekiyo2

 まず私はアコさんの家に向かいました。外から見た限りでは家の中は真っ暗で誰もいないようでした。まぁいても関係ありませんが。門をくぐり、玄関の横にある細道を通ると裏庭に出ました。庭と言っても子供が遊べるようなスペースはなく、ちょっとした植物と簡易倉庫があるくらいでした。私は猫よけに置いてある水が入ったペットボトルに囲まれた物置の前に立ちます。扉は錆びていて少し力を入れる必要がありました。ギギギと金属が擦れあう嫌な音をたてながら、扉を開け、中を覗きます。すると私の予想通り、中は空っぽでした。何も入ってないどころかホコリ一つありません。

 私は物置に足を踏み入れ、奥の壁の隅っこに手をかけました。ちょっとした出っ張りを掴み引っ張ると、ガコン、という音とともに壁が外れました。やっぱり。二重構造になっていたのですね。隠し部屋、ならぬ隠し倉庫を見つけた私は気分が高揚するのを抑えながら中を物色しました。中身も私の予想通り、血のついたバットや、刃先が赤黒く変色したノコギリ、ゴルフバッグ?みたいなものもありました。きっとアコさんはこれらを使って施しを繰り返していたのでしょう。

 私の目が節穴でなければアコさんはきっと神の使い、天使であるはずです。神はアダムとイヴが禁断の果実を食べた時も、カインが弟アベルを殺したときも、救いの手を差し伸べて下さりました。なので今、この現代社会に生きる世界中の罪人達にも哀れみをくださるはずです。しかし神はお忙しい。だからこの世に一人の天使を遣わせました。それが小泉アコさんだったのです。彼女はよくやってくれました。この世では殺人はタブーとされていますがそのリスクを背負ってでも繰り返し、一人でも多くの人間を救済してくれました。彼女は救世主です。ですがそれを理解しない人間、救いの手を払い除けた人間、恩を仇で返すような人間に殺されてしまいました。彼女は一人で、孤独で、心寂しかったはずです。そんな彼女を殺すなんてとんでもない!アコさんアコさん、アコさんの積み上げた努力はここで途切れていいものなのでしょうか。否、それはありえない。してはいけません。

 私がこれから行うことはアコさんが寂しくないように、そして彼女の意思を引き継ぐためです。ならば彼女が使っていた道具、手段、法則を真似るのが道理でしょう。私は倉庫から道具一式を取り出し、ゴルフバッグに詰め込んでその場を去りました。

 家に着いた私は自分の部屋の壁に拡大コピーした地図を貼り付けました。勿論法則性に従って施しを行うためです。殺す場所、死体を置く場所、ルート、さまざまな情報を書き込みました。ふぅ。これだけ書けば一ヶ月は何も考えずに行動できるでしょう。何も事情を知らない人が見ても分かるくらい完璧です。

 あとは道具、法則は揃いました。あとは手段ですか。アコさんが殺される前に確かニュースで女子小学生の死体にメモが入っていましたね。それをリスペクトしてみましょう。私は適当にノートをちぎってペンを手に取りました。何か不気味で、魅力的なメッセージ。うーん。難しいですね。私はパソコンを立ち上げ、『ボコボコ』と検索しようとしました。しかし予測変換欄に興味深い文字を見つけます。あ、このサジェスト面白いですね。サジェストを入力し、一番上に出てきたサイトに目を通します。そこには様々な記号のみを使って猫のようなイラストが描かれていました。アスキーアートというらしいです。このキャラクターが言っているセリフがとても印象的だったのでこれを使わせてもらいましょう。

 私は紙の切れ端に『ボコボコにしてやんよ✩』と雑に書き殴りました。✩はアコさんリスペクトです。彼女のメッセージをそのまま流用しても良かったのですが何となくやめました。理由はありません。

 準備、もとい今できる計画の第一段階はこんなものでしょうかね。第二段階の撲殺は、そうですね。一ヶ月後にしましょう。しばらくは学校生活を送り、小泉トウコさんを観察します。彼女の様子に変化がなければ殺害しましょう。当然ですが撲殺ですよ?アコさんと同じ楽園に行かせなくてはいけませんからね。あ、逝かせなくては、です。とにかくトウコさんは勘違いで殺してしまった可能性が高いので、そのことをアコさんに説明すればきっと許してくれるでしょう。仲の良さそうな姉妹なので問題はなさそうです。

 彼女がもし、アコさんの意思を受け継ぎ、『撲殺少女工房』として活動されるのであればなるべくそれを影から助けることにしましょう。全ては愛しきアコさんのために。

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撲殺少女工房 清浄院夏海 @switchge003

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