はくちゅーむ2
ドンガラガッシャーン。今度は誰かの部屋の中に落ちたようで周りのものを巻き込みながら着地、もといグシャった。いってーな。痛くないけど。夢だし。
夢だとは言え誰かの部屋をこうも滅茶苦茶にしてしまうとは申し訳ないな。神様パワーで片付けてあげようかな。でもさっき能力使えなかったしパワー足りてないのかな。じゃあこんな無駄なところで使いたくない。やっぱダメ。自分で片付けて。
部屋全体を見渡すとウチが落ちてくる前から散らかってたみたい。片付けろよ汚ねーな。つーか夢なんだからもっとロマンある落ち方してくれよ。例えばそこそこイケメンの男子がウチをお姫様抱っこでガシッとキャッチしてくれるとかさ。親方!空から女の子が!あー懐かしいな。あのアニメ。三十秒で支度しな!あれ、四十秒だっけ。どうでもいいか。パーパラッパーパーパパパパパーパパ。パーパパパパパーパパパーパパパパパパー。パーパパパパパーパパパーパパパパパー。行ってくるよ。デンデンデンデンデデデンデデデデデン。ブィィィィィィィンブィィィィィィィンブィィィィィィィン。夜明けまでは!?あと一時間!ブゥゥゥゥゥン。プシューキィィィィィン。ダダダダダ。どいて!カチッ、バァン!ダダダダダ。バキューンバキューンバキューン。待ってて今行く!バキューンバキューン。ダダダダダ。鬼ごっこは終わりだ。ダダダダダ。待てー!カチッ、パキィィン。チャカチャカチャカ。時間だ答えを聞こう!ギュイイイイイン。あ~目が~。ドゴーンバキーングシャーン。タララーララーラーラータラーララーララーラーラララー。あ終わっちゃった。今度再放送やってたら録画しようそうしよう。脳内ロードショーも終わったことだし部屋の探索っと。つーかこの部屋見たことあるな。あ、ウチの部屋じゃん。久しぶりに見たから気付かなかったよ。ごめんごめん。ジェバンニもいる。机の引き出しには日記も入ってる。間違いなくウチの部屋だ。おー愛しのマイルームよ。こんな変な夢の中でしか会えないウチを許しておくれ。
ここまではあの男も追って来れないようで、というかウチが落ちてきた穴はもう塞がっていた。ラッキー。助かった。ふぅ。せっかくだしのんびりしていくか。ウチは机のノートパソコンを立ち上げる。適当に動画サイトで動物を見たりするのが日々の癒しなのだ。今度は何見ようかな。犬?猫?うーんどっちも捨てがたいしなぁ。でも飼うのは勘弁。だって世話面倒だし。ウチのジェバンニに小便されたら困る。やっぱ動物は見るのに限るね。うんうん。そう思いながらブラウザを開くと検索エンジンではなく何かの映画のPRサイトが出てきた。あれ?スタートページにこんなの登録してたっけ。よく見ると動画が埋め込まれてる。これを見ろってことなのかな。躊躇もなくリンクをクリックする。すると次の瞬間、真っ白で血色の悪い、不気味な手が画面を覆った。
「うわあ!」
ウチは驚いて椅子ごと後ろに倒れそうになる。び、ビビった……。どうやらホラー映画の紹介動画らしい。女の手がスーっと下に移動すると今度は見知ったお笑い芸人が出てきた。あ、コイツ知ってる。コント番組で優勝してたやつじゃん。お笑いコンビの誰だっけ。事務所名は覚えてるんだけどね。名前が思い出せない。なんでだろ。うんうん頭を捻ったり記憶の収納箱をパカパカ開けていると映像が変わった。先程の芸人がマイクを持って深夜の学校の教室にいる。あー心霊映像を収めようとしてるわけね。わざとらしいリアクションをしながら歩を進める二人。ウチはブラウザバックをしようとしたけどマウスは動かないしとりあえず眺めることにした。
「なんか出そうですね……」
「ちょおホンマそういうこと言うのやめてーや!」
ゆっくりと廊下を歩いていく。そして曲がり角を曲がった次の瞬間!
「うわー!びっくりした!」
「なんやこれ!当たったらどうすんねん!」
窓から直径一メートルはある鉄の棒が突っ込んできた。それも結構な勢いで。パリーン!と窓ガラスが割れる音がスピーカーから響く。お化けとかそういう類かと思ったらこれはこれで意外。ちょっと面白いかも。
ウチがくだらないながらも口元を緩めたその時。
パリーン!
部屋の窓からさっき見たばかりの鉄の棒が飛び込んできた。ウチの体にはカスリもしなかったけどモロに直撃したタンスは原型をとどめていなかった。ぎゃー!タンスのサトシが粉々に!ウチの大切な家族が!夢の中だけどビックリした。夢だから突拍子もないことが起こるのは仕方ないけどこれは超ビックリ。心臓が破裂するかと思った。ウチはサトシを追悼しながらモニターに目をやり、窓の方にも目をやる。どうみても同じだ。というかこんなモン二個も作るなよ。なにこの空間。女子の部屋に鉄柱が突き刺さっているこの状況。夢みたい。いや夢だけど。
信じがたいことだけどこの部屋とパソコンに流れている映像はリンクしているのかな。じゃあ早く閉じないとヤバイんじゃね?でもマウスは動かないしパソコンは固くてモニターを閉じれない。電源を引っこ抜いてバッテリーを抜いてもダメ。映像は流れ続けた。
「はーこういうの事務所通してからやってほしいですわー!」
「事務所OKしたらいいのかよ!」
ヘラヘラしながら進む芸人コンビ。長い一本道の廊下を歩いていると今度は天井にぶら下がった非常口のマークが窓、扉、床、壁、いたるところから溢れ出てきた。
「うおおおおおお!!」
「なんやこれ!?」
逃げ惑う二人。そしてモニターは非常口のドアに逃げ込む人のピクトグラムで覆い尽くされた。
……さっきの想像が正しかったらここ、やばくない?ウチは慌てて立ち上がった。こんな狭い部屋にいたら窒息しちゃう。早く逃げなきゃ。しかしドアノブを捻ってもガチャガチャ。金属がこすれあう音しかしない。まったく開かない。閉じ込められた。おい!ウチはこの世界の神様だぞ!こんなドアぶっ壊してやる!思いっきりドアにタックルをしてみたが木製だというのにまるで鉄でできてるかのようなそれはびくともしない。やばい。ウチは怖くなってその場にしゃがみこんだ。最悪の悪夢だ!
十分ほど目を閉じていただろうか。目を開けるとそこには先程の映像のような惨状は起こっていなかった。鉄柱があることを除けば普通の部屋だ。おかしいな。やっぱり関係なかったのかな。
そんなことを考えているとモニターの方にも変化があった。非常口はいつの間にか消え、そこにはウチの部屋が映っていた。あれ?このノートパソコンにカメラなんてあったかな?探してもそれらしき物はない。とりあえずウチはモニターを凝視した。そこにはウチの可愛らしい顔面がでっかく表示されていた。うーん。まあそうなるんだろうけどさ。でも何が起こるんだろう。ウチは顔をパソコンに近づけたり遠ざけたりしてみる。すると遠ざけた時に後ろに何か影のようなものが見えた。なんだろこれ。見るとその影はモゾモゾ動いている。そして一瞬ピタっと止まると横に歩き、カメラに姿を現した。
「ひっ……」
それは雛人形だった。しかし春に飾る華々しいそれとはまったく別物、そんな気配がした。ウチはモニターに釘付けになった。少し大きめの雛人形はふわふわと浮いている。するとだんだんウチの方に近づいてきた。え?来るの?ちょ待ってよ。ちょうど肩の上らへんに来た人形は再び止まった。
「…………?」
ウチはようやくカメラ越しではなく肉眼でそれを見ようとした。そして首を左に動かした瞬間、その雛人形は体が裂け、中から大きな、猛獣のような鋭い牙を覗かせウチの左耳をまる齧りする勢いで飛びかかってきた。
「うわあああああ!!」
グシャリ、と三度目の嫌な音がした。
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