1Million Power2

 あー家に帰りてーなー。愛しの我が家。一ヶ月以上空けてるけど大丈夫かな。ウチがいつも使っていたベッドは小学生の頃からお世話になっていてかなり愛着があるのだ。小柄だから買い換えなくていいっていうのもあるけどウチを八年以上夜になると温めてくれたベッドは家族と言ってもいい。そうだ。家族なら名前がいるじゃん。うーん、そうだなぁ。よし、ジェバンニと名付けよう。あのベッドは今日からジェバンニだ。ああジェバンニに会いたい。少しボロくなってスプリングが弱いけど。日常から少しずつ離れていくと普段身の回りにあった物が全部恋しくなってきた。ウチの部屋にある日記とか誰にも読まれてないよね?警察とかが一応念のためって言いながらウチの部屋に来てペラペラめくられたらどうしよ。殺される前に死んでやる。乙女の生活が丸裸じゃん。強制日記閲覧罪だよ。あの日記は結構昔からつけていてもう五冊目になる。だからあれも家族。みんな家族。でも会いにいくわけにはいかないんだよね。だってウチ、殺されるかもって話だし。

 そんなことを考えながら歩いているといつの間にか署の仮眠室前に来ていた。でも入る気になれない。仮眠室のベッドは清潔感があっていいんだけど誰の色にも染められてない、言わば真っ白なキャンパス状態だから味気ないんだよね。借りてる身だから周りに化粧グッズ置いたりできないし無駄に気を遣う。どうせ寝るなら誰にも迷惑にならないように、神経を使わなくても済むような場所で寝たいな。ウチは眠い目をこすりながら適当な寝られる場所を探した。

 歩き回ること数分、ようやくたどり着いたのは以前ウチが泣いたり笑ったり机に足をぶつけたりした応接間の一つ。いっぱいあるし一つくらい使っても大丈夫でしょ。中に入って鍵をかける。あーここなんだかんだで落ち着くなー。あの時のお姉さんはいないけどさ。ここなら多分誰の迷惑にもならずに寝られるだろう。ウチは来客用の長いタイプのソファーに寝っ転がった。ちょっと足が肘置きからはみ出るけどまぁいいや。目を閉じて睡眠欲という川の流れに静かに身を委ねる。……でもすぐには寝れない。よくあるよね、オールして眠いはずなのにいざ寝ようとすると寝れないって現象。寝たいのか寝たくないのかはっきりしろよって思う。脳って不思議。さてと、じゃあ羊を数える代わりになにしよ。そもそも羊~羊~なんて言ってても眠くなるわけないじゃん。あのもふもふしてそうな毛を想像すると柔らかそうで安心するけど数えたところで何になるっていうのさ。どうせ英語圏の人間がシープ、シィープ、スィープ、スリープ、SLEEP、みたいなダジャレを思いつきで広めたに違いない。絶対そうだ。スリープが一匹、スリープが二匹ってね。くだらね。あれ?英語ならたしか複数形の時は最後にSをつけるんじゃなかったっけ。スリープスが二匹、スリープスが三匹、みたいな。うわー言いずれー。プとスの間でめっちゃ詰まるじゃん。気になって余計寝れないよ。でもこれ大発見じゃね?複数形にすると言いづらい!トリビアじゃんウケる。気になってスマホで調べると羊は常に複数扱いだからSは付けないらしい。ウチの感動返せ。

 興奮したせいで目がちょっとだけ冴えちゃったよ。さえちゃったよ。サエちゃったよ。サエ?いやいや。眠くてテンションおかしいのは分かるけどそりゃねーだろウチ。心配なのは分かるけどさ。あ、いいこと思いついた。明日から行動起こすわけだし何するかとか何が起こったかとかまとめておかないと。寝る前に覚えたことは忘れ難いってテレビでやってたしマジナイスアイディア。

 ウチは自分の機転の利く利口な脳を褒めつつ、明日のシュミレーションに入った。

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