LOVE LOVE LOVE YOU I LOVE YOU2
放課後、何度もシュミレーションした私は自信に満ち溢れていた。今の私なら大災害が起きようと宇宙人が侵略しに来ようと冷静に対処できるでしょう。授業が退屈だったので余計な範囲までカバーしてしまいましたが、策は多い方がいいはずです。私は悠々とした足取りで船を漕いでいるアコさんに近づき、一緒に帰らないか提案しました。
「えっ、うーん。困ったなぁ」
普段の彼女なら二つ返事で承諾すると読んでいたのでここで詰まるとは想定外。出鼻をくじかれた私はとりあえず理由を聞いてみることにしました。すると彼女は少し言葉に詰まりながらこう言いました。
「絶対やらなきゃー!ってわけでもないんだけど、やらなかったらそれはそれで困る用事があるんだよね。だから今日は急いで帰ろうと思ってたんだけど」
「……そうでしたか。ならその用事を優先させたほうがいいですね」
「えっいいの?あのフウカから帰ろうって提案したもんだから、てっきりそっちにも要件があると思ってたよ」
「……あることにはありますが、またの機会でも大丈夫なので。明日にでもお話します」
「そっか。ありがとね。バイバーイ!」
アコさんは私に手を振りながら教室を出て行きました。さっきまで寝そうになっていた人とは思えない身の変わりようです。元気ですね。
さて、私も帰りますか。聞けなかったのは残念でしたが人には常に都合というものが存在するので、それを無視してまで追いかけるほど私は無礼ではありません。今日は大人しく帰って部屋の掃除でもしましょう。私は鞄を手に立ち上がり、帰路につきました。
しかしそれから三日間、アコさんは学校に来ませんでした。昨日はあれだけ元気だった彼女が体調を崩すとは思えません。それとも用事とやらが長引いたのでしょうか。何度か不安になり様子を見に行こうと思いましたが、その度に彼女の家を知らないことを思い出し、立ち上がっては椅子に座るという奇行を繰り返しました。彼女がいなくても私の調子は狂いっぱなしでした。少し前までは一人が当たり前で気にも留めなかったはずなのに、今は無性に落ち着きません。何かしたいけど何もできない。そんなもどかしさすら感じます。ただの友達にそこまで神経を使うものなのでしょうか。彼女は私の半身のような存在とでもいうのでしょうか。半身を失った私はこれからどうすればいいのでしょうか。……自分で自分を追い詰めすぎですね。一旦落ち着きましょう。どうすればいいか分からないときは、とりあえず行動すればいいのです。幸い今日は土曜日で学校は休み。時間はいくらでもあります。私は身支度を済ませると半身を探し求め、横浜駅に向かいました。
私は以前、彼女と偶然この横浜駅で会いました。なら家や行動範囲はこのあたりのはず。彼女の名前以外は情報がないため、最善の策はこれしか思いつきませんでした。
私は意味もなく駅周辺をぶらつきました。休みの日というだけあってか様々な人が行き交います。平日とは違う、私服姿の老若男女があっちへ行ったりこっちへ行ったりと忙しなく動いています。私はその一人一人を見て回りましたが、あの愛らしい笑みを浮かべた彼女の顔はありませんでした。外にいないとしたら屋内にいるのでしょうか。私はそう考えるとあたりを見渡し、アコさんが入り浸ってそうな場所を探しました。
私は横浜駅西口から徒歩五分ほどで着く大型のゲームセンターに目をつけました。位置的にも便利ですし女子高生が気軽に入れる店と言ったらここでしょう。一応先日の買い物で行った工具店にも赴きましたがアコさんどころか女性すらいませんでした。じゃあ彼女、というより十六歳の女の子が好きそうな店は私の中ではこれ以外に思いつきませんでした。工具が好きな女子高生というのもおかしな話ですが。ん?じゃあ彼女は変わった人間なのでは?私のような平凡な人間の思いつく事をはるかに上回る店にいるのでは?とも考えたりしましたが、まぁ、入ってみましょう。決して前々から興味があったという私利私欲のためではありません。
中に入ると私は思わず耳を塞ぎました。とても五月蝿いです。こんなところにいたら鼓膜が破れてしまいそう、は言い過ぎですね。それでも普段静かな図書館などを好む人間からしてみれば異次元の空間でした。様々なゲームが「早く自分で遊んで!」と主張しているかのように楽しい音楽が幾重にも混ざり、鳴り響かせています。そんなに喧しかったら誰も来ませんよ。しかしそれに吸い寄せられていく女子高生グループがいました。あれで興味を持つ奇特な人もいるのですね。そのゲームがどのようなものか分からなかった私は彼女たちを観察することにしました。勿論アコさん探しのためですよ?
「サトミー。もうちょっと右だってばー」
「仕方ないじゃん!だってこの箱掴むところが難しいんだからさ!」
「ウチにやらしてみ?…………ほら取れた」
「うわマジ!?一発で!?ミサキ天才じゃん!」
「うははー。もっと褒め称えるが良い」
どうやらあのゲームは中のクレーンを動かして商品をとる遊びらしい。なるほど。単純ですが奥が深そうです。如何に商品の重心を把握し、的確なクレーン捌きで押したり掴んだりするかの駆け引きが重要となってくるのですね。難しそうです。しかしミサキと呼ばれた女の子はボタンをパッパーンと叩くといとも簡単にもう一つ商品をとってみせた。素人の私から見ても凄い腕だ。きっと熟練者に違いない。見ず知らずの人を褒め称えているとグループの一人が私の熱心な視線に気づいた。
「ん?どうかした?」
「いや、さっきからあの女の子がコッチ見てるなーって」
「もしかしてそのお菓子欲しいんじゃない?ミサキあげたら?」
「まぁいいけど……迷惑じゃないかな?」
「らしくないぞーミサキ。いいから行ってこいって」
「押すな!」
周りに押されて彼女は私の方へ飛び出してきました。私は失礼に値したかと思い、頭を下げました。
「……すいません。こういう所に来るのは初めてなので、失礼ながら見させていただきました」
「あーいいっていいって。人のプレイを見ちゃいけないなんてマナーないし。じゃあこれ、お望みの物。はい」
彼女は私に持っていた巨大なお菓子を押し付けると足早にグループの輪に戻って行きました。頂いても良かったのでしょうか。なんだか申し訳ない気が……。
「ミサキー。相手がいくら可愛い顔してるからって動揺しすぎでしょ」
「うるせーなー。動揺なんかしてないっての」
彼女は周りにからかわれながらも嬉しそうでした。あれが友達。私には一人しかいませんがいつかアコさんと来てみたいですね。そして彼女たちのようにはしゃぎたい。心の中でそう呟きつつ、ゲームセンターを後にしました。
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