撲殺少女工房

清浄院夏海

第一章

心王王女三女第三に等しく

 ウチは今何とも言えない気持ちに酔っていた。高揚感?達成感?いや賢者モードになってるだけだわ。今、彼女である三橋サエの家のベッドに寝転がってスマホを弄っている。LINEとか一通り確認しているとサエのテクの凄さをまた思い出してしまい下半身が疼く。やべーよサエ。あんな地味っ子みたいな見た目しといて夜になったら凄いんだもん。ギャルが多いウチの女子高で浮き気味だったから拾ってやったけどこれはいい拾い物したわ。暫くはウチのセフレ確定。まぁ他に七人いるんだけどね。


「鈴村……さん、あの、そろそろお母さんたち帰ってきちゃうから……」


「ん?あーミサキでいいよ。一晩寝た仲っしょ?友だち友だち」


「わ、かった……。ミ、ミサキちゃん。今日はもうこの辺で……」


「おーありがとね泊めてくれて。マジ助かったわ。じゃまた学校でー」


 ウチは手をヒラヒラさせながらサエの家の少し散らかった廊下を歩き玄関に着く。ああ体が重い。寝不足が原因かな。手はヒラヒラ、足はフラフラ、私の脳はパッパラパー。うるせえ。頭が悪いのは事実だけど改めて言われるとムカつくんだよ。あークソ。行きたくねえ。でも最近サボりすぎたしなー。怠いけど学校行くか。そろそろ留年かもだし。そんなことを考えているとサエが心配そうに声をかけてきた。


「あ、そうだ……」


「何?今日のことは誰にもチクらないから安心しー」


「そうじゃなく、て、東京で噂になってる殺人鬼の事……」


「あーアレ?確かに物騒だよね」


「一応……気をつけて欲しいな、って」


 サエは見た目も地味だが中身も地味だ。ウチの高校に入ったのなんかの手違いなんじゃねえの?あの高校、偏差値そこまで高くねーし。地元では馬鹿校って有名なんだけどな。ウチは「ん、分かった」と返事しドアノブに手をかける。


「じゃ、じゃあまたね」


「おーうサエも気をつけてなー」


 ドアがゆっくりと閉まるのを待つまもなくウチは階段を下る。それにしてもサエは心配しすぎなんだって。あの変態殺人鬼、もう捕まったって噂もあるし大丈夫っしょ。あ?なんのことか分かんねーって?後でな後で。

 ウチはサエの家を出て、そのまま学校へ向かう。マジ優等生。十分ほど歩くと交差点に出てそこを左に曲がり幼稚園があるところで右にちょっと曲がる。するとほら、ウチの学校目の前。近すぎ。チョーウケル。

 ウチは校門に立っていたセンコーを無視して昇降口へ向かう。スタスタ。でも横切った時に小言を言われた。スカートが短いってなんだよ、お前ら男共はむしろありがたがるべきだろ。マジ最悪。こんな嫌な気分になるならサボれば良かった。でもここまで来たしたまには授業受けるかあ。

 上履きに履き替え教室に行くといつものメンバーが教壇に座りだべっていた。


「おはよー」


「おはよーミサキ。髪切った?」


「つーかミサキ、なんか肌ツヤツヤじゃね?」


「分かるー?今日朝っぱらから一発ヤってきたんだよねー」


「ちょマジ?性欲猿じゃん!誰と誰と?」


「ひみつー」


「ケチーお菓子あげないぞー」


「また太るよー」


「なっ!言ったなこの野郎ー!」


 友人達と中身のあるようで何にもない会話を繰り広げる。やはり持つべきものは友だ。金、は貰えるなら欲しいけど友達が一番だよね。お前もそう思うっしょ?大声で笑ったりお菓子を食べたり、こういう頭を使わない時間が一番楽しい。流行りのファッションがー新作のお菓子がーてんてんぷるぷるがー。意味のあるか分からない会話で時間を潰しているとセンコーがいつのまにか教壇に立っていた。


「お前ら席につけー出席とるぞー」


 乙女のピュアな会話を邪魔される。なんだよ空気読めよ。だから結婚できねえんだよ。ウチはその腹いせに噛んでいたガムを床に吐いてやった。しかしセンコーは気にせず出欠を取り始める。舐めやがって。


「お前らも知ってるとおり例の事件に巻き込まれないよう気をつけるように」


「え~この間逮捕されたっていってたじゃん。それにここは横浜だから大丈夫だって」


「あのなあニュースを見ているのか?まだ誘拐は続いてるんだよ。捕まったのは多分冤罪か模倣犯だって話だぞ」


「マジ?知らなかったわウケる」


 サトミが鼻で笑う。ウチはへーそうなんだの世界だ。あんま興味ないし。何?いい加減説明しろ?うるせえなあ。分かったよ説明してやんよ。

 例の事件ってのはここ三年前から突如として東京で始まった誘拐&殺人事件のこと。狙われるのは小学生から高校生までの女子で、誘拐の時間帯はバラバラ。かつ誘拐された後は一週間以内に死体として発見されるの。顔面は誰か分からないくらい殴られてて、一度腹をカッ捌き中に『ボコボコにしてやんよ✩』のメモ書きを残すことからマスコミがつけた俗称が『撲殺少女工房』。ダサっ。そして変態は誘拐をしても金の類の要求を一切せず死体を蹂躙することにしか目がないみたい。近所では一人の外出を避けたり、小中学校では集団下校を実施しているらしいけどちょっと過剰すぎね?東京だぜ?んで、警察は血眼になってその足取りを追っているってニュースでやってた。


「じゃあ教科書開けー」


 やる気のなさそうな声で授業が始まる。ウチは勉強が嫌いだから授業が始まったらすぐ寝ることにしている。他の皆も寝たり、メイクしたり、ツムツムやったりしている。唯一クソ真面目に授業を受けているのはサエくらい。

 勉強の成績なんて所詮就職するための指標に過ぎないっしょ?ウチはとっとと結婚して専業主婦するから大丈夫。心配なし。なのに大人はやれ勉強しろだなんだのと五月蝿いんだよ。ウチの人生だ。なめてんじゃねーぞ。だいたい仕事場で積分なんて使うか?フェノールフタレイン使うか?著者の気持ちが分かる必要あるか?無いだろ?はい論破。だからウチは勉強しないの。分かったら引っ込んでろ。

 脳内の邪魔者を払い除けウチは寝た。移動教室もクソもあるか。寝た。一生分寝た。そしたら授業終わってた。ラッキー。

 下校する生徒でごった返している廊下を横目で眺める。学校にフルタイムで残ったのなんていつ以来だろ。三ヶ月ぶりくらいだっけ、いつも早退してたし。今日は偉いぞミサキ。ウチは自分にご褒美をあげるべくいつものメンバーに声をかけた。


「サトミ!チエ!マミ!ゲーセン行こ!」


「いいねぇー!行く行く!」


「プリクラ撮ろプリクラ!」


「珍しいじゃんミサキから声かけるなんて」


「いいでしょ別に~。早く行こうぜ~」


 やはり友達は大事だ。これぞ青春って感じだよね。青春万歳。華の学生生活。

 こうしてウチ達はゲーセンへ向かった。この高校の唯一の利点は自動販売機のジュースが安いこととゲーセンが近くに有ることくらいだ。歩いてたったの数分でゲーセン到着。ボウリング場も隣接してる比較的大型のゲーセンでプリクラ撮ったりUFOキャッチャーしたりして放課後を過ごした。不細工なクマのぬいぐるみを取るために無駄に頑張って1000円使ったりしたけど悔いはない。いや、返してもらえるなら返して欲しいけど。バイトをしてないウチにとっては結構大金だしね。1000円あったらいろいろ買えたなぁ。お菓子とか、ちょっとしたアクセサリーとか、漫画とか。欲張り過ぎか。やっぱ絶対に返して欲しい。でもまぁ、友達と共通の作業で盛り上がるのは楽しかったし必要経費なのかもね。そんなことを考えながら騒がしいゲーセンを後にした。

 そして帰り道、マックで薄っぺらいハンバーガーとグニャグニャしたポテトを買って食べながら夜道を歩いているとサトミがポケットをまさぐって一言。「携帯忘れちゃったから先行っててー!」相変わらずどこか抜けているなぁサトミは。この前も鞄まるごと学校に忘れてたじゃん。走って行く方向を見るにさっきのマックまで戻るのかな。そこまで結構距離あるからウチら先に駅ついちゃうよ。ウチはとりあえずサトミに「先帰るね」といった内容をメールして皆とはそこで現地解散した。





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