第19話 恥じらいのんちゃん。
異世界のトイレから――
今日は、ついにシスターさんがトイレをします。
♪チャラッチャッチャッチャチャーララー
――――――――――――――――
提 供
カ ク ヨ ム
――――――――――――――――
♪チャーラー ラー
わたしが座っている席は、のんさんの斜め後ろ。
わずかに表情が見える角度です。
「……………………っ」
のんさんの顔がこわばりました。
わたしにはわかりました。
ああ、これはオシッコが出始めたのだな、と。
BGM ♪♪キラキラ尿(オルゴールver)
音は…………しません。
どんなに耳をすませても、水音はまったく聞こえません。
それはまさに、職人芸と言ってもいいほどのものでした。
神の像は、そんなのんさんをただ静かに見守っています。
わたしはその光景を、しっかりとこの目で見ていました。
ジャーナリストとして、一瞬たりとも見逃さないよう。
ふと、用を足している最中であろうのんさんが、顔を上げました。
わたしの熱心な視線を察知したのでしょうか。こちらに振り向きます。
「…………なっ」
のんさんが驚いたあと、すぐににらんできました。
何、見てるのよ! と言いたげな表情です。
しかも、ほんのりと頬が赤くなっています。
村人のみなさんは目を閉じてお祈り中。神父さんも黙とう中。
今のんさんを見ているのはわたしだけですが……まずかったでしょうか。
でもほら、わたしは見ることが仕事ですし。
と、そのときのことでした。
チョロ……、チョロロ…………。
これは、水の……音?
ひかえめではあるものの、しっかりと聞こえてきます。
音は前方、のんさんがいるところからです。
これはもしかして、のんさんの…………?
「あ、あっ……、ダメ…………」
のんさんは真っ赤になって、苦悶の表情を浮かべています。
がんばって力を入れて止めようとしているようですが、一度出始めたものはなかなか止められない様子。その難しさは誰でも知っていることでしょう。
チョロ、チョロチョロチョロチョロチョロ……。
「…………き、聞かないでぇ」
ついにのんさんは、両手で顔を隠してしまいました。
同時に、村人のみなさんから声が上がります。
「おおお、これは……」
「これが、シスターさんの音なのね」
「素晴らしい、ありがたやありがたや」
初めて聞く、のんさんの音。
感動を隠し切れず、神様への祈りもそっちのけ。
むしろ神様よりもご利益がありそうだと、拝む人が続出です。
「な、なんと……、のんが失敗するとは……」
神父さんは驚きを隠せない様子です。
人間、たまには失敗もあるとは思いますが。
「あなたのように、祈りをせずにのんのトイレをジッと見ている人は、今までにも何人がいたのです。でものんは、まったく微動だにしなかった。のんには恥じらいの感覚がないんじゃないかと、わしは思っていたほどですじゃ。じゃからわしは、着替えをのぞいたり、お風呂をのぞいたり、おしりを触ったりして、のんに恥じらいの感情があるのか確認しておったのじゃが…………」
――神父さんのスケベな言動には、そんな理由があったのですね。
「まあ、半分はエロいことをしたかったからですがのう」
――そ、そうですか。
「でもそのすべてに、のんは怒るだけで恥ずかしそうにはせんかった。それが今日、顔を真っ赤にして両手で隠している……。あんなのんは初めてですじゃ。ジャーナリストさん、あなたがのんを見ていたからですぞ!!」
――あの、すみませんでした。
「いいえ、謝っていただく必要はないのです。失敗したのはのん自身の責任ですからのう。それよりわしが言いたいのは、ジャーナリストさん、あなたは――」
――はい、何でしょう?
「のんが特別な好意を抱いている相手、なのでは?」
――――は?
わたしは神父さんの言葉に、固まってしまいました。
それって、のんさんがわたしのことを……?
「…………ち、ちがっ! …………あっ」
チョロチョロチョロ…………、ビシャ!
のんさんが思わず立ち上がろうとしましたが、慌てて座り直します。
あ、のんさんはまだ出してる最中だったのですね。
チョロ、チョロロ……。…………。
カラカラ、ふきふき。
そして、のんさんがおトイレを終えました。
のんさんは神の像を、気まずそうな表情で見上げます。
このとき、驚くべきことが起こりました。
像の両腕の部分が、ギギギッと動き出したのです。
表情も変わりました。般若のような恐ろしい形相になったかと思ったら――
バッテン。
神は両腕で、×の字を作りました。
どこからか、ブッブ~という効果音も聞こえてきます。
「……お祈りは失敗ですじゃ」
ああ~、と残念そうな村人の人たちの声が上がります。
それを見て、わたしは熱心にメモ帳に記入しました。
素晴らしいシステムだ!…………と。
異世界のトイレから ~異世界の様々なトイレを突撃取材~ 非常口 @ashishiF
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