第13話 便器に咲く一輪の花

 異世界のトイレから――

 今日は、魔の森でウ○コとお別れします。



♪チャラッチャッチャッチャチャーララー



  ――――――――――――――――


      提     供


     カ  ク  ヨ  ム


  ――――――――――――――――



    ♪チャーラー ラー








 再会した私たちは、魔の森で数日を過ごしました。

 一緒に遊んで、一緒に食事をして、一緒に眠って……。


 わたしはその間、何度か大きい方の用を足したのですが、それが魔物化することはありませんでした。どうやらくそリンが誕生したのは、偶然に偶然が重なった奇跡のような状況だったらしいです。


 くそリンはわたしの大きい方と、何度も合体しようとしていました。

 しかしことごとく失敗。どうやらくそリンは合体くそリンではないようです。

 キングくそリン、見てみたかったんですけどね。


 そして今日。

 くそリンと、もはや日課となってしまった散歩をします。

 その道中、くそリンは出会ったモンスターをすべて倒していきました。


 ごおおおおおおおおおお――っ!!

【 くそリンは しゃくねつのほのおを はいた! 】

【 じんめんじゅに 182のダメージ! 】

【 じんめんじゅを やっつけた! 】

【 くそリンは 76の けいけんちを かくとく! 】



 ちゃらららっちゃっちゃっちゃー♪

【 くそリンは レベルが あがった! 】




――――――――――――――――――――

 くそリン  性別・年齢 ともに不明

   モンスター:レベル99【カンスト】


 ちから :255   最大HP:510

 すばやさ:320   最大MP:120

 まりょく:40


 スキル 無限チートエンカウンター

     かぐわしい香り

     しゃくねつの炎

――――――――――――――――――――




「ビチビチビチーっ!!(ぴょんぴょん)」


 くそリン、ついにレベルがカンストしてしまいましたね。

 というか…………炎を吐くウ○コって。


 不思議と燃えるのは敵だけで、森が火事になったりはしません。

 そういう仕様なのでしょうか……。

 おっと! 私としたことが、メタ発言しちゃいましたね。



  BGM  ♬便の風になって





「そこのお若いの! 珍しいモンスターをつれておるのう!」



 そんな私たちに、声をかけてくる老人がいました。


「わしはモンスターじいさんじゃ。こんなところでモンスターをつれている人間に出会うなんてな。モンスターつかいというだけでも滅多にいないのに、つれているモンスターまで初めて見る種とは……いやはや」


 モンスターじいさんと名乗った老人は、鼻をつまんでくそリンに近づきます。

 そして「ほう、ふむふむ……」と、くそリンを観察。

 モンスターじいさんだなんて自分で名乗るなよとは思いましたが、くそリンの臭いに耐えてまで近づくあたり、本当にモンスターが好きなのでしょう。


「なるほど。このモンスター、よい目をしておるな。マスターのお前さんのことが、よっぽど好きなようじゃ。なにより強い! それに…………ん?」


 いきなりモンスターじいさんの顔が、けわしくなります。

 そしてくそリンをさらに観察したあと、私にこう言いました。



「お若いの。このモンスター、大切にするのじゃぞ」


 ――え、ええ。わかりました。



 モンスターじいさんは、納得した顔で「うむ」とうなずきます。

 そしてそのまま、立ち去っていきました。


 わかっています。くそリンは……大切にします。



 その日の夜、私はくそリンと一緒に眠ろうとしていました。


「ビチ、ビチグソ……」


 ――くそリン、どうしました?


「ビチビチビチ、クソグソ……」


 ――なになに? もし生まれ変われるなら今度はいい匂いを放ちたい、ですか?


「ビチ……」


 ――くそリンは……ウ○コに生まれたこと、後悔していますか?


「ビチ? ビチビチビチっ!!」


 くそリンは、何度も頭を横に振っていました。


「ビチビチグソ! ビチビチビチビーチ、ビチグソ!」


 ――ウ○コじゃなかったら、ご主人と出会うことはできなかった。ご主人に愛されることもなかった。だからウ○コでよかった。でも、他にもたくさんの人間の役に立てたなら、きっともっと嬉しい。……そうですか。


「ビチビーッチ」


 ――そうですね、いつか、いい匂いになれるといいですね。それとくそリン、ありがとうございます。私もくそリンと一緒で、毎日が楽しいですよ。さあ、今日はもう寝ましょうか。


「ビチび……ち……。ZZZ……」


 すぐにくそリンが寝息を立て始めます。

 私もおだやかな気持ちで、眠りにつきました。







 翌朝。

 目が覚めた私は、くそリンにあいさつをします。


 ――おはようございます、くそリン。…………くそリン?


 いつもはもう起きてるくそリンが、いっこうに動きません。

 どうしたのでしょうか。

 くそリン、くそリン……?


 …………っ。


 くそリンは、ひからびていました。

 その目は二度と開くことはありませんでした。

 安らかに逝ったのでしょう。幸せそうな笑顔を浮かべています。


 こうなることは、少し前からわかっていました。

 再会のときに頭を撫でて、気づいたのです。

 くそリンの表面が、乾燥してきていることに。

 慣れてしまったせいで気づきませんでしたが、臭いもだんだんと薄くなっているようでした。モンスターじいさんが近寄れたことで、それがわかりました。


 モンスターじいさんも、くそリンの寿命に気がついたのでしょう。

 だから私に、大切にしろとアドバイスしたのだと思います。


 そしてくそリン自身も、たぶんわかっていたのでしょうね……。




 私はくそリンを、土に還すことにしました。

 私と出会ったあの便器の傍らに、くそリンを埋めます。




 すると――奇跡が起こりました。

 くそリンを埋めたところから、1本の芽が出ます。

 それはすくすくと成長していき、わずか数秒で花を咲かせたのです。


 くそリン…………。


 私はその花に、顔を近づけました。

 フローラルな甘い香りがします。



 ――よかったですね、くそリン。願いがかないましたよ。







 その後のことを少し。

 あの便器の横にあった『ここで大便をするべからず!!』の看板は、取り外されていました。

 くそリンを埋めた場所に咲いた花が、周囲500メートルほどの範囲で、瘴気をしりぞける効果を出していることがわかったからです。


 人々は元々あった便器の周囲に壁を立てて個室にし、さらに新しく複数の便器を設置。そこに見事な公衆トイレを建設していました。

 さらにアイテム屋や食事処も併設されて、冒険者にはとてもありがたい休憩所となったのです。

 それはもう、僕が元いた世界のパーキングエリアのように、年中にぎわっていました。


「いやー、ここにトイレができて、ほんと助かるぜ!」

「…………ウス!」

「にょにょー☆ 魔王城への冒険もラクチンだにょ☆」


 以前お会いした勇者さん一行も、このトイレを利用していました。


 ――よかったですね。もうトイレを我慢しなくて済みますよ。これなら呪文も失敗しませんね、のんさん。


「……こ、殺すぞ(////)」






 さて……。

 それではさっそく、こちらのトイレをレポートするとしましょう。


 くそリンが残してくれた、思い出のトイレを――






    異世界のトイレから ―魔の森―  完










 【次回予告】


 次回の「異世界のトイレから」は、街の中にある神秘な世界。

 神殿のトイレ事情をご紹介いたします。


 そう、神殿と言えば僧侶。

 今回も登場したあの方に、スポットを当てていきたいですね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る