第18話 衝撃の儀式
異世界のトイレから――
今日は、トイレを使った教会のお祈りをご紹介します。
♪チャラッチャッチャッチャチャーララー
――――――――――――――――
提 供
カ ク ヨ ム
――――――――――――――――
♪チャーラー ラー
のんさんは、大聖堂のトイレのまわりに仕切りを立てていきます。
板状で高さは1メートルほど。トイレの左右と後ろに、3枚です。
そのすべてを立てると、のんさんはトイレにちょこんと腰掛けました。
なるほど。すぐに仕切りの効果がわかりました。
参列席にいるわたしたちからは、のんさんの頭しか見えなくなりました。
のんさんの全身を見ることができるのは、正面に立っている神の像だけ。
この仕切りは、礼拝をしているわたしたちから顔から下を隠すためのものなのでしょう。
しかし、なぜ――隠す必要があるのでしょうか。
まさか…………!?
ここでトイレジャーナリストならではのカンが発動します。
わたしはすぐ近くに来ていた神父さんに、話しかけていました。
――のんさんは、これからここでトイレをするのですか?
「フォッフォッフォッ、いやいやまさかそんな――」
そ、そうですよね。わたしがアホでした。あはははっ。
まさかのんさんが、こんな衆人環視の中でトイレをするなんて。
仮に男のわたしでも、ここでトイレはできないかなー。
「ズバリ正解を当てられてしまうとはのう。その通りですじゃ」
でもちょっと見てみたかったかなあ………なんてね!
…………ん?
あれ?
BGM ♪♪主よここにトイレがある喜びよ
――神父さん、今なんて言ったんですか!?
「のんはこれから、神が見ている前でトイレをいたします。ここにいる皆がお祈りを始めると同時に、用を足すことになっております」
ええええええええええっ!?
年頃の女の子が!?
こんなところで!?
いいんですか!?
「それが聖職者の役割ですからのう。皆の祈りを神へ届けるのは、どうしてもこの儀式が必要なのですじゃ」
――だからって、年頃の女の子がみんなの前でトイレだなんて。
そうは言ったものの……。
わたしはつい興奮のあまり、手帳とペンを取り出していました。
こんな特ダネ、逃してなるものですか!! わたしはひとりの人間である前に、トイレのジャーナリストなのです!! のんさんの貴重なおトイレシーン、0.1秒たりとも見逃しませんよ!!
あ、わたしは決して性的に興奮しているわけではなく、あくまで純粋な好奇心が抑えられないだけですよ? 一応その辺はお間違えなきようお願いいたします。
――で、神父さん。その儀式のことを詳しく教えていただけませんか?
「もうすぐ始まるというのに、せっかちなお人じゃのう」
フォッフォッフォッ、と笑って神父さんがそう言いました。
しかしその後、すぐに真顔になってしまいます。
そして静かに、教えてくれました。
「音を、出さずにおこなうのです」
それはまさしく、衝撃の言葉でした。
わたしは、ゴクリと喉を鳴らします。
――あの……音をというと、排せつ音、ですか?
「そう。音を立てれば皆の祈りを妨げてしまいますからのう」
――確かに、おっしゃる通りですね。
もし音が聞こえてきたら、数多のトイレを調査してきたわたしだって、お祈りどころじゃないでしょう。
ところで、わたしはどうしても聞かずにはいられない質問があります。
とても重要な、それでいて知らない方が幸せなのかもしれない――
――神父さん、あの……小なのですか? それとも……。
大なのですか?
わたしはその言葉を最後まで言えませんでした。
ジャーナリストでありながら、聞くのが怖かったのです。
「…………小ですぞ」
神父さんの答えを聞いて、わたしはホッとしました。
のんさんがウ〇コをするなんて、わたしには想像できません。
アイドルがウ〇コをしないという都市伝説と同じような感覚です。
わたしは、仮に自分が挑戦しているところを思い浮かべます。
もし大だったら、音を出さずにするなんてのは無理でしょう。
でも小なら、できそうな気もします。
少しずつ、ゆっくりと出していけば…………。
「ただし、夜眠っていた間に溜め込んだ、朝一番のオシッコですじゃ」
はいムリーっ!!
あれでしょう?
めっちゃ泡立って、めっちゃ濃い色で出てくるやつでしょう?
あんなの、勢いが消せるわけないじゃないですかー! やだー!
「安心してくだされ。のんは今まで、一度も失敗したことがありませんから」
え……、一度も……?
のんさんの様子を見てみると、確かに落ち着いている感じです。
それならばと、わたしも静かに見守ることにしました。
村人のみなさんが、いっせいに目を閉じます。
胸の前で手を組むと、思い思いに神への祈りを始めました。
しんと静まった、朝の教会。
のんさんは、するりとスカートをおろしました。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。