第3話

 戻って朝ご飯をみんなで食べているところを呼び出されたボクは、フジコさんと一緒に悪魔3姉妹の兵舎にいた。

 雨風がしのげるだけの間に合わせの僕らのと違って、随分しっかりして調度品なんかも豪華だ。立場もあるけど、元帥の娘というのもあるんだろうね。そう考えると、一応直属な僕たちが個室をもらってるのも無関係じゃなさそうだ。

 ま、それより今のボクはフジコさんと一緒で大満足だけ。悩みはどうしたって? ちゃんと考えてるさ、でも気分転換も大事だよ。


「人間臭くてたまりませんわ」

「後でしっかり掃除しませんとね~」

「フジコさん今日も綺麗ですね」

「うふふ、お世辞でも嬉しいよ」

「あらあら、聞こえないふりですわ」

「痛々しいです~」

「デートしてくださいよお」

「うふふ、ダメ」

「ちぇ、つれない―」


 足が吹き飛んでボクは顔から床に倒れた。

 どうもこの悪魔たちはわからない、厭味ったらしいから無視するとこうやって暴力に訴えるし、反論しても暴力に訴えるしどうすればいいのさ。

 けど変化もあった。宿敵勇者との一件から、末っ子のヤンだけは暴力を振るわなくなったし当たりも柔らかい。理由は知らないけどありがたいね。


『騒がしいですね』

「!」


 声は光る水晶から聞こえてきた。怪しく、艶やかで威厳のある声。元帥だ。

 3姉妹が慌てて姿勢をただし跪き、ボクはフジコさんに手伝ってもらって足をくっつける。


『さて、新しい指令を下します』

「「「はい! なんなりとお母様!」」」


 こういうところを見ると、憎めなくもないんだけどね。

 元帥か……どんな姿なんだろう。相変わらず、指令を下すときの声でしかあったことないや。倒すべき一人ではあるんだけど、底が知れないよ。なんでかボクとフジコさんを同席させるのも、狙いが分からなくて不気味だ。


『剛魔軍と合流し、水の都ヘキサを制圧しなさい』

「剛魔軍とですか~?」

「わたしたちだけで可能です!」

「剛魔軍なんかいりませんよ!」


 ヘキサ、海に面して水路が特徴の国だって昔読んだ本に載ってた、名物は『水パフェ』だ生きてるうちに食べてみたかったなあ。観光地として人気で、交易も盛んだって話だけど大国ってわけじゃない。3姉妹の言う通り、僕たちだけで攻略できるだろう。

 それを反目し合ってる剛魔軍と合流してまでってことは、僕のしらないうちに戦力を蓄えてたのか何か政治的な思惑があるのかのどっちかだね。


『話はまだ終わっていませんよ?』

「! し、失礼いたしました!」


 声に全く怒気がないのが逆に怖い。慌てて平伏する3姉妹に、元帥は淡々と言葉を続けた。


『剛魔軍は3日後あなたたちの駐屯地へ参じます。くれぐれも粗略な扱いをしないように。戦果を期待していますよ』


 そうして水晶は光を失い、声が途切れた。

 共同戦線か……剛魔軍について、情報収集ができればいいな。欲を言えば、何かつながりも欲しいけどね。

 

 




 

 

  


 


 

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