第25話

「この……姉様を……よくも……」


 ダメだ、今『どくのいき』を吐くとヤンが巻き込まれる。かなりの重傷のはずだ、下手なことをすると……。とにかくだめだ。


「……」


 ! 勇者がヤンの方に……止めを刺す気だ。ミドにはもう素早く動く力も抵抗する力もない。


「ま、待って!」

「……!」


 っていって、聞くわけないよね! どうする? この隙に逃げるのが一番安全なんだけど……。


「くそ……おい、お前……」

「!」

「逃げ……ろ」

「‼」


 そんなこと言われると……無理に決まってるじゃない!


「このお‼」


 真正面から、勇者に突っ込む。


「‼」


 横殴りの一閃、胴体と脚が離れ離れになった。


「まだだよ!」


 上半身は無事だ、ぼくは両腕を伸ばす。


「‼」

 

 そしてそれも切り落とされた。両腕が、宙に舞う。返しで、頭をこのまま狙うだろう。


「ヤン! 今だ!」

「⁉」


 そう、当然警戒するよね。確認しないといられないよね。でも、これはブラフだよ! ヤンはとてもそんな真似はできない。

 本命は、首を狙った『噛みつき』だ。ゾンビなら、僕が一番よく知ってる。頭を切り離してしまえば、何もできないはずだ。


「‼」

「う⁉」


 だ、だめだ! ぼくに反応できてる! これじゃあー


「ラスティ?」

「⁉」


 あ、あれ? よそ見⁉ な、なんでかわからないけど……チャンス! 噛みつけ!


「があっ!」

「ぐ⁉」


 よし、喉に食いつけた! あとは―


「ふんぬ!」


 ぼくは、落ちてきた手で自分の噛みついた頭を思い切りねじる。嫌な音がして、まず『デビルエント』の体と繋がった首が滲きれ、それに連動して噛みついた勇者の首がねじ切れる。

 ぼくは勇者の首肉を噛んだまま転がる。勇者は、肉を食いちぎられて血しぶきをあげて倒れ込んだ。


「がっ、がっ……」


 ようし、倒せたぞ。勇者は、痙攣して血だまりの中に倒れている。


「ヤン、無事?」

「あ、ああ……」


 よ、よかった……危なかった……。でも、どうしてこの勇者は……。


「おおい、大丈夫か」

「おお、燃えてるぞ」


 3匹の『つぼスライム』? ……待てよ、さっき勇者が反応したのは……。


「ああ、ラスティ……」

「知り合いかい?」

「何言ってるのよ、隣町のラスティじゃない」


 そうか、顔見知りの勇者……そのおかげでぼくたちは……。けどそれも、一匹しかもう記憶もしっかりしていないらしい。


「お兄ちゃん!」


 ミドの声が聞こえる。ああ、とりあえず助かったんだ。

 


  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る