第19話

 この目と鼻の先じゃ見間違えないよ、ヤンだ。『ひかりのや』を躱してるのは流石だけど、それは『魔法』で防御できないことの裏返しだ、どうにかしないとやられちゃう。


「ここ開けてください! あの子……元帥の娘です!」


 ぼくは精一杯叫ぶ。……だめだ、バリアは開かない。レイヴンクロ―さんの察知能力で、わからないわけがないから、もう見捨ててるんだろう。実際、今回の戦いは3姉妹の調査不足でこういうふうになってる、元帥にいくらでも申し開きはできるし、ぼくらのことも含めて死んじゃったほうが都合がいいんだ。ああ、いやだ、こういう発想が出ることはモンスターに近づいてる証拠だよ。元のままの思考だと、ぼくは悪い奴だ。


「……」


 ぼくは『バリアー』に手を伸ばしてみる。すり抜けた、外からの攻撃には鉄壁な分、中から外へはそんなに干渉しないみたいだ。そうでないと、中から攻撃できないしね。


「お兄ちゃん? どうしたの?」

「ん」


 ミドたちには頼めない、危ないし、そもそも外からはレイヴンクロ―さんに開けてもらえないと中に入れない。フジコさんはともかく、ぼくらをわざわざもう一回助けてくれるか。……難しい、だって戦ってる最中だし、そのつもりがなくても事故が起きるかもしれない。締め出されたらお終いだよ。

 じゃあ、ヤンを見捨てる? ……それも、やだ。


「パエス!」

「は、はい」

「ぼくに『魔法』かけて、肉体強化魔法! 今できる最高のやつ! 短い時間で反動があってもいいから強いやつだよ!」

「わ、わかりました」

「お兄ちゃんどうしたの?」

「あ! あのくそ猿がいるわ‼」


 ミドが、ヤンを見ると歯をむき出して唸る。そして、ぼくの意図に気づいたのはハッとしてぼくを振り返る。さすがぼくの妹。


「お兄ちゃん⁉ まさか―」

「ここから誰か出たら! すごく嫌いになるからねミド‼ トモナミ! 誰もだよ!」

「う―」


 よし、効果てきめん。これで皆を出さないようにしてくれるはずだ。


「で、できましたよ」

「ありがとう!」


 ようし、動くぞ。ゾンビとは思えないほど軽い!


「このあとの指揮はフジコさん! あとで逆らったか聞くからね!」

「頼まれたよ」

「お、お兄ちゃん!」


 ごめんよ、ミド。でも、自分に正直じゃないといざってとき正直になれないんだよぼくは。ヤンは、助けたい。他の仲間を見殺しにしておいて、自分勝手だけど、助けたいんだ。わかってるよ、最初の目的をちゃんとしてないよね? いい加減だよね、でもね……言い訳もできないけど、やらずにはいられないんだ。


「はっ‼」


 ぼくは、『バリアー』を突っ切って外に飛び出る。浮くことしかできない『デビルエント』でも、ここまで強化魔法をかけてもらえれば、相当早く動ける。

 みちっ、ぶちっ、びりり、ぼきっ。

 体中から、肉が裂けたり切れたり、骨が折れたりする音がする。動きに体がついていけないんだ。でも、ぼくはゾンビ、痛みを感じない。モンスターの肉体なら、これくらいの無茶は耐えられる。

 

「きゃ―?」


 よし、ヤンを捕まえた。怪我はないみたいだ、よかった。


「大丈夫?」

「お、お前⁉」

「お姉さんたちを助けるから、それまで待っててね」


 『ひかりのや』の破片を躱しながら、ぼくはパマとミレを探す。ヤンは、絶対に2人を見殺しにして一人で逃げない。だから、3人一緒に助け出さないとならないんだ。


「べ、別にあたしは……」

「暴れないでね?」


 予想より、ヤンは重い。結構スピードが落ちちゃうな、でも、まだいけるはずだ。3人を探して、捕まえて、『ひかりのや』の射程範囲から離れる。これだけなんだ、もってくれよ、あたらしい体。

 


 

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