第20話

 どこだどこだ? あと二人はどこだ? 視力も強化されてるはずだけど、こうもごちゃまぜだと中々……。


「ちょっ、あそこに姉様がいる!」

「え、どこ?」


 ヤンが指さした先に、光る球体があった。間違いない『バリアー』だ。妖魔軍であんなことできるのは、二人くらいだろう。


「いくよ!」

「は、離せよ! 一人でいける!」

「ぼくの方が早い!」


 ぼくはヤンを抱きかかえたまま、一直線に二人のところへ向かった。『ひかりのや』さえ躱せれば、どうってことはない。

 よし、2人のシルエットが見えてきた。身を守りながら、攻撃を加えてるけど勇者たちの防御呪文で通じてない。もう周りには生きているモンスターの姿もほとんど見えないよ、そうとう頭に血が昇ってるね。あ、『ひかりのや』が着弾した。大分堪えてるようだけど、まだ大丈夫そうだ。


「く!」

「姉様!」

「あら? ヤンちゃん~に、元人間~?」


 ミレが気づいてくれた、『バリアー』はミレが担当してるんだね。けど、パマは相変わらず攻撃に夢中だ。


「姉様! 一端引こう!」

「でもね~お姉様がね~」

「この! この!」


 なるほど、ミレはまだ状況が読めてるけど、パマはそうじゃない。顔を潰されたと思って、自棄になってるんだ。で、ミレはパマの指示がないと行動を起こすわけにいかないってことだね。


「このままだと消耗戦で負けるって言って」

「え?」


 ぼくはヤンに耳打ちする、ぼくの言うことは聞かないだろうけど、ヤンなら少しは可能性があるかもしれない。


「え、えっと……このままだと、しょ、しょう……小籠包?」

「どういう言い間違えなんだよ」


 この大事なときに全く。


「それはわかってるんだけど~」


 意味深にパマをみるミレ、そうもいかないみたいだね。けど、こうしててもいずれ『ひかりのや』の餌食だ、ここは―


「とりあえず、ヤンを『バリアー』にいれてください。パマが疲れたら、撤退すればいいんですから」

「⁉ お前はどうするんだよ⁉」

「届かないところに逃げるんだよ」


 もう一回『剛魔軍』の『バリアー』に突っ込むよりはそっちのほうが安全だもんね。多分、ミレはぼくをいれてくれないだろう。


「いいですよ~でも元人間は入れませんよ~」

「ね、姉様!」

「はい、かまいませんよ」


 やっぱり、予想してたけど傷つくなあ。

 ミレは、背後の『バリアー』を開けて、ヤンを招き入れようとする。ヤンは、バツが悪そうにぼくを見た。


「あ、あの……」

「生きてね?」

「え?」

「せっかく恩を返したんだ、生き残るまでしないとね。それじゃ、ぼくはこれで」

「お、おい!」


 中々格好いいこと言ってるけど、見た目ほど余裕ないんだよねえ。そろそろ羽の付け根が取れかかってる、少しでも早く戦場を離れないと。

 改めて周りを観察すると、もう動いてるモンスターの方が少ない。『剛魔軍』は下手すればまだ怪我に……モンスターも出てない気がする。この一戦、勝っても負けても主導権はもう向こうのものだろうね。

 ミド、フジコさんは無事かな? いや、信じてるからこそヤンを助けに出たわけだけど、今頃になって心配になってきた。


「とにかく、今は逃げないと」

 

 ぼくは、切れかかった強化魔法を頼りに『ヘキサ』から離れていった。途中、遠くから『ひかりのや』の爆発音が聞こえた以外はとくに何もない、流石に向こうも、魔力が切れたんだろうね。

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