第22話

「調子は?」

「別に普通だよ」


 う~ん、ゾンビに調子ってあるのかな? 痛いどころか感覚もないしなあ。


「悪い」

「え?」

「さっきのことだ」


 あ、『バリアー』のことかな。いきなり頭を下げるから、虚をつかれたよ。けど謝れるんだ、やっぱり姉二人とは違うんだね。


「ぼくが好きでやったから……」

「……そっか」


 ……。う~ん、この雰囲気は……経験がないなあ。


「あっちにいくんだろ?」

「⁉」


 バレてる? いや、冷静に冷静に、ブラフかもしれない。……ミドたちは寝てるはずだけど呼べばすぐに……いやいや、ヤンはぼくの弱点を知ってるはずだ、頭をすぐに狙ってくる。

 くそう、こんなタイミングで裏切り者の処分なんか。いや、このタイミングだからかもしれない。パマとミレがあのことを根に持って……どうしよう、ピンチだ。羽がないから飛べない、一か八か、『どくのいき』で目くらましをして逃げるしか……。


「大丈夫、姉様たちは気づいてない」

「っ」

「今、お母様にどうやって言い訳しようか考えてて、お前のことなんか気にしてらんないんだ」


 う~む、まあそれもそうか。けど、ならなんでヤンは?


「黙っててやるよ」

「み、見返りはなに?」

「?」

「だ、だから黙ってる代わりにぼくに何かさせようっていうんじゃない?」


 ヤンは、軽く肩を竦めて立ち上がった。


「ねえよ、そんなの。お前にも、なんか理由あるんだろ? ただ、ありがとうって言いに来たんだ、さっきのこと。……それと」


 ヤンが、ぼくを見つめる。こうしてみると、けっこう可愛いね……。っは、いけない、ぼくにはフジコさんというのがありながら……。


「そのよ、……仲良くなれっかもって思ってたとこだから、ちょっと残念かなって。お前は、結構根性あるし」

「あ……」

「仕方ないよな、俺たちのせいでみんな死んじゃって、お前のことも……ごめん」


 ヤンの寂しそうな横顔に、ぼくは胸が締め付けられるような感覚を憶えた。

 それは……それは違うんだよ、ヤン。ぼくは……ぼくはそんな……。最初から裏切ろうとしてたのはぼくの方で―


「⁉」

「⁉ 姉様⁉」


 兵舎の方からだった。

 爆発音と、火の粉が、夜空を赤く染める。

 



 

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