僕は魔王軍の一員として、精いっぱいがんばります! 妖魔軍死闘編
あいうえお
第1話
「助けてくれええええええ!」
彼は必死に走った。
剣も、鎧も捨てた、重りになるだけだ。
「誰かああああああ!」
能天気に続く緑の草原が恨めしい。
ちょっとした、油断だ。少し前、小さな村にさしかかった時だ。仲間の賢者が、地図を見ながらこの先に大きな町があると言い出した。高名な、武器屋があるらしい。だから、村を素通りして町へ向かい歩き続けた。疲れはあったが、戦闘ができないほどじゃなかったし、周囲に命の危険があるようなレベルのモンスターもいないはずだった。
「人型でてこいいいいいいい!」
「絶滅されてえかあああああ!」
悪魔がいた。黒く、体中に蒸気の走る血管が浮き出た、背に剣山を乗せた4翼のドラゴン。背に多種多様の重火器を背負った、機械の大狼。
一心に、モンスターを狩り、訳の分からないことを叫びながら引き裂いていた。
誰もが、呼吸も忘れ恐怖に戦いた。
「ひ……」
「「あ?」」
目が、合ってしまった。
「あああああああ!」
「おら! あれはあたしの獲物だ! 消えろ犬!」
「うるせえんじゃい爬虫類! 蠅でも追っとれ!」
賢者が最初に殺された。
機狼の小銃射撃で、腰から上が混ぜ肉になって草の上に降り注いだ。
次は剣士だった、慌てて剣を抜こうとして鞘にひっかけ、外そうとしたところを黒龍の尾で縦に叩きつぶされた。
そこで、もう歯向かう気はなくなった。仲間内で腕は一番と自負していた、だがあくまで数段の差だ。羽虫の身で、龍に挑もうという気概はなかった。敵討ちよりも、自身の命を優先した。背後で言い争いながら迫ってくる2匹の悪魔から、必死に逃げる。息が上がって、朝に食べたものを戻しそうになる。けれど止まったら、待っているのは死だけだ。
「よっしゃ! まずお前を殺したる! お兄ちゃんに媚び売りやがって目障りだったんじゃ!」
「おおええやん! てめえの首便所にぶち込んじゃる!」
背後で爆発音がした。耳鳴りと、熱波が悠々と突き抜ける。会話の意味はわからない。だが、追跡が一瞬止んだのを感じた。
仲間割れ、そう直感する。生き残れれるかもしれない、そう僅かな希望が湧き―
「うほっ」
「ぐげええええ⁉」
摘み取られた。突如身を襲った衝撃に、彼は投げ出され地面に叩きつけられる。猛烈に、足が熱い。
「ミド~?」
「お、お兄ちゃん!」
「ど、どうしたのかしら?」
「どうしたのじゃないよ。休憩終わりでしょ? ……また君たちは……」
「だ、だって人型に……」
「エスパだけずるいわよ!」
「だからそれは……! この人たち……!」
何か言ってるが耳に入ってこない。
もう一度立ち上がって、走って―
「‼!‼! あああああああ!」
熱さが激痛に変わる。
ここでようやく、自分の足がどうなっているかを見ることができた。
膝から下が、ない。力任せに引きちぎられたように、いびつな傷口をみせているばかりだ。立とうとしたときに付いた草や土が、突き刺さっていた。
「あああああああ!」
どうして? どうして? どうして⁉
小さいころから村で喧嘩も勉強も一番だった。王国から使者が来て、直々に勇者に選ばれたのは、当然のことだ。
旅に出て、数ヶ月。仲間も出来、着実に力をつけていずれは魔王を―。
ああ、どうして勇者なんかになってしまったんだろう? 渡し守で平凡な一生を―痛い、ただただ痛い。こんなところで死にたくない。父さん、母さん、神父様、王様、神様、誰でもいい、助けてください。どうか、どうか―
「ごめんね」
少年の声だった。
それが生の中に得た最期の言葉だった。
かすんだ視界に映ったものが何かはわからない、ただ腐敗臭だけは確かに感じた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます