第8話
「下がりなさい」
「できねえな」
『アサシンマミー』と『レイヴンシャドー』でにらみ合いが続く。周りのモンスターたちはニヤニヤしてみてるだけ、報告しないところを見ると統率が取れてないのかな? さてこの場合ぼくのすべきことは……。
「降参しよっか」
「! え、ええ」
「仕方ないね」
「あ?」
ぼくはエスパとフジコさんに合図して、3人仲良く土下座する。
「「「許してください! 何でもしますから!」」」
「はあ?」
顔を見上げると、『アサシンマミー』も周囲のモンスターも、『レイヴンシャドー』も呆気に取られている。
「絶対に勝てないんです! お願いします! 命だけでも助けてください!」
「お、お前な恥ってもんを……」
「お願いします!」
「うわ! お前まとわりつくな!」
「死にたくないんです! ゾンビだけど!」
「この! は、離れろ!」
「出来たわ!」
「あ⁉」
「『じばく』‼」
閃光、そして爆音。そう、ぼくは『じばく』した、煙と炎とぼくの体があたりに飛び散る。不死身が売りのモンスターなら、必須の技だね。ダメージを与えられるなんて思ってないけど、目くらましにはなる。
「はいっと」
「どうも」
首だけになったぼくを、フジコさんがキャッチする。
「『リール』!」
エスパの呪文が響いて、ぼくらの体は光に包まれた。瞬きの間に、元の兵舎に元通りだね。
「うまくいきましたね」
「うん」
『降参』はワードさ、エスパに移動魔法を発動してもらうね。発現と同時に土下座してぼくが注意を引く、発動の準備が整ったら『じばく』で目くらましして移動魔法で帰還。行く前に即興で決めた作戦だけど、こうも上手く決まると清々しいね。
「お兄ちゃん!」
「なんてこと! すぐ治してあげる! よこしな!」
「どけクソ犬! あたしがやるの!」
「きみたち回復特技使えないでしょ? あーこらぼくを投げ合わない」
ミドとトモナミがフジコさんからぼくを奪い合う。ボールじゃないんだから。あ、この感触はフジコさんの手だ。優しいなやっぱり。
「な、なんかされたのか?」
「まあね、ジャイア、取りあえず戦闘態勢でいて。ミドもトモナミも」
「うほっほ!」
さっきのがただのトラブルか、それとも仕組まれたのか、このあとのリアクションで決まるね。追ってくるようなら……。
と、兵舎の仲が眩く光る。移動魔法だ。ヤル気だね。
「ミドとトモナミはすぐ攻撃できるように! ジャイアは『ちからをこめる』! オネスは『すごくくさいいき』! エスパは『リール』!」
光を囲んで全員が配置につく。移動魔法の弱点は、到着直後の隙だ。だからそこを一斉に攻撃、オネスの目くらましとエスパの『リール』で移動だ。問題は簡単に向こうが追ってきてるところだね、追跡能力があんまり高いとスタミナ切れで負けちゃう。次もすぐ追ってくるようなら、3姉妹の兵舎に飛んで混戦を期待するしかない。
「きたよ!」
「ミド! トモナミ!」
光が収束して、4つの影が現れた。
『レイヴンシャドー』と『ツインオーガ』、『アサシンマミー』だ。やっぱり仕組まれてたんだ。
「「死ね!」」
ミドの熱線と、トモナミのレーザーが4に……体を襲う。
「『ドレインハンド』!」
「⁉」
『レイヴンシャドー』が両手で熱線とレーザーを受け止めて……吸収した⁉ 奇襲にあっさり反応するなんてずるいよ。
「あれは相手の攻撃を急襲して逆に回復する特技だよ! だけど、一度吸収した攻撃以外の攻撃は一定時間無効化できない! ここは―」
「どうもフジコさん! なら打撃だ! ジャイア!」
「うほおおおお!」
「あ、待った!」
「⁉」
フジコさんの制止が間に合わず、ジャイアが『ちからをこめる』でパワーをあげたパンチが『レイヴンシャドー』に迫る。
「ぬう」
「うほん⁉」
そのパンチは盾になった『ツインオーガ』のお腹に当たって、弾き返された。ジャイアは転がって手を抑えて痛がり、ツインオーガには全く効いてない。
「ツインオーガには打撃が効きづらいんだよ」
「それを―」
早く言ってといいそうになって、ぼくは慌てて口を閉じた。こんな短い時間でそんな暇はなかったし、ぼくの判断ミスだ。事前にもっと弱点や特技の推測を聞いておくべきだったんだ。
「オネス! エスパ!」
最後の一手、逃げるしかない。ミドには肉弾戦、トモナミにはミサイルと爪牙がるけど通じそうもない。魔法はエスパよりずっと得意そうな『レイヴンシャドー』、おまけに『アサシンマミー』までいるんだ。
「よ、よっしいくぞ―」
「『とくぎふうじ』! 『まほうふうじ』!」
「け……けほっ?」
「『リール』! 『リール』⁉」
オネスはせき込み、エスパは必死に叫んでいるのに転送されない。
「あれは―」
「名前で大体わかります、特技と魔法を封じましたね?」
「ご名答……この子すごく鍛えてるね。けど条件は向こうも同じだよ」
「どうも」
といっても、こっちの不利に違いはない。肉弾戦に強い『ツインオーガ』はジャイアじゃ戦えないから、ミドとトモナミにやってもらうしかない。『アサシンマミー』はどれだけ熟練かわからないけど、ジャイアが勝てるかどうか。『レイヴンシャドー』にぼくとフジコさんとオネスとエスパ……ぼくは役立たずだから実質3対1だけど……う~ん。
「まずいですね……」
考えろ。考えろ。何か……何か……やっぱり3姉妹を巻き込みたい。足の速いトモナミか、飛べるエスパに……ダメダメ、その間にやられちゃう。何かないか……。
「はい、ここまで」
「はい、そこまで」
「ああ、待ってください。ここは私が……」
にらみ合いの中、『レイヴンシャドー』から何かが飛び出してぼくの頭の上に乗った。
「やるね、あんた」
「あんた、やるわね」
この重さと感触、声の調子からするとドルーインとハスボンだ。参った、大将が出てきちゃったよ。
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