第25話 超天才少女ルミちゃん

「いや~随分こっぴどくやられたもんだね~」


ここはシスタールームのアイビーの部屋…アイビーのベッドの横で床にシートを敷き、あぐらをかきながらノートパソコン的な端末をいじるサロペットパンツにサンバイザーの少女。

シートの上はネジやらよく分からないメカのパーツやらが散乱している。


「よし…これでアイビーは再起動するはずだ」


色とりどりのケーブルでアイビーと繋がった端末のエンターボタン的な大き目のスイッチを押す少女。

この少女はアイビーの創造主である若き天才少女科学者ルミである。

彼女の召喚は驚くほどスムーズに行われた。




魔法陣の上に大きなリュックサックを背負い端末を脇に抱えて現れたルミ。


「凄い荷物だな…」


愛志は目を丸くする。


「事前に召喚されるのが分かってるんだ…これ位の準備はするさ」


小首を傾げウインクするルミ。

特定の個人を指定しての召喚に懐疑的だった愛志もなるほどと感心する。

むしろ場当たり的に召喚するより望んだ能力を持った妹を呼べる点でこの方法が有効であると確信した。

しかし今回のケースの様に事前に異世界と通信出来る事は稀だ…恐らく今回だけであろう。


「さあ契約使用か兄君あにくん…僕は処女でその手の経験は皆無だから宜しく頼むよ?」


「…なっ!!女の子がしょ…しょ…処女とか言っちゃだめだろう!!」


顔を真っ赤にして声を荒げる愛志。


「あっ…そうか兄君も童貞か…でもこれだけの妹が居ると言う事はキスは上手いんだろう?」


「だから…そう言う事を女の子が言っちゃだめでしょーーーーー!!!」


完全にルミからかわれている愛志…これではどちらが年上か分からない。




『…再起動完了…』


アイビーが目を覚ました。

密が目尻に涙を浮かべて喜ぶ…薫と千里も笑顔を浮かべていた。


「さて…お次はボディの方だけど…折角だからただ直すだけじゃなく少しパワーアップしようと思うんだけど…」


「…それは願ってもないけど…何か問題でも?」


ルミの何か含みのある言い方が引っ掛かった。


「それが時間が掛かりそうなんだよ…二日…いや一日だね…」


「えっ…それじゃあ明日の決戦に間に合わないぞ…」


「僕も出来るだけの事はするよ…ただアイビーの参戦が少し遅れる可能性がある…だ・か・ら…」


そう言ってルミは愛志達の目の前に移動式作業台に乗ったあるメカを差し出した。

それはアイビーの両腕前腕と両脚脛部…頭部ヘルメットと胸部、腰部のアーマーだった。


「これは?」


「見て分からない?これを兄君が装着して戦うんだ…それで何とか僕の作業時間を稼いで欲しい訳さ」


「はっ!?無理無理無理!!ほら片手だけでこんなに重いんだぞ!?これを身体に着けて戦えるわけがない!!」


持ち上げたアイビーの腕はズシリと重かった…愛志の持った右腕だけで20キログラムはあるだろうか。


「そんなの当り前じゃない…僕がその点を考えないとでも思ったのかい?だからこうするんだ」


ルミが次に取り出したのはランドセル大の物体からたこ足のように数本のケーブルが生えた装置だった。


「これを兄君が背中に背負って動力ケーブルを各ユニットに繋ぐと…」


ルミは手際よく愛志にアイビーの各パーツを取り付けていく…すると…


「おおっ!?何だこれ…全く重さを感じねぇ!!」


面白がってシャドウボクシングやキックを繰り出す愛志…さっきの重さが嘘の様に自在に身体が動かせる。


「それは頭のヘルメットのアイビーのサブコンピューターが制御してくれているお陰なんだよ…それらは名付けて『アイビーアームズ』さっ」


『微力ながらお手伝いさせて頂きます…』


「おっ…おう!!宜しくな!!」


少し楽し気な愛志の様子を優し気な表情で見守る密が居た。


(良かった…お兄ちゃんに少し明るさが戻って…)


思わず頬を一筋の涙が伝う…薫が無言で肩を抱いてくれた。


「…ありがとう…」


「気にするな…」


そのまま密は薫の肩にもたれ掛かった。




ルミが作業に没頭し始めたので手持ち無沙汰にしていた愛志のもとに千里が現れ耳打ちをした。


「…ご主人様…少しよろしいですか?」


「おう千里…どうしたんだ?」


「昨日の斥候の件でお話が…」


「………!!」


千里にマイアの尾行を頼んでいたが怒涛の様な騒動におされてまだ報告を受けていなかったのだ。


「…それで…何か分かったのか?」


「それが敵の本拠地には薄く探知の結界が張ってありあまり鮮明に会話を聞き取れなかったのですが…どうやら敵のマスターは恐喝されて協力させられている様なのです…」


「本当か?前に会った時は好郎の奴、自分の意思で姉妹戦争に加担したと言っていたんだが…」


姉陣営として初めて愛志の前に現れた好郎は確かにそう言っていた。

しかし愛志は学校での戦いの去り際、彼が物言いたげな表情でこちらを見ていたのも気になっていたのだ。

転機があったとしたらあの時ではないか…。


「私もあの禍々しき者を少しだけ見て来ましたが…恐ろしく強大な霊力と魔力が混在した禁忌の存在でした…魔女らしき人物が何やら手を加えていた様ですが…」


愛志はハッとした…今思い起こすとあの黒い怨霊は姉陣営も持て余している節があったのだ。

そして愛志操るアイビーがそれにとどめを刺そうとした時、好郎が庇いに来た…これの意味する所は…?愛志はある仮説を思い付いた。


「千里…あの黒いヤツ…あれの中に人が入っている可能性はあるか?」


黒い怨霊に人が依代として捕らわれている…以前、薫が愛志に言っていた事だ…ただ確認した訳では無い。

餅は餅屋…妖怪であり、どちらかというとそちら側に近い存在の千里にも意見を聞いておきたかったのだ。


「…有り得ますわね…悪霊は霊体のままで操るのはとても難しいのです…何か依代が…人に憑りつかせればある程度は制御できるのではないかと…」


「やっぱりそうか…」


(これは俺が望んで召喚した者じゃないんだ…こんな大事な人を犠牲にするような事…)


これはその時、好郎が言い放った言葉だ。


「…もしかして…中に好郎の家族がいるとか…まさか茜ちゃん?」


これは完全に愛志の憶測でしかないがその可能性が高い…。

愛志は妹達にここで待機している様伝えると、急ぎシスタールームを出て好郎の妹である姉歯茜に電話を掛けた…しかしいくらコールしても一向に繋がらないのだ。


(これは最悪の展開になったな…)


愛志は家を出て姉歯家に向かって走り出した。

茜は何かの事情で電話に出れないだけかもしれない…ならば直に会って安否を確認しようと思ったのだ。

町に出て交差点を渡ろうとしたその時…。


「おい…お前は妹背愛志じゃないか…」


女性の声で愛志が振り返るとそこは彼のクラスの担任教師、菅生伊代が松葉杖をついた状態で立っているではないか。


「…凄いよ…じゃなかった…菅生先生…どうしてここに?」


愛志はあまり伊代が得意ではない…一瞬にして身体が硬直する。


「どうしてって…退院したんだよ…それで家に帰る途中だ」


姉妹戦争のせいですっかり日常から離れてしまっていたのだ…

伊代をはじめクラスメイトや学校がどうなっているのかすら愛志は知らないのだ。


「堂々と学校をさぼるとはいい度胸してるな妹背よ…」


「ひっ…済みません!!」


「なんてな…未だ学校は休校状態だろ…何ビビってるんだ?」


珍しく伊代の口元が緩んだ…ホッとする愛志。


(そうか…あれだけの事件があったんだ、休校もするよな)


「だがお前も薄情だよな…クラスの他のヤツは私の病室に見舞いに来たって言うのに」


「済みません!!俺にも色々あったんで…!!」


直立不動で弁明する愛志。


「あっ…お前だけじゃない…弟切颯も来ていないな」


「えっ…?」


「弟切はあの事件から行方不明なんだよ…警察にも捜索願いは出しているんだけどな…」


「何だって!?」


「ああそうか…これはお前ら生徒に言っちゃダメだったわ…忘れてくれ」


愛志は混乱した…あの事件で学校から避難したのなら颯が行方不明なるとは考えづらい…これはまさか…彼の頭の中でもう一つの可能性が浮かび上がった。

直後愛志のスマホが鳴る…相手は茜だった。


『ご免なさい愛志さん…ちょっと手が離せなかったものだから…』


「茜ちゃん!?良かった…無事なんだな!?」


『えっ…?無事ですけど…どうしてそんな事を?』


愛志は確信した…あの黒い怨霊の中には依代として颯が居ると言う事に…。


『もしもし?愛志さん?もしもし~~~?』


愛志は電話越しの茜の声が聞こえない程に全身を震わせ憤っていた。

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