第3話 母、のん気だね
「お兄ちゃん落ち着いて!!」
巨乳褐色銀髪娘マイアに連れ去られた好郎を追いかけようと
いきり立つ愛志を密が両手を広げて通せんぼした。
「そこをどいてくれ密!!このままじゃ好郎が…」
「聞いてお兄ちゃん!!好郎さんなら大丈夫…命を取られたりしないから!!」
「何故そんな事が分かる!?さっきあの女はオレたちを殺そうとしてただろ!!」
「少し落ち着け兄者…」
密に対して食って掛かる愛志に薫も見かねて仲裁に入る。
だが実際、愛志の言う通り現にあのマイアと言う女に彼らはあわやあの世に送られる所であったのは間違いない。
「マイアさんが好郎さんをさらって行ったのには恐らく理由があるの…
きっと助け出すチャンスが来るから…お願い…今は私を信じて一旦体制を立て直しましょう?」
真剣な眼差しの密…澄んだ瞳からは嘘、偽りは全く感じられない…
「…ああ…分かったよ…お前の言うとおりにするよ…怒鳴って悪かった…」
すっかり毒気を抜かれた愛志はバツが悪そうに頭を掻いて密から視線を逸らす…女の子と長く視線を合わせた事が無かったので照れていたのだ。
「気にしてませんよ…立ち話もなんですからお家へ帰りましょうか…」
「うむ…そうだな…」
密と薫は何の迷いも無く愛志の家の方角へと歩を進める。
程なくして妹背家の玄関先に辿り着いた。
「おい!!何でオレん家の場所知ってるの?」
慌てる愛志をよそに密はこう言った。
「だって妹ですから」
「ただいまー!!」
ガラガラガラ…
引き戸の玄関を愛志が開けると居間からこちらに向かって来るのは
愛志の母親『妹背
「あら~いっくんお帰りなさい~」
おっとりとしたやさしい声で出迎えてくれる。
「…え~と…その…何だ…この子たちは…」
しどろもどろになる愛志。
それもそうだ、いきなり妹が二人出来ましたなんて実の母親にそのまま説明して信じてもらえるはずが無い。
「あら?密ちゃんに薫ちゃん…みんなお揃いで帰って来るなんて珍しいわね~」
愛志は盛大にズッコケてしまった。
「おい!!何当たり前の様に振舞ってるんだよ!!母さんはこの二人とは初対面の筈だろう!!」
物凄い剣幕で母に詰め寄る愛志。
「まあ!!何言ってるのいっくん!!母親である私がお腹を痛めて産んだ娘と初対面な訳ないでしょ~?」
「は?…何言って…」
「愛志お兄ちゃんちょっと…」
納得がいかない愛志に小声で耳打ちをする密。
「これはきっとシスターマスターの魔導書の効果だと思います…
愛志お兄ちゃんと妹契約を結んだ私達は元から兄妹だった事になる様ですね…契約は今日が初めてだったから実際にこうなるとは知りませんでしたが…」
「そうなのか…?じゃあ変に騒ぎ立てるのはかえって不自然か…」
それならばと学ランの襟元を正す愛志。
「あ~そうそう!!たまたまばったり帰り道で二人に会ってよ…
久し振りに一緒に帰ったんだよ…はは」
「そうなの~?もう~いっくんがおかしな事言いだすからお母さん焦っちゃったわ~」
胸に手を当てほったした表情の愛美。
「じゃあ俺たちもう行くから…!!じゃっ!!」
愛志は密と薫の腕を両手で掴み、一目散に自分の部屋のある二階へと駆け上って行く。
「あらあら~?」
愛美は呆然と三人を見送るしかなかった。
「はあ~焦ったぜ~!!」
部屋に入るなりドッカと床に腰を落とす愛志。
「お疲れ様ですお兄ちゃん」
ペコリと軽く会釈をする密。
「なあ兄者よ…この部屋少し臭わないか?」
薫が眉を寄せる。
まさか来客…特に女の子が入室するなんて事は想定外だったので
食べ散らかしたお菓子の袋や、着替えたジャージや靴下などが脱ぎっぱなしで放置してあったのだ。
「わわっ!!ゴメンゴメン!!今片付けるから…!!」
愛志は慌てて散らばっている物を無造作に掻き集めると…それらをまとめて押し入れに突っ込んだ。
「も~!!ダメでしょうそんな事したら…だらしないですよ?」
腰に両手を当ててぷんすかと怒る密。
キュン!!
「そう…!!これだよこれ!!俺が求めていた物は…」
「え…?何ですか?」
「妹に優しく叱られる…憧れてたんだよこう言うのに…」
恍惚とした表情の愛志…視線が遥か遠くを見ている様だ。
「はあ…そうなんですか…」
少々あきれ顔の密、しかし気を取り直して愛志に向き合う様に床に正座をした、薫もそれに続く。
余りの張りつめた空気に思わず愛志も正座をしてしまう。
「では早速事情の説明をさせて頂きます
単刀直入に言いますが私達はこの世界…愛志お兄ちゃんの居るこの星や次元、時代の人間ではありません
勿論、こちらの薫さんと私も別々の所から来ていてさっきが初対面です」
「…随分と直球な説明だな…そんな突拍子も無い事をあっさりと…」
「はい…私、余り回りくどいのは好きではないので」
眼鏡のフレームに指を添えながらキッパリと言い切る密。
「私の居た世界…システシアの古代遺跡の発掘調査中に二冊の本が発見されました、古代文字で書かれていて初めは何の本か分からなかったのですが、調査が進むにつれこれらの本は召喚魔法を使用するための魔導書である事が判明しました
一冊は『姉』を召喚する魔導書…そしてもう一冊がこの『妹』を召喚する魔導書です」
密はショルダーバッグからシスターマスターの魔導書を引っ張り出す。
ボワ~っと微かに薄紅色に発光している様だ。
「俺なんかだと召喚魔法と言えば悪魔、精霊、モンスターとかそう言うのを呼び出すのを想像しちゃうけどね」
しなれない正座で足が痛くなったのかすでに足を崩している愛志。
「実際システシアにもその手の魔導書は有りますよ
ただこう言った特殊な召喚魔導書は類を見なくて…
それにこの二冊の魔導書を使用できた人間はシステシアには居なかったのです
唯一私が『妹』の魔導書に触れた時に一番の反応…本が発光したので
私が所有権を頂きました、本に選ばれたとでも言うのでしょうか…
その時に私は本に選ばれた人間…私が触媒となって
でもその事を私は誰にも口外しませんでした
何か恐ろしいことが起りそうな…そんな予感がしたからです…
しかしこの二冊の魔導書の未知の可能性を我が物にしようと
ある権力者が暗躍し『姉』の魔導書を手中に収め
あろう事か私の持っている『妹』の魔導書をも奪い取ろうと狙って来ました」
自分の肩を抱き震える密。
余程怖い思いをしたのだろう。
「そして追っ手から逃れるために異世界転移の
「なるほどな」
「信じてくれますか?
こちらの世界では魔法はフィクションの産物だと聞きました…
こんな荒唐無稽な話…」
「信じるぜ!!」
「え?」
「あれだけの事が次々と立て続けに起こったんだ…信じるに決まってる
それに俺は頭が柔らかい方なんだぜ?
親友の好郎だって助けなきゃならないし
その騒動に巻き込まれてやろうじゃないの!!」
ビシィと右手の親指を立てる愛志。
「ありがとう…お兄ちゃん」
見る見る密の目に涙が溜まっていく。
スッと横から薫が無言でハンカチを差し出す。
「薫さんもありがとう…」
「気にするな…私達は今や身内ではないか」
余り感情を表に出さない薫だが少しだけ照れくさそうにしていた。
密はハンカチを薫から受け取り涙を拭いた。
「いっく~ん!!いっく~ん!!」
階下から愛志を呼ぶ愛美の声がする。
「何だ母さん!!今取り込み中なんだ!!急ぎの用じゃなけりゃ後にしてくれ!!」
ドアを開けて声を張り上げる愛志。
「お友達の姉歯君が来てるわよ~何でも大切な用事があるんですって!!」
「何!!好郎が!?それを早く言ってくれ!!」
階段を転げそうな勢いで下る。
「あっ…!!待ってお兄ちゃん!!ダメ!!きっと好郎さんは…!!」
慌てて密と薫も愛志を追いかけて部屋を出た。
「何だよ…好郎の奴心配かけやがって…無事に逃げられたんだな!!」
喜び勇んで玄関の引き戸を開けた愛志の目に飛び込んで来たものは…
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