シスターマスター~異世界から妹を召喚する本を手に入れた件~

美作美琴

第1話 親方!地面に女の子が…


「どこかに妹が落ちて無いかな~」


 これが彼、『妹背いもせ愛志いとし』の口癖だ。


 ただ下校時に天下の往来で発していいセリフではないと思われる。


 ごく一般的な家庭に育ち今年高校二年になる一人っ子。

 ボサボサ頭とキツめの三白眼、ぶっきらぼうな態度。

 学ランの着こなしも常にボタンを留めずに胸元を開けっ放し

本人は気に入っているらしい赤シャツが見えている。

 周囲からはガラが悪いと思われがちだが

 冒頭のセリフからお察し頂ける様に彼は大の年下の少女好き…。


 所謂いわゆる『妹属性』大好き男なのだ!!


「おいおい!俺と一緒に歩いてる時にそう言うアブナイ発言は止めてくれないか!!たちまち事案発生で俺まで手が後ろに回るだろ!!」


 そう言う『姉歯あねは好郎よしお』は愛志いとしの友達だ。

 こちらは愛志いとしとは打って変わってさっぱりとしたイケメンで

学校のクラスの女子からの人気も高い。


「けっ!モテ男の上に実の妹までいるリア充様にはオレの気持ちなんざ

分からないだろうよ!」


 愛志いとしは学ランのズボンのポケットに両手を突っ込み猫背で歩きながら石ころを蹴とばす。


「実際の妹なんてそんなにいいもんじゃないぜ?

口うるさいは我儘だは、兄を兄とも思わないし…

お前は妹という存在に幻想を抱き過ぎなんだよ」


 両掌を上に向け首をすくめながらかぶりを振る好郎よしお


「…?おい!どうした?」


 てっきり愛志いとしから猛反論を喰らうだろうと思っていたものだからいささか拍子抜けの好郎よしおであったが、

 呆然と前方を見たまま硬直している愛志いとしを怪訝に思った。


「落ちてたぞ…」


 ぼそりとつぶやく愛志いとし


「ん?何がだよ?」


「本当に落ちてたんだよ!…妹が!!」


 前方の地面を指差して愛志いとしが大声をあげる。

 そしてそのままそちらへ駆け出して行った。


「はぁ?そんな馬鹿な!!」


 確かに地面に十代前半くらいの少女がうつ伏せに倒れていた。

 三つ編みで髪を左右にまとめ丸縁眼鏡を掛けている。

 顔だちはかなり整っており美少女と言ってしまって差し支えない。

 着ている服はどこかの学校の制服と思われるブラウンのブレザーにミニスカート。

 だが地元にこんな制服の学校は無い。

 しかし少なくとも落ちていたと言う表現はおかしいし、勝手に妹呼ばわりもどうかと思うが…。


「おい!大丈夫か?」


 愛志いとしが眼鏡三つ編み少女を抱き起すと、完全に気絶はしておらず、微かに目を開ける。


「…あ…お兄ちゃん…」


 少女は愛志いとしの顔を見るなり今にも消え入りそうな声でそう言った。


 ズッキューーーーーーン!!!!!


「…はうっ…!!!」


 愛志いとしは思い切り体を背後へとのけ反らせる。

 胸を「お兄ちゃん」と言う言葉が突き刺しそのまま貫通したかのような

強烈な衝撃が身体を駆け巡る。

 彼はこのまま死んでしまってもいい!!とさえ思ってしまった。


「うおおおおん!!我が…我が人生に一片の悔いなし!!」


 滝の様な涙を大量にちょちょぎらせ泣き咽ぶ愛志いとし

 遅れて来た好郎よしおはその様を見て正直友達を辞めたくなった…。


「どうする?救急車を呼んだ方がいいんじゃないか?」


 スマホをポケットから出しながら好郎よしお愛志いとしに声を掛けた。


「待って!!」


 少女は自分を抱えている愛志いとしの胸の赤シャツををギュッと握りしめる。


「初めまして…お兄ちゃん…私、名前は『ひそか』と言います…」


 愛志いとしの目をじっと見つめ顔を真っ赤にするひそか


 ドキン…


「…ああ…オレは愛志いとしだ…よろしくな…」


 密から目を逸らしつつモゴモゴと自己紹介する愛志いとし

 年齢イコール彼女いない歴で女子とまともに会話した事の無い彼には

それが精一杯であった。


「あの…あの…愛志いとしお兄ちゃん…突然なんですけど…」


 急にモジモジし始めるひそか

 目尻には小粒の涙が溜まっている。

 だがやがて意を決したように深呼吸すると…


「わっ…私を…!!私を愛志いとしお兄ちゃんの妹にしてください!!」


 グッと目を瞑りながらありったけの大声を上げるひそか

 顔も先程とは比較にならない程真っ赤っかで、恥ずかしくて堪らないと言った様相だ。


「「はいい~?!」」


 思わずハモる愛志いとし好郎よしお


 そして二人の思考はしばらく凍り付いた…。

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