第2話 血の繋がった妹などいません!


「…どう言う事だってばよ…?君みたいな美少女が妹になってくれるなんてオレとしてはやぶさかではないが…」


 気が動転しているのか普段使わない言い回しで密に質問する愛志。


「…それは…」


 三つ編み眼鏡少女、密が口を開こうとしたその時。


「やっと見つけたわよ!!メガネチビ!!」


 路地の向うからどんどんと近づいて来る人影は

 褐色の肌に銀髪のロングヘアー、金色の瞳の妖艶な美女だ。

 ただ住宅街の路地であるこの場にそぐわない装い…紅色のマイクロビキニなのだ。

 いやマイクロビキニ的な南国の衣装と表現した方が正しいだろう、はた目からは殆ど半裸状態だ。

 両手には異国の武具に良く見受けられる曲線で構成された短剣ダガーを逆手に持っている。


「…マイア…さん…!!」


 どうやら密とこのマイアと呼ばれた銀髪美女は顔見知りらしい。


「…!このガキ…もうマスターを見つけたのか!!

こうなったら契約される前にお前ら三人には消えてもらおうかね!!」


 地面に這うほどの四つん這いに近い低姿勢を取るマイア。

 その直後、物凄い速さでこちらに突っ込んで来る!


「うわわっ…!!ちょっとタンマ!!お姉さん危ないって…!!」


「危ないに決まってるだろう!!お前さんの命を獲ろうって言うんだから!!当たると死ぬほど痛いよ!!」


 マイアが高速で前進しながら手にした短剣ダガーを縦横無尽に振り回す。

 ブオンブオンと風を切る音が愛志の恐怖心を増幅する。

 愛志は密をお姫様抱っこの状態で抱え上げたまま奇跡的に斬撃をかわしているが

お世辞にも運動神経が良いとは言えない彼の事だ…いつまで逃げ切れるか…。

 マイアの横薙ぎの大振りの斬撃をかわした所でバランスを崩し尻もちを付いてしまった愛志。

 ただ絶対に密に怪我をさせない様に自ら下敷きになる辺り筋金入りの妹好きと言うべきか…。


「いって~!!もう勘弁してくれ~!!」


「大丈夫!?愛志お兄ちゃん!!」


「ああ!!このくらい何ともね~ぜ!!」


 心配そうな眼差しの密に対してやせ我慢ここに極まれりな引きつった笑顔でビシィ!!とサムズアップする。


「意外と粘ったわね…でもそれもここまで…さよなら…」


「うわああああ~!!」

「きゃああああ!!!」


 舞い上が右手の短剣<だがー>を大きく振りかぶる。

 万事休すか?


「やめろ~!!」


 ガバッとマイアの腰辺りに飛び付く人物が…愛志の友達、好郎だ!!

 完全に虚を突かれたマイアは思い切り地面に倒れ込んでしまった。


「ちょ…ちょっと何するのよ!!邪魔しないで!!ああっ…?!」


 無我夢中でマイアを押さえ付けようとしがみ付いた好郎の手が、マイアの胸の膨らみをガッチリと鷲掴みにしてしまったのだ。


「あっ…ああっ…ダメぇ…まさかコイツ…もしかして?…」


 半ば脱力状態のマイア…どうやら胸を触られるのは弱いらしい…


「今の内です!!愛志お兄ちゃん…私と兄妹きょうだいの契…

契約をしてください!!」


 ここぞとばかりに密が提言する。


「さっきもあのお姉さんが言ってたな…契約って何だ?」


「お兄ちゃん…あなたは『妹召喚士いもうとしょうかんし シスターマスター』の因子所有者ファクターなんです!!」


 次々と聞いた事の無いワードが密の口から飛び出す。


「え?え?」


 頭上にハテナマークを浮かべて目が点になっている愛志。


「今は説明している時間が無いんです…!!ごめんなさい!!」


 勢いよく密が愛志の頬に顔を近づけ…




「チュッ」



 と、キスをした…


「えええええ~~~~!!!?」


 目を見開き顔を真っ赤にして超絶に仰天する愛志。

 産まれてこの方女の子にキスなんてされた事が無かった上に守備範囲ドストライクの美少女に頬とは言えキスされたのだ、舞い上がっても仕方が無いという物…。

 するとそのキスマークが眩い光を放ち、愛志が座り込んでいる地面に

 何やら魔法陣の様な物が現れ、グルグルと回り始める。


「…これで契約完了です…今から私とお兄ちゃんは晴れて兄妹きょうだいとなりました…」


 密も自分の頬に両手を添えて真っ赤になって俯く。


「あぁ~ん…契約を…阻止できなかった~はぁ~ん…」


 気の抜けた声で悔しがるマイア。

 未だ好郎とモチャモチャと絡み合ったままだ。


「さっそく誰か妹を召喚して下さい!!」

 

 密が取り出した本を手渡される愛志。

 六法全書並に厚くて重い本だった…しかもかなりの年季が入っている。


「おいおい!!それってどういう事?」


「いいから!今の状況を打破できる妹…女の子を頭に思い浮かべて!」


「お…おう…」


 あんなにしおらしかった密が急にずけずけと物を言う様になった。

 その迫力に押し切られ、愛志は仕方なく言う通りにする事にした。


『…相手の女は武器を持っていたな…じゃあこちらも武器を…

そうだ日本刀!見た目はポニーテールで紺のセーラー服だ!!

そしてオレの事は「兄者」と呼ぶ!…良し!このに決定!!』


 愛志の脳内で完全に趣味に走った妄想が繰り広げられる。

 すると手にしていた本のページが勝手にパラパラとめくれていく…。

 そして止まったページには先程愛志が妄想した少女とそっくりのイラストが描かさっていた。


「サモン!!マイシスター!!」


 何故か誰にも教わっていない召喚時の文言が愛志の口をついて発せられる。


 ゴゴゴゴゴゴゴゴ………


 愛志の足元にある魔法陣と繋がる様に前方に新たな魔法陣が展開され、そこに光が高速で渦を巻き球形に纏まっていく…。

 そして一気に拡散!!…そこには一人の少女が立っていた。

 長い髪を頭上で束ねた少女は目を瞑っていた…。

 紺のセーラー服を乱れなく着こなし、左手には鞘に収まった日本刀が握られている。

 やがておもむろに少女の目が開いていく…切れ長の釣り目には強い意志を宿している。


「貴方か?私を呼び出したのは…」


 凛とした自信に満ちた声…キッと愛志を睨みつける。


「ああ…そうだ…」


 武人然とした少女の眼力に若干怖気づく愛志…中学生くらいの少女に対して実に情けない。


「ではその前に…」


 ツカツカと愛志の方へ歩みを進める。

 益々緊張して固まる愛志…そして愛志の顎に手を伸ばし頬に口づけた。


「これで兄妹きょうだいちぎりは成った…

私は『かおる』…存分に命令してくれ兄者!!」


 はぁ~っとため息を一息つき愛志は意を決してかおるに命令する。


「よ~し!!かおる…あの銀髪半裸女をぶちのめせ!!」


「承知…!!」


 言うが早いかかおるはやての様に走り抜け一気にマイアの近くまで迫った。


「チィ!おどきなさいエロガキ!!」


 マイアは好郎を蹴とばし自分から引き剥がすとすぐさま臨戦態勢に入った。


「遅い!!」


 かおるが抜刀しマイアに斬りかかる。

 刃物同士がぶつかる甲高い金属音が響き渡った。


「…くぅ…!!」


 次々と繰り出されるかおるの剣。

 マイアも二本の短剣ダガーで何とか裁いているが次第に押されていった。

 かおるの剣裁きはあまりに高速過ぎて愛志達には全く見えなかった。


 ギャリィィィン!!


「ああっ…!!」


 一際大きな金属音とマイアの悲鳴が鳴り響くと、

 マイアの手に握られていたはずの短剣ダガーは二本とも弾き飛ばされていた。


「…くっ…!!ここは引くしかない様ね…覚えてらっしゃい!!」


 マイアが勢いよく飛び退き着地した先には何と好郎が居たのだ。

 即座に好郎の腹に拳で一撃を喰らわせる。


「がはぁ…!」


 そのまま卒倒する好郎。


「私としてもこのまま手ぶらで帰る訳にはいかないの…コイツは頂いていくわ!!じゃあね!!」


 マイアは肩に好郎を担いでそのまま猛スピードで逃走してしまった。


「あっ…!!アイツ…好郎をさらって行きやがった!!」


 だがもう既にマイアの姿は見えない所まで行ってしまった…。

 今から追いかけるのは無理だ。


「くそっ!!くそっ!!」


 好郎は己の身も顧みずに自分を助けてくれたと言うのに…。

 今の愛志には膝をつき悔しがって地面を殴る事しか出来なかった…。

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