第11話 妹は同級生
「好郎は………やっぱり来てないか…」
恐る恐る出入り口から顔を出し教室内を見渡す。
机に腰かけ友達とゲーム談義をする男子たち…。
三、四人程集まって昨日のドラマの感想を言い合う女子たち…。
いつもの平和で平凡な光景が繰り広げられている。
ただ愛志にとっては昨日の放課後の下校時からすでに非日常へと突入してしまい現在もそれは継続中だ。
そしてもう一人の非日常の経験者…彼の親友、姉歯好郎は教室内には居なかったが
恐らくこうなるであろう事は愛志も予想はしていた。
「よっ!!何、入り口でぼさっとしてるんだい?妹背愛志!!」
「うわぁ!!」
いきなり後ろから肩を叩かれ思わず大声を上げてしまった。
愛志は教室内に躍り込みすぐさま後ろを振り向く。
彼の目の前には肩に鞄を引っ掛けたショートカットのセーラー服美少女が居た。
「…あ~びっくりした…何だよそんなに驚いて…さては何かやましい事考えてたんだろう」
「うるせ~よ
まったく悪びれていないショートカットの少女に食って掛かる
愛志の心臓はバクバクと鼓動が高鳴っていた。
この少女…
すらっとした長身の身体、文武両道、
誰にでも物おじせずに話しかけるわずけずけと言いたい事を言うわ…とてもサバサバした性格で男女共に人気が有るが愛志と好郎と三人でつるむこと事が多い。
何故女子の輪に加わらないのか愛志は常々疑問に思っていた。
「今日は好郎の奴…休みみたいだな…」
「あ~知ってるよ!さっきそこでカワイ子ちゃんに聞いたから」
颯が振り返らずに親指で指した後方にはこちらに向かってペコリとお辞儀をするポニーテールの少女…好郎の妹、
愛志達の通っている学校は中高一貫校で高等部と中等部が同じ校舎内にある。
したがって授業中以外なら自由に行き来が出来る。
今にも泣き出しそうな沈んだ表情の茜…きっと好郎は昨日から家に戻っていないのだろうと愛志にも容易に推測出来た。
「おっ…おはよう茜ちゃん…」
「…おはようございます…愛志さん…」
お互いぎこちない挨拶…愛志に至っては右の頬が引きつり痙攣する始末…。
「好郎はどうしたんだ?風邪でも引いたのかい?」
完全に台詞が棒読み…わざとらしさここに極まれり…しかしどうしても平静を装う事が出来ない…滲み出る脂汗。
愛志は昔から嘘を吐くのが下手だったのだ。
「お兄…結局昨日は家に帰って来なかったんです…どこ行っちゃったんだろう…」
だが茜も日頃の元気さは何処へやら、愛志の不自然さに全く気付いていない。
みるみる目に涙が溜まっていった。
「…茜ちゃん…」
愛志は心が痛んだ…今すぐにでも昨日自分達に起こった荒唐無稽な事件を洗いざらい彼女にぶちまけたい心境だった。
しかしそれは出来ない…茜まで生命の危険に晒す事になるかも知れないからだ。
「大丈夫だ茜ちゃん!!好郎は必ず俺が探し出してやるから!!」
茜の両肩に手を掛ける。
「…愛志さん…」
茜に潤んだ瞳で上目遣いに見つめられ愛志は愛しさのあまり昇天しそうになったが何とか持ちこたえた。
「…危ない目をしているぞ妹背愛志!!さあ茜ちゃんこっちへおいで!!さもないと妊娠しちゃうよ!!」
颯が茜を愛志から急いで引き剥がし守る様に抱きしめる。
「なっ…!!颯お前…!!人聞きの悪い事言ってんじゃね~よ!!バ~カ!!」
「バカにバカ呼ばわりされたくないわね!!このロリコン!!」
「何おう!?俺はロリコンじゃねぇ!!シスコンだっ!!間違えるな!!」
「威張って言うな!!余計悪いわよ!!」
「へっ…お前、人の事言えるのかよ!!お前だってブラコンだろうがよ!!」
「なっなっなっ何ですって~~~?!」
茜そっちのけで愛志と颯の口喧嘩が始まった…しかし誰一人騒ぎ立てるクラスメートは居なかった。
(またやってるよ…)
(よくあきないわよね…)
(夫婦喧嘩は犬も喰わない…)
口々に囁き合うクラスメート達。
そう、二人の喧嘩は既に日常茶飯事になっていたのだ。
茜も慣れたものでいつの間にかいなくなっている。
「ほらほら!!ホームルームだぞ!!みんな席に着け!!」
大声で手の平を打ち鳴らしながらパリッとしたスーツを着こなした女性教師が教室に入って来た。
愛志達のクラスの担任、『
年齢2?歳 独身 スタイルは抜群で顔だちも良いが何故だか男性にモテない…
それと言うのもぶっきらぼうな男言葉を常に話し、恐ろしくキツイ男勝りな性格で男性が近寄りがたい雰囲気を醸し出しているからに他ならない。
故に女生徒からはモテモテなのは言うまでもないだろう。
(やべっ…凄いよちゃんが来た…)
教室内はまるで蜘蛛の子を散らしたかのように全員着席した。
畏怖の対象にニックネームを付けるのはよくある事…彼女は陰で『凄いよちゃん』と呼ばれていた。
「あ~~…突然だが今日は転入生を紹介するぞ!!妹背…こっちへ来なさい」
教室内が騒めきその視線が一転に集まる…妹背と言ったらみんな愛志の事だと思ったからだ。
無理も無い、何せこの珍しい名字、そうそうある物では無い。
「はい…?」
「お前じゃない…私は廊下に居る妹背に声を掛けたんだ」
「…おはようございます!!」
一人の少女が教室に入って来る。
丸縁眼鏡に両肩に掛かる三つ編み…
「あ~~~~~!!!!」
「さっきから何だ妹背!!静かにしないか!!」
「スミマセン…」
凄いよちゃんに怒鳴られ縮こまって座る愛志。
彼が大声を出すのも無理はない…そう彼女は…。
「…
深々とお辞儀をするセーラー服姿の密。
「「「何だって~~~~~!!!!?」」」」
先程よりも大きなどよめきが起こる…。
もう収集がつかない程の大騒ぎになってしまった。
どっとクラスメート達が愛志に詰め寄る。
「おい愛志!!お前にあんな可愛い妹がいたなんて聞いてねぇぞ!!」
「妹なのに何で同じクラスに転入してくるんだ!?」
次々と矢継ぎ早に飛んで来る質問…愛志は(こっちが聞きてぇよ!!)と心の中で叫んでいた。
家を出る時、密は何も言ってなかったのだから…
「あ~~~もう!!うるせ~~な!!お前らいい加減にしねぇと全員シメルぞ!!!」
凄いよちゃんの怒号が響く!!
生徒たちは一瞬で我に返り大人しく各々の席に戻っていく。
「…ったく…いいかお前ら、この子はな帰国子女でおとといまで海外に居たんだよ!!
そして本来は中等部に編入する所だったんだが…本人の希望で高等部の編入試験を受け全問正解したってんで特例で飛び級を許された優等生だ!!
仲良くしてやんな!!」
「「「「は~~~い!!!」」」」
実に騒がしいクラスである…。
「…おい…これはどういう事だ…」
愛志は隣の空き席に座った密に声を潜めて問い質す。
「だって…お兄ちゃんが単独で行動しなければならない学校は敵に狙われる確率が高いのよ?私達が付いてないと危ないでしょ?
昨日、サーティちゃんが情報を掴んで来たの忘れたの?」
昨晩まで遡る…
「これで良し!!」
トゥエニィとの戦闘を終えて帰って来たシスタールームで愛志はサーティの足に包帯を巻き終えた。
「……とう」
「えっ?」
サーティがか細い声で何かを言っている。
「…あ…りがとう…」
「どういたしまして!!」
言いなれていないのか実にたどたどしいお礼であったが愛志は満面の笑みで返す。
僅かだがサーティの頬が薄紅に染まる。
「…兄さん…気を付けて…彼女たちは早急に勝負を着けるために魔導書の
淡々と言葉を吐き出すように語るサーティ。
「それって…俺と密を暗殺しようって事か!?」
「…んっ…」
彼女は小さく頷く。
「…秘女姉さん…」
密は涙を滲ませ唇を噛みしめている…血を分けた実の姉から命を狙われるのがどんな心境なのかは愛志には計り知れない。
「…まあそうだろうな…私でも同じ策を立てる…
兄者…そこで私から提案なんだが…」
腕を組みながら聞いていた薫が口を開きこう切り出した。
「兄者と密は暫く外出するな…」
「何だって!?それじゃあ学校は…奴らとの戦闘はどうする!?」
「後は私達だけで戦う…二人が討たれればそれだけで敗北が確定してしまう…
分かるだろう?」
「俺は嫌だね!!可愛い妹達だけに戦わせて自分は高みの見物だなんて…
そんなの妹を持つ兄のする事じゃない!!」
仁王立ちで拳を握りしめる愛志。
その眼にはメラメラと激しく燃え立つ炎が宿っている。
「…そうか…そうだったな…兄者はそういう
余計な事を言って済まなかった…」
「むしろ学校の様な人の多い所の方が安全かも知れないだろう?
俺…明日は学校に行くぜ…好郎の事も気になるしな、もしかしたらあいつも登校してくるかもしれないし…
そう言う訳で明日は早いからもう寝るわ…みんなおやすみ!!」
そういってシスタールームを出ようとする愛志。
「ちょっと待ってなのお兄ちゃま!!自分の部屋で寝るのは危険なの!!寝込みをあの暗殺者に狙われるかもしれないの!!」
ジニアが腕にしがみ付く。
「あっ…そうか!!じゃあどうしようかな…」
「お兄ちゃまもここで寝るといいの!!ジニアのベッドで一緒に寝るの!!」
「えええっ!!?」
そう言って自室の方へ愛志を引きずっていく。
いつの間にかジニアのベッドはキングサイズに変わっており、枕も二つ置いてあった。
「あっ!!ずるい!!抜け駆けは駄目よ!!私だってお兄ちゃんと寝たい!!あっ…言っちゃった…」
それを阻止すべく密も顔を真っ赤にして反対の腕を強く引っ張る。
「ちょっ…!!ちょっと待ってくれ!!痛い!!イタタタ!!」
両方から腕を強く引っ張られ愛志は堪らず悲鳴を上げた。
「くっ…出遅れてしまった…」
「…いいな…」
悔しがる薫と人差し指を口元に当てるサーティ。
結局愛志は部屋の中央にある共有スペースで寝る事になり、妹達と雑魚寝する事になってしまった。
愛志を囲う様に妹達が寝そべっている。
目の前で寝ている密の寝息が顔に掛かる…。
(くっ…こんな状況で寝られるかーーーーーー!!!!)
目が冴えてしまった愛志…この後朝の5時くらいまで寝られなかったとさ…
「お兄ちゃんが登校したあと…やっぱり心配になってついて来たのよ…
私の魔法でちょっとズルしたけど…」
ペロッと舌を出す密。
「そしてみんなもこの中に居るわ…」
鞄から妹魔導書を少しだけ引っ張り出す。
承知の通り召喚された妹達は魔導書の中に入る事が出来る。
何人もの妹が転入してくるのは不自然であるからこの方法が一番良い。
これなら密たちも堂々と愛志のボディガードが出来るという物だ。
「建前は今言った通りだけど…私自身この世界の授業に興味があったんだ…」
とても楽しそうな笑み…愛志は思わず見惚れていると一発の銃弾が窓ガラスを貫通し、あろう事か彼の頭頂部の髪の毛をかすっていったのだ。
「うおっ…!!何だぁ!?」
咄嗟に頭を押さえ姿勢を低くする愛志。
それから間を置かずに銃弾が数発、教室に向かって撃ち込まれた。
けたたましい音を立て次々に割れ飛び散るガラス…。
教室内は女生徒の悲鳴が轟き、逃げ惑う生徒たちでごった返しパニックが起こってしまった。
「これはまさか!?」
「敵襲よ!!お兄ちゃん!!ここに居てはみんなに危害が及ぶかもしれない…外に出ましょう!!」
「分かった!!しかしあいつら…手段を選ばないにも程があるぜ!!
普通こういう所で手を出さないだろうよ!!」
言っても始まらない…これはもう戦争なのだから…。
一次的に攻撃が止んでいる今の内に愛志と密は姿勢をなるべく低くして教室を脱出、廊下の窓から校舎を出た。
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