第12話 凄いよちゃんマジ凄いよ!!

「…ちっ…外したわ…」


ライフルをコッキングしながら舌打ちをするトゥエニィ。

床には既に打ち終わった薬莢がいくつか転がってる。


「案外大した事無いのね…あなた殺しのプロなんでしょう?一発で仕留めなさいよ…」


彼女の後ろで秘女が毒づく、彼女の側には好郎もいる。


「言ってくれるわね…ここからターゲットのあの坊やまで悠に800メートルはあるわ…そうそう当たる物ではないのよ…」


ここは学校からやや離れたビルの屋上だ。

ライフルでの狙撃は距離が遠ければ遠い程命中精度が落ちる…

風速、気温、気圧、などの変化、引力にまで影響を受けてしまうからだ。

それでいて彼女の放った銃弾は愛志の髪をかすった事からもその実力が窺い知れるだろう。


「しかしこれが外れてしまっては次は撃てないんじゃないか?

愛志たちは廊下の方へ隠れてしまったみたいだし…」


好郎が望遠鏡を覗きながら報告する。


「これでいいのですよ好郎様…これからも狙撃されるかも知れないと印象付けるだけで良いのです…

そうすれば恐らく奴らは狙撃手を探しにこちらに誰かひとり差し向けて来るでしょう…それを我らが叩きます…

そして学校に残った者達は先に差し向けてあるマイアとドラクロアが仕留める…この作戦は戦力を分散させるのが目的ですので…」


秘女は淡々と答える。

初手のスナイピングが外れるのも想定の内…彼女は全く動揺していない様だ。


「サーティ…きっとあの子が来るわ…今度こそは仕留める…」


右目を細め舌なめずりをするトゥエニィであった。




愛志と密は体勢を立て直す為に中庭まで移動していた。

そこには色とりどりの花が咲き誇る広い庭園的な花壇があり、

中央には三階建て校舎より高い頂点が四面とも文字盤の時計塔がある。


「みんな!!出て来てくれ!!」


密から受け取った魔導書を開き妹達を呼び出した。

次々と開いたページから飛び出す妹達三人。


「やはり思っていた通り学校で仕掛けて来たな…」


腰の太刀に手を掛け周囲を警戒する薫。

それに合わせてジニア、サーティも愛志と密に背を向け二人を囲う様に展開する。

校舎内、廊下は避難する全校生徒たちがせわしなく移動しているのが見えるのだが災害時の避難誘導とは違い全く統率が取れておらず完全にパニックを起こしている様だ。

本校の生徒でない薫達を気にする者など一人もいない。


「…どうする?敵の出方が分からない以上迂闊には動けないぞ…」


愛志は頭を抱えた。

まさか相手がここまで無関係の人間を巻き込む様な手段に出るとは想定していなかったのだ。


「このままここで守りを固めて相手の出方を窺った方が良いのでは?」


密が提案する。


「…だが先程の様に狙撃されるのではないか?それにはどう対処する?」


「…壁を背にして魔法の壁を張って…それで狙撃に対してはある程度耐えられる…」


薫の疑問に以外にもサーティが口を開いた。


「そうだね!!サーティちゃん頭いい!!じゃみんな集まって!!

ピカリンピカルンピカピカリン!!光の壁よジニアたちを守って!!」


両手を前に突き出し呪文を唱えるジニア。

壁を背にした関係で半球状のバリアが展開された。

透明ではあるのだがそこはジニアらしく薄っすらとピンクがかっている。


「あれ?どうしたサーティ!!なぜバリアの中に入らなかった!?」


何故かサーティだけがバリアの外に居た。


「…私は狙撃手を探しだして排除する…それが私の仕事…」


サーティは愛志たちにそう告げると素早く中庭を出て行ってしまった。


「おい!!ダメだって!!戻って来いサーティ!!」


「お兄ちゃん!!気持ちは分かるけど落ち着いて!!狙われているのは私達で、お兄ちゃんがやられたら全てがお終いなのよ!?」


「…密…」


自らバリアを出ようとした愛志を密が引き止める。

一瞬振りきろうと腕を上げた所で彼女の顔を見て思い直す…

密の顔は涙で濡れ下唇を噛んでいたのだ。

彼女だってサーティが心配でない訳が無い…

自分が発端で始まってしまった戦いに於いて自分が今どう行動するのが最善かを熟考した結果なのだと愛志は理解し足を止めた。


(俺はなんて無力なのだろう…)


愛志は自分だけ安全圏にいて妹達に守ってもらうしかない自分を恥じ、

ただ拳を握りしめる事しか出来なかった。


「あらあら…そんな殻に閉じこもってどうしたの~?」


人を小馬鹿にしたセリフを吐きながら女性が現れた…マイアだ。


「秘女の言った通りの展開になったのぅ…あの小娘の言いなりはいささか癪ではあるがな…」


その横にドラクロアも並び立つ。


「お前ら!!全く関係の無い生徒達を巻き込みやがって!!許さないぞ!!」


「あら…何か勘違いをしているみたいね…私達はあんたが持っている妹魔導書さえ手に入れられればそれでいいのよ?

その為には手段を選ぶ必要はない…

そもそもなぜ私達がこの異世界の人間どもの命を気にしなければいけないのかしら?」


「くっ…!!」


愛志は思った…

姉陣営は好郎以外は所詮は異世界人…目的さえ果たせられれば別の世界の人間の犠牲など知った事では無いのかもしれないと。


「そう言う事じゃな…喰らえファイアーボール!!」


言うが早いかドラクロアが頭上に掲げた杖の先に燃え盛る巨大な炎の球を宿らせ愛志達が立て籠もっているバリアに向かって振りかぶった。

轟音を響かせ炸裂するファイアーボール。


「うわあっ!!」


バリア内で思わず顔を腕で覆う愛志。

しかしジニアが張ったピンクのバリアには全く効いていなかった。


「ほう…」


特に悔しがるでも無く素直に驚嘆する魔女。

小手調べとはいえそこそこ強力な魔法を放ったつもりでいたからだ。


「へへ~んだ!!そんなものじゃジニアのバリアはびくともしないの!!」


自信が宿った瞳を輝かせジニアが言い放つ。

だがこの状況にあってもドラクロアは微笑んでいた。

妖艶で真に魔女に相応しい邪悪な笑み…


「それだけの強靭な魔法障壁…維持にはさぞ莫大な魔力を必要としているであろうな…ではこれはどうじゃ?…ボルケーノプレッシャー!!」


今度は両手を広げて呪文を唱えると彼女の前面に火柱が立ち幅広い炎の壁が姿を現し勢いよく前方へと向かって行った。

その様はまるで火口で煮え滾っている溶岩の様であった。

バリアに衝突する溶岩流…だがそれはバリアの曲面に沿う様に進み

遂には包み込むように広がっていく。


「…ううっ…」


先程のファイアボールを防いだ時の余裕はジニアには無かった。

必死の形相を浮かべ全身汗だくになっている。


「ジニア!!」


「…大丈夫なのお兄ちゃま…ジニアは…ジニアは絶対諦めない…あの時の様な思いはもうたくさんなの!!」


苦悶の表情…だが瞳はまだ光を失っていない。


「さすがのお主も継続的に与えられる攻撃は辛かろう?この炎は対象物を焼き尽くすかワシが止めるまで消えはせぬ…せいぜい蒸し焼きにならぬよう足掻くのじゃな…」


腰に手を当て勝ち誇るドラクロア…だがそんな彼女に高速で迫る黒い影があった。


「ぐあっ…!?」


脇腹に何かが突き刺ささった感触ののち、激しく横に吹き飛ばされたドラクロア。

土煙を上げながら地面を抉りつつ転がっていく。

彼女はそのまま昏倒し、それにより炎の壁も消滅してしまった。


「…はぁ…」


両膝からガクリと崩れ落ちるジニア。

急いで愛志が後ろから抱き留める。

彼女の消耗によりこちらのバリアも溶けるように消えていった。


「…何者!?」


マイアがさっきまでドラクロアが立っていた場所に居る黒い影に向かって叫ぶ。

そこに居たのは紺色の女性用スーツに身を包んだ一人の女性が立っていた。


「ここは学校の敷地内だ…不法侵入者に何者呼ばわりされる謂れは無いな…」


ミドルキックの態勢で上がっていた左脚を降ろしながらドスの聞いた声で話す彼女は…愛志のクラスの担任の女教師…菅生伊代であった。


「凄いよちゃん!!…はっ!!」


愛志は思わず彼女をニックネームで呼んでしまい口を紡ぐ…が時既に遅し…。


「妹背愛志…後で職員室へ来い…」


「はひっ…!!」


鋭い眼光で睨まれ直立不動の気を付けの態勢で固まる。


「この女…邪魔しないでよ!!あんたには関係ないでしょう!?」


憤懣やるかたなく伊代に食って掛かるマイア。


「いや…関係大アリだ…お前たちは私の教え子に危害を加えたんだ…教師が生徒を守るのににそれ以上の理由が要るか?」


伊代は決して声を荒げてはいないのだが、彼女の怒りはひしひしと伝わって来る。


「それに何だその破廉恥な格好は?変質者の露出プレイなら他所でやれ」


「キィーーーーーッ!!何ですって~~~~~!!!?」


伊代の物言いに激昂するマイアは勢いよく飛び上がり伊代の頭上からツインダガーを振り下ろし襲い掛かった。

だが考えてみてほしい…布地の少ない紅のマイクロビキニに両腕に刃物を持って外を歩いていたら変質者、露出狂と間違われても文句は言えないのである。


「何っ!?」


金属同士がぶつかり合う甲高い音が響く。

伊代が咄嗟に懐から取り出した三段式警棒トリプルロッドでマイアのツインダガーを受け止めたのだ。


「こいつ…被召喚者でもないのにこの戦闘力…何者なの?」


つばぜり合いの反動を利用して後ろに飛び退き体勢を立て直すマイア。


「私とて生まれた時から教師じゃないからな…久し振りに『トリプルロッドの伊代』のロッド捌き…見てみるかい!?」


三段式警棒トリプルロッドで自分の肩を2、3度叩きながらマイアを鋭く睨みつける伊代。

普段は表情の変化が乏しい彼女であるが、この時ばかりは口元が僅かに上がっていた。


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