第7話 私の後ろに立つな!!

壁にマジックアイテム『スペースキー』で部屋を作ってから約3時間が経った。

広いドーム状の部屋と言う事で形状を利用して外壁から中心に向かって等間隔に衝立ついたてで個室に仕切り、中央の広場には八畳の畳を敷いてちゃぶ台を置き妹達共用のリビングとした。

これはこれから増えるであろうまだ見ぬ妹達の為でもある。

こうしておけば衝立ついたてを増やすことで新たに部屋を作る事が容易だ。

完全な個室では無いとは言え自分専用の空間があると言うのは落ち着くものだ。

以降、彼らはこの部屋を『シスタールーム』と呼ぶ事にした。




「おおっ!!段々部屋らしくなって来たじゃないか…」


「あっお兄ちゃん…」


様子を見に来た愛志に軽く会釈をする密。

密の部屋は木製の学習机と椅子、ベッド、本棚とそれをを埋め尽くすおびただしい量の本…と、いかにも文学少女らしい佇まいだった。

その本をペラペラと捲って見るが愛志が全く見た事の無い文字が羅列していた。


「…それはシステシアの文字よ…こっちの世界の文字とは全然違うでしょう?」


「…そうだな…まったく読めない…」


「でもお兄ちゃんは間接的にこの文字を読み上げているのよ?」


「へっ…?」


その言葉を理解できないでいる愛志のキョトンとした顔を見て密はさらに続ける。


「お兄ちゃんが薫さん達を召喚した時に足元に魔法陣が展開したでしょう?」


「…あっ…ああ…」


「通常、私達が魔法を使用するには複雑で長い特別な呪文の詠唱が必要なの…

でもお兄ちゃんはその詠唱をしないで召喚魔法を使っている…

それは正確にはお兄ちゃんが無意識にシステシア文字を理解した上で詠唱をキャンセルして魔法を実行しているの…

それがお兄ちゃん達因子所有者ファクターだけが持つ力…」


「そうか…!!じゃあ好郎の奴も…!?」


愛志の言葉に真剣な面持ちで密が頷く。

その表情を見るに因子所有者ファクターと呼ばれる者が彼女たちにとってどれだけ重要な意味を持つのかが感じ取れる。

しかし因子所有者ファクターとは何なのだろう。

異世界や魔法とは何の関わり合いも無いはずの自分が選ばれた訳は一体…。

愛志がそんな事を考えていると…


「でもそんなに気負わないでくださいね…お兄ちゃんはお兄ちゃんらしくいてくれればそれでいいですから…」


どうやら愛志が難しい顔をしているのを見て密なりに気を使ってくれたらしい。


「…ありがとう…りいな」


「どういたしまして」


バツが悪そうに頭を押さえる愛志に対して軽くはにかむ密。

分からない事をグダグダ考えても仕方ない…

これからも姉陣営との戦いは続くだろうから、おいおい色々な事が分かっていく事だろう。




「これはこれは兄者…良く来られた」


仰々しい挨拶でカオルが愛志を出迎える。

薫の部屋には四畳半の畳が敷かれており中心には囲炉裏、

ちょっとした床の間もあり鎧兜が鎮座し漆喰の壁には『一刀入魂』と書かれた掛け軸が掛かっている。


「丁度甘酒が出来た所だ…兄者も一杯どうだ?」


薪が焚かれた囲炉裏の上にはナベが掛かっており独特の甘い香りが立ち込めている。


「薫…済まないがここで囲炉裏を使うのは止めてくれないか?

この密封された部屋では煙が充満して大変な事になってしまう」


恐らく薫は召喚前は昔ながらの日本家屋に住んで居たのだろう。

しかしここは魔法で造られた特殊な空間…

この部屋も愛志の家の廊下と繋がる扉以外は何処にも隙間が無い密封された場所。

下手をすると最悪一酸化炭素中毒になり兼ねないのだ。


「何と…!!そうであったか…これは迂闊であった申し訳ござらん…」


畳の上で正座したままガクリとうな垂れる薫。

そんなに落ち込まなくても…と思う程気の毒な様子。


「それならうってつけの物がありますよ」


仕切りごしに密が顔を出しある物を持って来た。

それは円形の厚めの板…盤上には何やら魔法陣が書かれている。


「これは『ホットプレート』…魔法を使えない人でも扱える煮炊きに使う事の出来る道具ですよ」


「ブフッ!!」


思わず愛志が吹き出す。

またしてもこちらの世界にある言葉と被る名前の道具が出て来たからだ。

使い道が共通しているからさっきの『スペースキー』よりは変では無いのだが。


「…どうかした?お兄ちゃん」


「いや…何でもないんだ」


変なのと軽く首を傾げる密であったがすぐにくだんの『ホットプレート』の説明を薫に対して始めた。


「この『ホットプレート』の上に鍋やポットを置いてこの丸い印に指を置いて点火、着火、温まれ等温度が上昇する言葉を頭の中でイメージしてくれれば囲炉裏の代わりに調理が行えますよ」


「おおっ…!!これは便利だな!!煙も出ないし周りに迷惑を掛ける事も無い…

密殿!!かたじけない!!」


「そんな…して下さい薫さん…私達は同じ愛志お兄ちゃんの妹同志じゃないですか…助け合うのは当然ですよ」


深々と頭を下げる薫に対して慌てて手を振り頭を上げる様に促す密。

その様子を腕を組んで頷きながらにこやかに見守る愛志であった。




「お兄ちゃま~!!やっと来てくれた!!ジニア待ってたんだよ~!!」


ジニアの部屋の前に差し掛かるといきなりジニアが飛び付いて来た。


「見て見て~ジニアのお部屋、ピンクで可愛いでしょ~!?」


「はぁ…これまた凄い部屋が出来上がったな~」


ジニアの部屋として宛がわれたスペースは床も壁も天井も全てがピンク色に塗り替えられていた。

勿論ベッド、テーブル、ソファ、椅子、そのすべてがピンク一色…

果てはぬいぐるみの熊までもがどピンクだ。

物によっては白のフリルが過剰にデコレートされており、こういう物に免疫の無い者には一分たりともいられない部屋ではないだろうか。

あの愛志でさえ一瞬目まいに襲われたほどだ。


「…ジニアは本当にピンクが好きなんだな」


「うん!!ジニアはねピンクは平和の色だと思っているの!!

この世の物はみ~んなみんなピンクになってしまえば争いの無い平和な世界になると思ってるんだ~」


えへへと胸を張るジニア。

想像するだに物凄く胸やけのしそうな世界である…

ピンクが嫌いな人にとってはまさに地獄…

しかし仮に平和に仇為す物…武器であるアーミーナイフや銃火器、兵器である戦闘機やミサイル、軍艦がピンクとか考えると実に滑稽だ、有り得ない。

戦車がピンクなのは何かのアニメで見た気もするが…

ある研究ではピンクは戦意を喪失させる色であるとか何とか…

あながちジニアの言う事は間違いではないのかもしれない。

この子はこの子なりに平和を愛しているんだなと実感した愛志であった。




「ちょっとみんな集まってくれないか!!」


妹達の部屋を一通り回った後、愛志は中央のリビングから妹達に呼びかける。


「どうしたの?お兄ちゃん」

「お呼びか?兄者」

「は~い!!ジニアうけたまわり~!!」


続々と集まる妹達。

密と薫は正座、ジニアはアヒル座りでちゃぶ台を囲んだ。


「拠点も出来たしこれからの活動方針について作戦会議をしたいと思うんだが…」


「ああ…お兄ちゃんがやる気になっている…感動です!!」


密が胸の前で両手の指を絡ませるように握りしめ瞳を潤ませる。


「うむ!!備えあれば憂いなし!!敵を知り己を知らば百戦危うからずとも言うからな!!」


目を瞑り腕を組みながら何度も頷く薫。


「あんな危険なオバサンたちはジニアたちが成敗するの~!!」


テンション高く両手を突き上げジニアもやる気満々だ。

愛志はその様子を満足そうに見渡す。


「さっき晩飯の時間に薫に言われて考えたんだが…俺達は常に奴らに戦いの主導権を握られて来た…なら今度はこちらが優勢に立ち回れるように何か手を打とうと思う」


「うむ…その通りだが…兄者には何か策はあるのか?」


「ああ…そこでだ、諜報活動が出来る妹を召喚しようと思う…

奴ら、今日は挨拶代わりで直接仕掛けてきたが次もそうとは限らない

だから奴らの動向を探れるスキルを持った子に来てもらう」


愛志の提案で早速妹召喚の儀を執り行う事となった。

スペースを確保するためにちゃぶ台と畳はまだ入居者が居ない部屋へと片付けられた。

愛志は妹魔導書を開き精神統一を始める。


(諜報活動をするならスパイ的な感じだろうか?

それとも殺し屋?忍者…くのいち?いやそれは狙い過ぎか…

意外とイメージがしづらいな…)


頭の中の考えが纏まらない内に魔導書が既に光を放ち始めていた。


「…お兄ちゃん早くイメージを始めて!!でないと意図しない子が召喚されてしまう事があるわ!!」


「何ぃ!?」


密の助言に逆に慌てふためく愛志。

焦りで更に頭の中が混乱する。


「ええい!!こうなったら…サモン・マイシスター!!

出でよ美少女暗殺者!!」


「ええっ…!?何で~!?」


愛志の口から放たれた言葉に妹達はあっけに取られる。

何故そんなカテゴリーの妹をコールしたのかと…。


しかしもう召喚は開始されてしまった。

前回同様繋がった二つの魔法陣が床に展開…陣の中央に人型の光が出現する。

その様子を固唾を呑んで見守る一同。

やがて光は収まり一人の少女が姿を現す。

くせっ毛の強いショートカットの黒髪、真っ白なノースリーブのワンピースのフレアスカートを着た少女…そして足は何故か裸足だ。

彼女の表情は俯いているせいで前髪が目の部分を覆ってしまい窺い知る事は出来ない。


「…何か想像してたイメージと違うな…もしかして普通の子を呼んじゃった…?」


容姿を見る限りは普通の可愛らしい女の子だ。

ホッとして愛志は緊張を解き少女に歩み寄った…とその時

目の前の少女が急に顔を上げる…両の目は思い切り見開かれていた。

とても凍てついた眼光…睨まれた愛志は全身が凍り付いてしまった様な感覚に陥った。


「…あ…あ…」


声すらまともに出せない…まるで蛇に睨まれた蛙の様に身体が動かない。

そしてすかさず少女は自分のスカートを手で素早く跳ね上げる。

何と両方の太腿にはガンホルダーが巻かれており拳銃が入っていたのだ。

目にも止まらぬ速さで二丁の拳銃を抜くとそのまま銃口を愛志に向けた。


(…やられる…!!)


一瞬の出来事の筈が愛志にはスローモーションの様に感じられた。

徐々に自分に標準があっていくのが分かる。

引き金に掛かった指がゆっくりと引かさっていく。


「兄者…!!この曲者め!!」


薫が駆け足で少女の背後から迫り既に抜刀の態勢に入っている。

常に警戒を怠らない彼女の有事の反応速度は流石と言えよう。

だが白の少女の反応も異常であった。

愛志に向けていたはずの銃口は既に薫に向けられていたのだ。


「…私の後ろに立つな~~~~!!!!」


少女の怒声と共に発砲音が部屋全体に鳴り響く!!


「うわああああ~~薫~~~~!!!!」


直後に愛志の大絶叫が空気を揺るがすほど轟いた…

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