第15話 妹コントロール!!

「来い…!!来い…!!ロボ…!!来い…!!」


愛志は両手を握りしめ祈り続ける。

愛志の足元とその隣に繋がった二つの魔法陣。

今迄の召喚ならば既に人型の光が収束したのちに新たな妹が出現した物だが

今回は違った。

いつもの様に魔法陣は展開せども一向に妹が出現する気配がないのだ。


『ナンダ…ソレハ…?』


薫に止めを刺すべく彼女のポニーテールを掴み引っ張り上げていた黒い女は愛志が出現させた魔法陣に興味を惹かれたらしく薫を放り出し愛志の方へと向かい始めた。

薫を助けるという愛志の目論見自体は成功したものの今度は愛志が危険に晒される事になってしまった。

もし発動中の魔法陣に誰かが入り込んだり足で踏んで掻き消されたとしたら召喚が失敗するだけでなく何か深刻な事態が起こってしまう可能性があるのだ。


「…くっ…」


さすがに愛志も内心穏やかではいられない。

召喚に必要な脳内設定に無理があったのか…もともと妹魔導書の能力が生物以外を召喚出来ないのか…そもそも検証した事が無いから分からない…。

しかしここで何か状況を打破できるアクションは起こすべきだったし

何より妹達が命を懸けて戦っているのに自分だけが何もせずに見ている事なんて愛志にはこれ以上耐えられなかったのだ。

だが無情にも黒い女はもう一歩で魔法陣を踏みにじれる位置まで迫っていたのだが

何故かそこで動きを止めた。


『……ナンノマネダ?』


「…させない…兄者の邪魔は…させない!!」


女の足に薫がしがみ付いていた。

地面に這いつくばり身体中が傷と汚れにまみれながらも必死に縋り付く。


『ジャマダ!!ハナセ!!』


「…ぐっ!!…ああっ!!」


女は容赦なく薫の背中を何度も何度も踏みつけ顔を蹴り上げる。

薫の口元から赤い血が飛び散る。


「きっさっまぁあああああーーーーーーーーー!!!!!」


愛志は全身の血液が沸騰したような感覚を覚えた。

目に映る景色全てが赤みを帯び頭髪が逆立つ…彼の怒りは頂点に達していた。


「頼む魔導書よ!!オレに力を貸してくれ!!オレに力を…妹達を守る力を~~~!!!」


愛志の絶叫に呼応したかのようにこれまで発動状態のまま停滞していた魔法陣が目が眩むほどに強烈な閃光を放った。

見る見る光が人型を形成していく。

やがてそれは実体を持ちこの場に現れ、魔法陣は消滅していた。


「こっ…これは…」


愛志は目を見張った。

人形の様に整った顔立ちの少女がそこには立っていた…。

しっかりと目を閉じているがかなりの美少女である。

ただ異質なのは首や肩、腕、脚の関節などで機械が露出しており耳に当たる部分や前腕、胸、腰、脛に金属製と思われる装甲が付いているのだ。

要するに少女型ロボットだ…愛志の召喚は見事成功したのだ。


「よしっ…!!」


思わず小さくガッツポーズを取ってしまった。


「あれ…?どうなってんだこのコ…動かないぞ」


愛志は近付いて様子を窺う。

そのロボット少女は登場時してから目を閉じ立っているだけで一向に動き出そうとしない…これでは今の状況を覆す切り札たりえない。


『ガアアアアアッ!!』


薫を振り払った黒い女が文字通り横から飛んで来てあろう事かロボット少女を蹴り飛ばしてしまったのだ。

棒の様に固まったままの彼女はまるで飛行機のプロペラの様に高速で回転し地面を抉りながら時計塔の煉瓦の壁にめり込んで止まった。


「ああっ…!!何するんだてめーーー!!」


慌ててロボ娘の方に駆けだす愛志。

だが黒い女はその後ろを追いかけ始めた。


「なっ…!!ついて来るなよ!!」


後ろを警戒しつつ走る愛志の背中に黒い女が迫る…!

彼女が伸ばした手が届く…事は無かった。

何とクリアピンクのガラスの様なドーム状の防護壁が空中に現れそれを阻止したのだ。


「…お兄ちゃまには触れさせないの…」


マジカルステッキを携えた右手を前方に構えながらよろよろと立ち上がるジニア。

だが膝がガクガクと震え立っているのがやっと…どうやらまだ体力が回復していない様だ。


「ありがとうジニア!!助かったぜ!!」


彼女が作ってくれた僅かな隙に愛志はロボ娘の傍らまで来た。

ただ抱き起そうにも物凄く重くとてもじゃないが彼一人の力では無理だったのだ。


「ん~~~~~!!!何て重さだ…はあはあ…あれ?」


それでも持ち上げようと奮戦しているとロボ娘の胸の辺りに球形の立体映像が現れた。

中に何か文字が書いてあるが異国もしくは異星の文字で読む事が出来ない。


「だ~っ!!こんなの読めね~よ!!頼むぜ~!!」


『ローカライズ開始』


「おおっ!?」


愛志の願いが通じたのか電子音声がした後、その謎の文字群が次々と日本語に置き換わっていく。

そこにはこう書いてあった。


【マスターコードを入力してください】


「マスターコード?何の事だ?」


愛志には何の事だかさっぱり分からなかった。

パソコンなどを起動する時、IDやパスワードを入力する事がある…

恐らくはそういった類の物なのだろう…

しかし今の相手は少女型のロボット…見た所キーボードがあるわけでもなし

愛志は首を傾げるしかなかった。


「お兄ちゃま!!早くしてなの!!ジニアはもう限界なの!!」


「ジニア!?」


ジニアの造り出したマジカルシールドが黒い女の攻撃によって無数のひびが入っていた、もってあと数秒だろう。

もう一刻の猶予も無い。


「…ええいままよ!!妹よ!!」


追い詰められているせいかよく分からない事を叫びながら横たわっているロボ娘の唇を奪う。

いつもと違う状況のせいで失念する所であったが今までの契約はすべてキスでおこなっていたのだ。

今回のケースがいつも通りとは限らないがもう迷っている時間は無かった。


『マスターコード…登録完了…シスターサーキット起動します』


ヴィーーーーーーーーン…


電子音声のアナウンスがした後

何かが高速回転している様な音がロボ娘の胸から聞こえてくる。

しかし一向に彼女が起き上がる気配がない…。


「まさか…起動に時間が掛かるのか!?勘弁してくれよ~~!!」


ピピッ…


例の球体モニターに新たな表示が出た。


【簡易起動モードで起動しますか?※オプション装備が使用できません yes or no】


「イエスイエス!!早く動けるようになるならそれで!!」


完全なパフォーマンスが発揮できないのはいささか不安ではあるが

何度も言うがとにかく時間が無いのだ。


『簡易起動モード起動』


ヴォン…


ロボ娘の目が開いた。

青白く発光する瞳はカメラのシャッターの様に瞳孔が開閉を繰り返す。

そしておもむろに上体を起こし始めやがて地面にしっかりと両足で立った。


「うお~~!!やっと立ち上がったぞ!!って…あれ?」


せっかく立ち上がったのは良いがまたしても彼女は棒立ちのままだった。


「あ~~もう!!どうなってるんだ!!」


困った時の球体モニター頼み…愛志は急いで覗き込む。


【簡易起動モードは手動操縦です あなた自身が操縦して下さい】


「はあ!?何!?自動で戦ってくれないのか!?」


そうこう言っている内に愛志の目元には突如現れたサングラスの様なモニターが装着され、両手首と両足首に青白く光るリングが嵌っていた。


「きゃああああっ!!!!」


「ジニア~~~~!!」


遂にシールドが割られジニアは吹き飛ばされ地面に落下した。


『…ヨワイ…ヨワスギル…』


黒い女がユラユラと身体を左右に大きく振りながらこちらに近付いて来る。


『モットツヨイヤツヲダセ~~~~~!!!』


突然の急加速!!棒立ちのロボ娘目がけて突っ込んできた。


「おおおお~~~~~!!こうなりゃヤケだ!!やってやるぜ!!」


黒い女は走ったまま右の正拳突きを突き出す!

負けじと愛志も右の拳を放つとそれに連動してロボ娘の右腕がその動きをトレースした。


ガキイイイン…!!!


金属同士がぶつかり合ったような鈍い音がする。


『ウガァッ!!』


クロスカウンター!!

黒い女の拳を紙一重でかわしこちらの拳が奴の顔面を捉えた。

吹き飛ばされるも約10メートル先で踏み止まる。

悲鳴を上げたと言う事はダメージが通ったという証拠。


『オノレ~~~~~~!!!』


すぐさま飛び掛かって来る黒い女。

怒涛の様な彼女の攻撃をロボ娘はことごとくかわしている。

ロボ娘の視界は愛志の掛けているモニターに直結していて尚且つ攻撃の来る方向を矢印で教えてくれるのだ。

これにより操縦が初めての愛志でもある程度戦えているのだった。


「まるでVRのゲームだな!!ほらそこだ!!」


ロボ娘(愛志)の回し蹴りがヒット!!

黒い女の腹に突き刺さる。


『グエエエエエ…!!!』


ゴロゴロと後方に派手に転がり大の字に伸びてしまった黒い女。


「よし!!止めだ~~~~!!!」


今度はこちらから打って出る番…愛志はロボ娘を思い切り前進させた。


「待ってくれ!!」


いきなり黒い女の前に立ちはだかる人物が居た。

慌ててブレーキを掛ける愛志、ギリギリその人物の直前で止まった。


「なっ…お前…どうして…」


手を広げて立ち塞がったのは好郎だった。

眉間にしわを寄せ神妙な面持ちだ。


「自分達から吹っかけたケンカなのにヤバくなったら止めてくれとは随分と虫のいい話じゃないか…」


愛志は好郎に対しかなり意地悪な物言いをした。

今日の姉陣営のやり方は特にえげつなく、物凄く腹を立てていたのだからしょうがない。


「これは俺が望んで召喚した者じゃないんだ…こんな大事な人を犠牲にするような事…」


「好郎様!!その事を敵に言う必要はありません!!」


「うるさい!!」


秘女の制止も聞かず怒鳴り付ける。


「それはどう言う事だ?」


「…それは…」


愛志と好郎が対峙している時、中庭の隅で動く影があった。


「…よくもこのワシをコケにしてくれたな…ガキ共…目にもの見せてくれる…」


ドラクロアだ、伊代に蹴り飛ばされ気絶していたのだが今しがた目を覚ましたのだ。

ドラクロアは水晶の杖を頭上に掲げ呪文を詠唱し始めた。


「皆潰れてしまえ!!ファイアボール!!」


構内に轟く爆音。


「何だ今の音は!?」


彼女が放ったファイアボールは誰か個人を狙ったものでは無かった。

その着弾先は中庭の中心にそびえ立つ時計塔の中腹…

爆発と共に煉瓦をます時計塔は中腹から折れ、先端部が落下を始めた。

その落下先は…


「きゃああああああ!!!」


密の真上だった…。

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