第14話 収拾不能の大乱戦
「…くうっ…!!」
マイアが苦悶の表情を浮かべ
目の前には
「まだやるか?大人しく帰るなら見逃してやってもいいが…」
「はっ…冗談じゃないわ!!こっちにもメンツって物があるのよっ!!」
おもむろに立ち上がるマイアの目はまだギラギラとした光を宿しており
まだ諦めてはいない様子だ。
(この戦いが始まってこっち、全然活躍出来てないのよアタシは!!
そうそうかませ犬になってたまるもんですか!!)
今迄の戦いを振り返ると確かにマイアはこの姉妹戦争においてかなり影が薄かった。
召喚された妹達全員に煮え湯を飲まされ続けているのだ。
その上、伊代の様な一般人に負けたとあれば彼女の存在意義が疑われてしまう。
態勢を立て直すため一度距離を取った。
睨み合う伊代とマイア…
しかし二人の間に突然一人の人物が上空から降り立ったのだ。
サイドに銀のラインの入った黒のライダースーツに身を包む黒ヘルメットを被ったその人物はボディラインから女性と思われる。
ヘルメットのバイザー越しではあるが明らかに伊代に敵意を込めた眼光を飛ばしているのが分かる。
「!!…お前は一体!?」
伊代は素早く後ろへ飛び退き間合いを取った。
その突然現れた人物から只ならぬ殺気を感じ取ったからだ。
よく見ると身体からは微かにだが黒い陽炎の様な物がユラユラと立ち昇っており彼女の輪郭を曖昧にしていた。
(コイツはヤバイ)
…その昔、ケンカに明け暮れていたレディース時代に培われた伊代の勘がそう告げてくる。
その黒ライダースーツの女はフラフラと上体を揺らしている…襲ってくる様な素振りは無い。
傍から見ると意識が朦朧として立っているのがやっとの様に見てとれる、
が…彼女は突然に伊代に対して猛突進を始めたのだ。
まさに何の前触れもなく突然に。
「くっ…!!こいつ…!!」
咄嗟に
しかし
『オマエ…ツヨイカ?』
「?!」
不意に伊代の頭の中に声が響く。
女性らしからぬどこか機械で加工された様な耳障りでいて野太い声。
耳を通って聞こえる音では無く脳に直接刺しこまれた様な嫌悪感…
この声の主は間違いなく目の前のこの女だろう。
直後鋭い上段回し蹴りが放たれるも伊代は体勢を低くして辛うじてかわすが頭髪が数本、宙に散乱する。
ライダースーツの女は更に攻撃を続ける。
素早くも重たい拳と蹴り、伊代は両腕でガードを固め防戦を余儀なくされる。
彼女は相変わらずのポーカーフェイスであったが頬を伝う汗が動揺を隠しきれてなかった。
「…兄者…」
二人の戦いを見守る愛志に薫がいつも以上に真剣な表情で語りかけてきた。
「何だ?」
「あの者…恐らく人ではない…」
「何だって!?じゃあアイツは一体何者なんだ!?」
「あの者は…」
「…ハア…ハア…経緯はどうあれ…何とか形勢が逆転したようですね…」
薫が何か言いかけたタイミングで中庭に秘女が現れた。
ただ妙に息を切らし近くにあった柱に肘をつき寄りかかって肩で息をしていた。
その様子は単に急いでこの場に急行した疲労だけではない、どこか不自然な程疲弊していたのだ。
「秘女~~!!これはあんまりじゃないか!!こんなやり方…俺は認めないぞ!!」
続けて現れた好郎は秘女に近付くなり勢いよく彼女の胸ぐらを掴み吊るし上げた。
「…ぐっ…好郎様…何をするのですか…!!これは戦争なのですよ!?勝たなければ意味はありません!!どんな手を使っても!!」
「…おいおい…あいつら…仲間割れか?しかし好郎の奴…女の子の胸ぐらを掴むとはやり過ぎじゃね?」
その様子を怪訝な表情で見ている愛志。
彼らに一体何があったのだろうか…愛志には皆目見当が付かなかった。
「お兄ちゃん!!そんな事を言ってる場合!?あれを見て!!」
密が指差した先では伊代と黒い女の戦いに動きがあった。
『アアアアアアア!!!』
黒い女が全身に力を籠めると身体から滲み出ていた黒いオーラが見る見る彼女の両の拳に集束してゆく。
女は右脇腹の辺りに両手を持って行き上下に間隔を開けて掌を広げるとその部分に黒いオーラから形成された暗黒球が装填された。
『クラエ…
力強く前方に両腕を突き出す、禍々しき暗黒球が伊代目がけて発射された。
オオオオオオオオンンンンンン………
地獄の亡者のうめき声を連想させる不気味な音を立てて突き進む。
「何の…!!」
伊代は横に向かって駆け出した。
暗黒呪魂砲と呼ばれたその黒球は直線的に飛んで来る。
横に大きく避ければ当たらないと彼女は読んだのだ。
しかしその予想は大きく裏切られた。
何と暗黒呪魂砲は伊代が避けた方向にグニャリと不自然に軌道を変えたではないか!!
「何っ…!?うああああああっ!!!」
直撃を受けてしまった伊代。
暗黒球は電撃の様にバチバチと炸裂したのち、幾束もの黒い帯状になって彼女の身体をギリギリと締め上げる。
まるで黒い蛇が数匹身体に纏わりついているかの様だ。
やがて黒い帯は消え去り全身ズタズタにされた伊代だけが残された。
そして力無く背中から地面に倒れ込む。
『オマエ…アンマリツヨクナイ…ツマラナイ…』
「…ぐはっ…!!」
黒い女は不気味な声で不満を漏らし伊代の腹を思い切り踏みつける。
その攻撃がとどめとなり伊代はそのまま気絶してしまった。
「凄いよちゃーーーーん!!」
「貴様~~!!はあーーーーーーっ!!」
愛志の悲痛な叫びを受け薫が声を張り上げジャンプ!!剣を黒い女に向かって振り下ろす。
しかし黒い女は左手を突き出し手の平で刃を受け止めてしまった。
そしてそのまま刀身を握りしめるとぶっきらぼうに振り回し薫を背中から地面に叩き付けた。
「あああーーっ!!」
砕けた石畳の破片が飛び散る。
悲鳴を上げ派手に地面でバウンドした後のたうち回る薫。
黒い女は薫の刀を無造作に投げ捨てるとズカズカと歩みよって来る。
「まずいぞ!!こうなったらこっちもやるしかない!!」
愛志は妹魔導書を開きこう唱えた。
「サモン!!マイシスター!!来たれロボ
「ええ~~~!!!お兄ちゃん!!何なのそれ~~~!!?」
「何って…心優しき科学の乙女だよ!!人ならざるが故に人に理解を深めようと頑張る健気さ…最高に萌える設定じゃないか!!」
ちょっと愛志が何言ってるのか分からない状態の密。
口を開けてぽかんとしてしまう。
だがこの突拍子の無い所が愛志の真骨頂なのだ。
「これは賭けだ!!あんな化け物…もうロボ
アニメとかゲームなどのサブカルチャーが発達していない世界から来た密からすると全く理解不能の召喚であったが愛志は至って大真面目であった。
勢いで呪文を唱えてしまったが取り敢えず魔法陣は正常に展開している様だ。
果たして愛志の目論見通りロボットの妹は召喚に応じてくれるのだろうか…。
いや、そもそもそんな都合の良い創作上の存在が異世界に実在しているのだろうか?
密のそんな心配をよそに魔法陣は回り続けていた。
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