第26話 決意の夜
「みんな集まってくれ…明日の決戦に向けて話がある…」
外は既に夜の帳が下りていた。
シスタールームに戻ってすぐ、愛志は妹全員に招集をかけた。
勿論集合場所は中央の畳敷きのサロンだ。
妹達は真剣な眼差しの愛志を見て只ならぬ覚悟の様な物を感じ取ってか無言で集まり、それぞれに畳に座った。
「僕は手が離せないから話ならここで聞かせてもらうよ」
ルミはみんなに背を向けたままアイビーの修理に没頭していた…忙しなく動く彼女の手元。
「…分かった…それじゃあ今日、俺が掴んだ情報も含めて作戦会議をしたいと思う…」
ここで敵の黒い怨霊の中に颯が居るかも知れない事と好郎が脅されて協力している旨を皆に伝えた。
「なるほど…かの怨霊は私が相手をしよう…私の奥義『死致天罰刀』ならその娘を傷つけずに怨霊から引き剥がす事が可能だ」
「うん…俺もそれが最善だと思う…任せたぞ薫」
「任せろ兄者!!」
頼もし気で力強い返事をする薫…彼女の瞳はやる気に満ち溢れていた。
これは奥義を修得した退魔士としての自信の表れでもあるのだろう。
「それでは魔女の相手は誰がしますか?」
「…それは私がお相手いたしましょう…魔法と妖術…どちらが上か…一度勝負をしてみたかったのですわ」
密の問いに千里が答えた。
千里は妖艶で不敵な笑みを浮かべている…その笑みは見る者の背筋に冷たい物を感じさせる…彼女を敵に回さなくて良かったと心底思った愛志。
「後は二刀流のマイアとあのサイボーグ女か…参ったな…どちらかを俺が相手をしたとして、もう一方は誰が相手をすればいい…?」
「………」
押し黙ってしまった一同…完全に人員が足りないのだ。
「仕方ない…もう一人召喚しよう」
愛志は立ち上がり開けたスペースで魔導書を開き、いつもの様に召喚を開始した。
「サモン!!マイシスター………あれ…?」
愛志の視界がグニャリと歪んだのだ…頭が割れそうなほどの頭痛と吐き気が彼を襲う。
堪らず膝を着き床に突っ伏してしまった。
「きゃあ!!大丈夫お兄ちゃん!?」
「大丈夫か!?兄者!!」
慌てて密と薫が愛志のもとに駆け寄り抱き起した。
「はぁはぁ…何だったんだ今のは?」
千里が歩み寄り愛志の額に掌を当てる。
「…ご主人様…あなたの魔力は今、著しく消耗しています…この状態で召喚を試みるなど自殺行為に等しいですわ」
「何…だと…?」
愛志が密に出会い
身体に負担が掛かっていても不思議はないのだ。
無理をし過ぎると最悪命を落としかねない…。
「兄者は無理をするな…残りの一人は私か千里が上手く立ち回って相手をしてやるさ…」
「そうですわ…何でしたら魔女を瞬殺してからもう一人の相手をしてもよろしくてよ?」
お互いの顔を見つめ微笑み合った。
昨日の敵は今日の友を地で行く二人であった。
「あ~盛り上がってる所に水を差して悪いんだけど…敵にもう一人伏兵が居る可能性は考えておいた方がいいよ」
声の主はルミだった。
相変わらずこちらに背を向け作業をしていた。
「何を根拠にそんな事が言える?」
密と薫に両側から支えられながらルミのもとに移動する愛志。
「兄君が六人を召喚出来たと言う事は君のお友達である敵のマスターも六人召喚できる可能性があるだろう?自分に出来た事が相手には出来ないとは考えない方がいいよ」
「ぐっ…」
愛志は歯を食いしばる。
決戦の期日を決めた三日前から今日までに愛志は千里とルミの二人を召喚している…
そして好郎はこちらが分かっているだけでもサイボーグ女を一人召喚している…
図らずもそれまでの両陣営の被召喚者の人数は同じであったから、確かにもう一人姉陣営に居てもおかしくはないのだ。
「…何だよそれ…ますます絶望的じゃないか…」
ガクリと膝を着く愛志…部屋全体に絶望感が漂う…。
「なるべく僕が早くこのコを完成させるから何とかそれまで持ちこたえてよ…このコさえ完成すれば必ず形勢逆転できるからさ…」
そう言いつつも彼女の手が止まる事は無い…黙々と作業を進めている。
「それよりも兄君はもう休んだ方がいい…そんな疲れ切った状態じゃあ『アイビーアームズ』を操る事もままならないよ?」
「そんな訳に行くかよ!!まだ考えなくちゃいけない事が山ほど……」
そこまで言いかけて愛志の身体から力が抜ける…突然だったので密と薫の身体に彼の全体重が重くのしかかる。
「お兄ちゃん!?どうしたの!?」
「千里…お前…何かやったろう…」
「はて…何の事でしょう?」
薫の予想通り千里が背後から術を掛けて愛志を眠らせたのだった。
愛志の事だ、皆が休めと口で言って聞かせても絶対に『うん』とは言わなかっただろう。
「恩に着るよ千里君…兄君は真面目で頑固そうだったからね」
「ええ…自分の命を投げ出してまで血の繋がらない妹の無事を優先する…そんな人ですもの…今はゆっくりお休みなさいませ…」
みんなで愛志を畳に寝かせて布団を掛ける。
「…そう言えば薫さん、千里さん…お兄ちゃんが死んだって話は本当?」
ビクンと軽く体が揺れる二人…珍しく千里がしまったという顔をした。
「あ~…それはその~…なんだ」
「こうなってしまったら仕方が無いでしょう薫さん?」
「ぐっ…」
薫と千里は山で起こった事を密に話す事になってしまった。
「やれやれ…でも君たちと居ると飽きないよ…」
彼女たちの会話を背にアイビーを組み立てながらルミは苦笑した。
ひとしきり二人の話を聞いた後、密は大粒の涙をポロポロと流し始めた。
「お兄ちゃん…ごめんね…ごめん…」
「密が責任を感じる事は無い!!これも全て私の不甲斐なさが招いた結果だ!!どうか遠慮なく私をなじってくれ!!」
「あの時…私も悪ふざけが過ぎましたわ…ごめんなさい」
しゅんとする一同…。
「だからこそ私達がしっかりしなきゃ…」
「そうだとも!!二度と兄者を死なせてなるものか!!」
「今度こそご主人様の助けになりますわ!!」
『私も頑張ります…マスターの力になれなかったこれまでの分も…』
「今時珍しい男だよね兄君はさ…でもそういう奴は嫌いじゃないよ僕…」
馬鹿だが絶対に妹達を裏切らない愛志の人柄が期せずして妹達に団結をもたらしたのだ。
眠っている愛志には及び知らない事だが…。
「なあみんな…一つ相談があるのだが…」
薫がとある作戦を提案して来た…皆、静かに聞きいっている。
「ウフフ…薫さんにしては珍しい…いいですわ、その悪だくみにに乗りましょう」
千里が袖で口元を隠しクスクスと笑う。
「うん…これ以上お兄ちゃんに負担を掛けられないもんね」
胸の前でギュっと拳を握る密は鼻息が荒かった。
『私も微力ながらお手伝いします…』
バラバラの状態のアイビーも賛同する。
「やれやれ…君たちの無謀っぷりと来たら…いいよ、後は僕が何とかしておこうじゃないか」
首をすくめながら呆れているルミだが全く困っている素振りが無い…むしろ面白がっている節があった。
薫が提案した作戦とは何だったのか…。
姉陣営との決戦は明日…泣いても笑っても最後の戦いだ。
果たして愛志と妹達は勝利を勝ち取ることができるのだろうか?
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