シスターマスター～異世界から妹を召喚する本を手に入れた件～

第５話 魔女っ子をもって魔女を征す

セクシー魔女ドラクロアの持つ杖の先にある水晶に光が集まりやがて大きな火球を形成する。

「さあワシを楽しませて見せよ！！」

そう言うと水晶から次々と矢継ぎ早に無数の火球を発射した。

野球のボール大の火の玉の群れが愛志達を襲う。

「うわあ！！」

「きゃあ！！」

愛志と密はただ逃げ惑うばかり、この二人に戦闘スキルは皆無なので仕方が無いのではあるが、避けた先に被弾した近所の塀や家の壁は穴が開いたりブスブスと燻り焦げ臭い煙が立ち込める。

「危ないだろ！！火事になったらどうすんだ！！」

「フン…それはワシの知った事ではないな…これは戦（いくさ）じゃぞ！！そうなるのが嫌なら貴様らも反撃してみよ！！」

魔導書に召喚された者はこちらの世界の人間で無い事が多い…

当然目の前の魔女もそうだ。

よって愛志がいくらこちらの世界の常識を持ち出して抗議しようともドラクロアは全く意に介さない。

尚も火球攻撃は続く、しかし今度は薫が愛志と密の前に立ちはだかり

目にも止まらぬ刀捌きで次々と火の玉を弾き落とし切り落とした。

「ヒュ～！！やる～！！助かったぜ薫！！」

「…つまらない物を切った…」

チンと刀を鞘に納め余裕の表情の薫。

「ホウ…まともに戦える者もおるではないか…ではこれはどうじゃ？」

ドラクロアは理解不能な言語を高速で唱えると杖に一際大きい火球を出現させる。

そしてその道幅一杯はあろう巨大火の玉を薫目がけて落下させた。

「…くっ…！！」

火の玉を刀で受ける薫、左手を刀の峰に当てて全力で押し戻そうとするが

その威力に徐々に押し負け靴が地面を滑り後ずさる。

「防いだか…ならば…」

パチン！と指を鳴らすドラクロア。

すると火の玉は眩い光と轟音を放ち大爆発を起こしたのだ。

「ああああああ！！！！！」

「薫！！！」

火だるまになり吹き飛ばされる薫。

そこへ愛志が薫の後ろに回り込みしっかり受け止めるがとどまる事が出来ず愛志は地面を背中でスライディングしてしまう。

「痛たたたた！！！熱ちちちち！！！」

「………」

「大丈夫！？二人とも！！」

密は着ていたブレザーの上着を急いで脱ぎ、地面で薫を抱いて転げ回る愛志の火を消す為に覆い被せ、何とか消火に成功する。

だが薫は全身に大やけどを負ってしまい気絶している、セーラー服もあちこち焼け落ち髪も燃えてしまった。

「あ～あ…今回はあたしの出番は無さそうね…」

退屈そうに戦況をみているマイア。

「これ程の魔女を召喚出来るとは…好郎様は当たりかも知れませんね…」

微笑をたたえちらりと好郎を見やる秘女。

「ふへへへへ…うへへ…」

だが彼はまだキスのショックから立ち直っていなかった。

「…酷い火傷…！！早く手当をしなきゃ…！！」

そうは言うもののどうしてよいか分からず狼狽える密。

このままでは薫は確実に命を落とすだろう。

「…許さん…」

ギリッと奥歯を噛みしめる愛志。

ぼんやりと愛志の身体を覆う様に光が滲み出している。

「…え？…お兄ちゃん…！！」

只ならぬ愛志の気配に一瞬身震いする密。

愛志の顔はまるで鬼の様な形相であった。

「許さん…！！貴様…！！許さんぞ！！！妹を傷つける奴は断じて許さん！！！」

愛志を覆っていた光が爆発的に広がり放射状に揺らぐ。

殺意にも似た感情の籠った眼差しをドラクロアに向ける。

「…何じゃ…この禍々しくも純粋な想いの宿った強大な魔力は！？

これが魔導書の因子所有者（ファクター）…」

ドラクロアも動揺を隠せない。

すかさず愛志は妹魔導書を開き召喚を開始した。

「サモン！！マイシスター！！魔法少女！！」

愛志の足元とその前方に魔法陣が展開、その魔法陣の中心で徐々に光が人の形を成す。

「は～いお兄ちゃま！！ジニアだよ！！宜しくね！！きゅぴーん☆」

今迄のシリアスな雰囲気をぶち壊す甘い声と妙な言葉使い…

愛志以外、敵も味方もその場にいた全員が凍り付く。

全身どピンクのフリフリ衣装に身を包んだピンクツインテールの幼女がそこには居た。

右手には先端にハートから羽根の生えた造形のステッキを持ち

左手はピースサインの指で左目を挟むポーズを取っている。

焦りもあってか契約のキスをする為愛志からジニアに近づいて行く。

二人には身長差があるので屈まなければならない、すると…

チュッ！！

何と唇同士でキスをしてしまった！！

愛志が近づくタイミングとジニアが唇を突き出すタイミングが妙に合ってしまった様だ。

「わわわっ…！！ごめんジニア！！」

「もう～大胆なんだから～責任とってねお兄ちゃま（はぁと）」

頬に手を当てて左右に顔を振るジニア、顔は耳まで真っ赤になっている。

「こっ…こんな時に何やってるんですか～！！」

普段の彼女からは想像出来ないくらいの大声で密が怒鳴り付ける。

こちらも顔が真っ赤だ。

「違うんだって！！これは事故だ！！あ…そうそう…急いでくれジニア！！薫の火傷を治してやってくれ！！」

何とか誤魔化しながらジニアに薫の治療を頼む愛志。

「うけたまわり～！ジニアにおまかせっ！！

ピカリンピカルンクルクルリン！！痛いの痛いの飛んでいけ～！！」

ジニアがふざけた呪文を唱えハートのステッキを薫にかざすと全身に拡がっていた火傷が見る見る消えていくではないか！

愛志は先程の召喚時、回復の魔法が使える魔法少女が来る様にと強く念じていたのだが、とてつもない能力を持った妹を召喚した様だ。

「どうなってるのよ？何とかしなさいよ！」

「お前に指図される謂れはないぞ！見ていろ今片付け…」

「させるか！！」

ガキイイイン！！！

マイアとドラクロアが言い争っている間に回復した薫がいつの間にか

姉陣営に切り込んでいたのだ。

寸での所で薫の刀を杖で受ける。

「ここまで間合いを詰めれば魔法の詠唱に集中できまい！！」

薫の斬撃の嵐がドラクロアを封じ込める。

彼女は杖で防御をしているせいで呪文が唱えられないでいた。

「おいお前！こう言う輩はお前の担当だろう！！何とかしろ！！」

「分かってるわよ！！」

堪らずマイアに救援を乞うドラクロア、慌ててマイアが駆け寄るが

「きゃん！！何よこれ！？」

突然マイアの足首、太腿、上半身を光の環っかが締め付け、顔面から地面に倒れ込んでしまったのだ。

「ジニアに背を向けるなんて油断し過ぎよ　オ・バ・サ・ン」

「キーッ！！何ですって～～～！！！」

この光の環はジニアの拘束魔法だ。

剣士には剣士、魔法使いには魔法使いを当てるのが一見戦略としては正しい様だが均衡状態に陥る恐れもある。

だが薫は敢えて魔法使いのドラクロアを狙い

ジニアは剣士のマイアを狙ったのだ。

急造チームだが上手く連携が取れた様だ。

「クッ…！！これ以上はいけない…」

秘女は懐から黒い球を取り出すと思い切り地面に叩き付けた。

キンキンキンキン…！！！

「何だこれは！？みんな気を付けろ！！」

「いやぁ…耳が痛い…」

金属音に似た耳障りな音と真っ白い煙幕と眩い閃光…！！

妹陣営の者は軽い目まいを起こし立ち尽くす。

「今日の所はこの辺にしておいてあげるけど…見てなさい！！次こそは必ず姉の方が妹より優れている事を証明して見せるわ！！」

秘女の捨て台詞が聞こえ煙幕が晴れると、もう既に姉陣営の人間は姿をくらましていた。